専門誌では読めない雑学コラム木村和久の「お気楽ゴルフ」連載●第128回 スマホ版『みんなのGOLF』が登場し、話題になっているようです。私も初期のプレイステーション版は結構やっていたので、昔を懐かしんでトライしてみました。 感想を言うと…
専門誌では読めない雑学コラム
木村和久の「お気楽ゴルフ」連載●第128回
スマホ版『みんなのGOLF』が登場し、話題になっているようです。私も初期のプレイステーション版は結構やっていたので、昔を懐かしんでトライしてみました。
感想を言うと、スマホ版のわりには”こってり”した内容で、単純明快とはいきません。無料でそこそこ遊べるし、ゲーム好きにとっては、結構ハマってしまうのではないでしょうか。
そんなわけで、今回はプレイステーション版の『みんなのGOLF』が登場した20年前、1997年頃のお話をしたいと思います。
『みんなのGOLF』との最初の出会いは、雑誌の企画でした。ゲームの制作側と対談することになったんです。とある練習場の豪華なVIPルームで撮影しながら、「コース設計はどうしているのか」といった話で盛り上がりました。
そうして、当時からコース設計にすごく興味があったので、「このゲームには井上誠一とピート・ダイの設計理念が入っている気がするんですけど?」と、制作サイドの方に質問をしました。
すると、先方は「まさにそのとおり。ふたりの巨匠のコースを丹念に調べて、そのエッセンスを取り入れている」とのことでした。制作サイドの方の話をさらに詳しく聞くと、井上誠一氏はすでに他界されていて無理でしたが、なんとピート・ダイ氏へのインタビューは実現できたそうなんです。
アメリカにたまたま行かれたとき、挨拶がてらダメもとで取材を申し込んだんだとか。すると、ほぼ諦めていたのに、息子のペリー・ダイと一緒に快くインタビューに応じてくれたそうです。いやいや、これはすごいというか、奇跡的な体験ですよ。
そのときの又聞きになりますが、制作サイドの方からうかがったピート・ダイの抱腹絶倒のインタビューを、記憶の渦から呼び起こして、ここで一部ご紹介したいと思います。
まず、ピート・ダイは日本でもたくさんのコースを造ってきましたが、「どのコースがお気に入りですか?」という質問を投げかけたそうです。
それについて、彼から返ってきた回答はとても意外なものでした。山梨県にある「メイプルポイントゴルフクラブだよ」と答えたというではないですか。
ピート・ダイのコースイメージと言えば、非常にサディスティックで、「天国か地獄か選びなさい」的なレイアウトですよね。代表的なのは、PGAツアーのプレーヤーズ選手権の会場となるTPCソーグラス(アメリカ・フロリダ州)の17番ショートとか。ほぼすべて池に囲まれたようなアイランドグリーンというのが、定番だと思っていました。
ならば、日本なら千葉県のきみさらずゴルフリンクスあたりがお気に入りだろうと思うのが普通です。だから、その予想もしなかった回答には、一同かなりびっくりしたそうです。
そして、その驚きの感想を伝えると、なおも驚くべき答えが返ってきたと言います。
「アイランドグリーンは、スポンサーのリクエストで作っていたんだ。あんな難しいレイアウトを、いろいろなところに造りたくないよ。ゴルフはあくまでもフェアで、誰もが楽しめる設計にしなくちゃ」
ピート・ダイのコースイメージとは、まさに間逆の発言。一同がさらに驚愕したことは十分に想像できます。
意外にも、難しいコースのレイアウトは好まないというピート・ダイ氏
ピート・ダイ設計のコースは、日本に20箇所ほどあるのですが、そのなかでもメイプルポイントGCは、デザイン的にはノーマルなほうです。ピート・ダイ設計にしては、おとなしく見えます。周囲は山に囲まれていますが、コースはほぼ平らで、びっくら仰天です。
それでも、実際にラウンドをすると、すべてのフェアウェーにアンジュレーションがあり、ティーショットでナイスショットをしても、2打目には多彩な打ち方が求められます。コースランキングなどの評価も高く、過去にはプロのトーナメントが開催されるなど、チャンピオンコースとして、その評価は定まっています。
日本では、ピート・ダイ設計というと、バブルの象徴のようなイメージで捉えていたのですが、その認識も違ったようです。彼はこう語っていたそうです。
「バブルの象徴? 何を言っているんだ。こっちはお金がないから、材木を安く仕入れて、それをバンカー周りに配置して、コストを安くしたんだ。バブルなんて、無縁だよ」
いやぁ、びっくりです。材木を並べたのは、予算がないからだったのかぁ~。てっきり、オサレにするための演出だと思っていたのですが……。
そのバンカー周りに枕木や石を配置した”枕木デザイン”に関してですが、井上誠一は反対の立場を取っていました。それはなぜか?
「アンフェアになってしまうから」というのが答えのようです。
たまたま石や枕木にボールが当たって跳ねると、予想外の方向にボールが飛んでしまうことが十分に考えられます。せっかくグリーン近辺までボールを運んできたのに、また変な方向にボールが飛んでいってしまうのが許せなかったようです。
両巨匠とも、なかなか含蓄(がんちく)のあることをいいますなぁ~。
私が知る限りでは、井上誠一とピート・ダイが直接対面したという記事の記憶はありません。たぶん、世代が違うから、クロスするタイミングがなかったのでしょう。
でも、ピート・ダイは井上誠一のことをすごく認めていたと言います。
「井上さんのデザインは好きだよ。ゲームの中で一緒に競演できるのは、実に素敵じゃないか」
インタビューの際に、そんなことを言っていたそうです。
ピート・ダイは36歳からゴルフ場の設計を始めた”遅咲き”の人で、以前は保険のセールスマンをやっていました。それでもゴルフの腕前はプロ並みで、全米オープンにも出場したことがあるのです。
設計の原点は、やはりスコットランドのコースなんだとか。何度か訪れて、それを現代風にアレンジしたコース造りをしてきたそうです。
そういえば、メイプルポイントGCも豪華なスコットランド風?っていうのでしょうか。決して華美ではないものの、淡々としながらも難しいコースです。むしろクラブハウスのほうが派手で、個人的には好きですけどね。
そんなエピソードも、もう20年も前の話。当時、ピート・ダイはすでに70歳を過ぎて、ほとんど引退していました。今は何をしているのでしょうか。
実は、なんと91歳でご存命だそうです。長生きのピート・ダイに敬意を表して、彼が設計したコースを一度、ラウンドしてみてはいかがでしょうか。
木村和久(きむら・かずひさ)
1959年6月19日生まれ。宮城県出身。株式をはじめ、恋愛や遊びなど、トレンドを読み解くコラムニストとして活躍。ゴルフ歴も長く、『週刊パーゴルフ』『月刊ゴルフダイジェスト』などの専門誌で連載を持つ。
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