10月28日、福岡・レベルファイブスタジアム。ラグビー日本代表はJAPAN XVの名義で、世界選抜との非テストマッチ(国際真剣勝負と記録されない試合)に臨んだ。空中戦とぶつかり合いを主戦場とするLOには、姫野和樹、ヴィンピー・ファンデルヴ…

 10月28日、福岡・レベルファイブスタジアム。ラグビー日本代表はJAPAN XVの名義で、世界選抜との非テストマッチ(国際真剣勝負と記録されない試合)に臨んだ。空中戦とぶつかり合いを主戦場とするLOには、姫野和樹、ヴィンピー・ファンデルヴァルトという初選出組が並ぶ。6月のアイルランド代表戦などで出場した谷田部洸太郎、ヘル ウヴェは控えに回った。

 チームは4年に1度のラグビーワールドカップ自国大会を2年後に控え、今年の11月4日には横浜・日産スタジアムでオーストラリア代表戦に挑む。身長2メートル超の選手も多い世界クラスのLOとのバトルに、身長190センチ以下の代表未経験者が名乗りを挙げる。

「LOとしては身長が足りないのではとも思いますが、ジャパンで出られるのならどこでもかまいません」

 こう語ったファンデルヴァルトは、身長188センチ、体重106キロの28歳。出身の南アフリカではキングズやブルズなどで国際リーグのスーパーラグビーを経験し、いまはNTTドコモ加入5年目を迎えている。LOよりひとつ後方のFLを本職とするが、今季の国内トップリーグでは献身的な資質をLOの位置で活かしている。日本代表にLOとしてリストアップされたのも、その流れだった。

 とはいえ世界選抜戦後は、得意とするブレイクダウン(ボール争奪局面)で反省点を挙げた。

「マイボールの時、ボール(の位置)を越えたクリーンアウトができずにスローダウンをされてしまいました」

 9月からの候補合宿では、HOやNO8の選手が防御ラインへ鋭く駆け込むよう攻めの形に微修正を加えた。もっともこの日は、ランナーがタックラーに捕まってできるブレイクダウンで難儀。システムの機能する場面が限られたか。

 例えば前半25分、敵陣22メートル線付近左中間。NO8の位置から鋭く駆け込んだリーチの裏で、ファンデルヴァルトが球を受け取る。そのまま防御網へ勢いよく突っ込むが、2人のタックラーに羽交い絞めにされた。後方の選手がファンデルヴァルトの言う「ボール(の位置)を越えたクリーンアウト」をしきれず、スムーズな球出しができなかった。ここでは相手の反則が取られて日本代表はペナルティゴールで加点も(6-14)、ファンデルヴァルトのサポートに入った選手はこう悔やむ。

「相手はボールと身体を担ぎ上げるタックルをしていた。それを2枚目(サポート)がはがさないといい球は出ない」

 このサポート役は、実はもうひとりのLO、姫野だった。昨季は帝京大のLOとして大学選手権8連覇を果たし、今年からトヨタ自動車の新人主将として奮闘中だ。身長187センチ、体重108キロのランナーで、現職はFLだが、こちらも代表でのポジションにこだわりはない。

「(相手の)ブレイクダウンの強さはありました。そこは、すごいなと思いました。簡単にははがれない。SHにあまりいいボールを出せていなくて、それがアタックにも影響する…。ブレイクダウン(での仕事の質)は自分自身でもまだまだ足りないと思いますし、改善が必要です」

 この日の姫野は、ラインアウトのコーラーを務めた。自軍の配列する人数や相手の陣形、前後のラインアウトの成否などをもとに、捕球位置を決める。攻撃の根っこを支える頭脳労働だ。

 もっとも姫野は、このコーラーをいままでどのチームでもやったことがなかった。ただでさえ不慣れなうえ、相手は世界的名手で舞台は国際試合だったということだ。

 後半15分、自陣10メートル線上右の1本。姫野はリーチ、途中出場のウヴェを集めて二言、三言、告げ、ラインアウトの体制に入る。ウヴェを捕球役にしたものの、楕円球は後ろへそれる。世界選抜のWTB、藤田慶和のトライを許し(16分、ゴールも成功で13-33)、間もなく姫野はベンチに退いた。

「コールを出しても観客の声で通じない、聞こえていないといったことがあった。そういうことのイメージができていなかった。それなら、ラインアウトに入る前にサインを決めちゃって入ろう…とか、練習のなかでは味わえないことがありました」

 27-47での敗戦を受け、ファンデルヴァルトは「ビデオで、何がこの結末を生んだのかを見返したい。もしかしたら、ラックができた時に(周りに)回っていく人数が少なかったり、回り過ぎたりと、枚数が合わないところがあったかもしれません」と防御について反省する。

 姫野は持ち前の突進力は随所で披露も、「余裕がなかった。そこが自分のパフォーマンス(の不満足感)につながった」。持ち味を発揮するには、さらなる戦術理解が必要だと言った。

「自分はあまり考えずにプレーした方がいい。ジャパンのラグビーを自分のなかに落とし込んで、考えずにできるくらいにできたらと思います」

 ジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチ(HC)が率いて2年目の日本代表は、痛みを伴うバージョンアップの最中か。防御のテコ入れに、この秋からジョン・プラムツリー新ディフェンスコーチを招いた。選手選考の面でも、怪我人の多いLOを中心に若手を起用している。

 8対8で組み合うスクラムでは、始動当初からいる長谷川慎スクラムコーチの教えが浸透。「相手がバラバラに組んでくるのに対してJAPAN XVは8人で組もうと意識したのですが、ちゃんと固まれた」と姫野は言う。この日も、押し込みを得点につなげた。

 一方、ジョセフHCの担当領域であるラインアウトでは、姫野が「まだまだ経験値が足りないと素直に思います」と自責の念を明かす。最後は、笑顔で締める。

「ただジェイミーにコーラーをやらせてもらって、いい経験になっている。駆け引きなどを学んでいかなくちゃいけない。勉強になりました。考えることが多くて。ふふふふ」

 雨に見舞われたこの日の試みは、いかなる形で結実するだろうか。(文:向 風見也)