ニューヨーク・タイムズは、現在の選手のセカンドサービスが、2013年に比べてより攻撃的になってきていると報じている。攻撃的なセカンドサービスを打つということはどんなリスクとメリットがあるのだろうか?ゴラン・イバニセビッチ(クロアチア)はそれ…

ニューヨーク・タイムズは、現在の選手のセカンドサービスが、2013年に比べてより攻撃的になってきていると報じている。攻撃的なセカンドサービスを打つということはどんなリスクとメリットがあるのだろうか?

ゴラン・イバニセビッチ(クロアチア)はそれを「クロアチアンルーレット」と呼んだ。ボリス・ベッカー(ドイツ)はそれは「自分自身を表現する方法」だったと言った。ピート・サンプラス(アメリカ)は「出来たからやっただけだ。」と言った

ここで言っているのはセカンドサーブをファーストサーブのように打ち、最終的にサービスゲームを奪取するというテニスの戦術についてである。この、リスクの高い動きは目新しいものではない。サンプラスもベッカーもイバニセビッチも10年以上前に引退した選手だ。しかしニック・キリオス(オーストラリア)、ジャック・ソック(アメリカ)、アレクサンダー・ズベレフ(ドイツ)のような新しいスター選手の間でもこのような戦術が再び多用されるようになってきている。

ESPNアナリストで指導的立場のコーチであるダレン・カヒルは「2本目のサーブが武器になる、と時が経つにつれ分かってくると、多くの若い選手は少しくらいのダブルフォルトなど大喜びで受け入れる。彼らはその武器によって生き、その武器によって死んでいる。」と語った。

テニス・オーストラリアのゲームインサイトグループ (GIG)の記録によると 、「全豪オープン」の最近の男子の試合ではダブルフォルトが増えている。2013年には2本目のサーブが得点になる割合は5%であったが、2017年には8%になっている。GIGは2本目のサーブの攻撃性を計測する測定法を開発し、データ科学者ステファニー・コバルチクは「その計測によると、2014年に攻撃性は有意に上昇し、それ以来同じ水準に留まっている。」と述べている。

最近ジョン・イズナー(アメリカ)のコーチをつとめたジャスティン・ギメルスタブは「これは理屈に合った反応だ。なぜなら男子は女子に比べずっとうまく打ち返すことができ、もっとも強力なサーブでもうまく無効化することができるからだ。」と語った。イズナーは高身長で、強力なサーブを武器にするアメリカの選手である。ギメルスタブはまた「テニスでは完璧にコントロールできるショットはサーブだけだ」とも語った。

サンプラスもベッカーもイバニセビッチもイズナーもキリオスもズべレフも体が大きく、サーブ時には素晴らしい動きをし、素晴らしい腕を持っている。そして彼らは大事な場面で、自ら進んで高速ボールを叩き出す自分の能力に賭けているのである。

GIGによると、セカンドサーブで得点が入った時のラリーの長さは、2016年には5ストロークだったが、2017年には4ストロークとなったとも記録されている。これはプレイがより高速になり、リターンがより攻撃的になったことなどが原因と考えられる。

GIGのデータは、平均的に見て男子はファーストサーブに比べてセカンドサーブをラインにより近いところに打ち込んでいることを示しているが、これは女子にもあてはまる。「全豪オープン」における女子のセカンドサーブの速さは2017年には時速137キロメートルだった。男子のそれは時速150キロメートルである。

いまだにパワーアップしている男子もいる。「全豪オープン」におけるキリオスの2本目のサーブの速さは、2014年には時速157キロメートルだったが、2017年には182キロメートルになっている。

「マイアミ・オープン」で今年ロジャー・フェデラー(スイス)に接戦の末敗れたキリオスは、試合後に「プレッシャーのかかっている中、大胆に出るのは賭けだった。うまくいくこともあり、いかないこともある」と語った。

まるで剣術のようなプレイを再びし始めたのは若い選手だけではない。30歳で自己最高位に達したアメリカのベテラン選手、サム・クエリー(アメリカ)は「上海ロレックス・マスターズ」で、いつもよりパワフルなセカンドサーブを見せた。

クエリーのコーチ、クレイグ・ボイントンは「クエリーは打ち込み、挑戦した。そしてそれはうまくいった。キリオスが一番頻繁にこの種のプレーをするが、私がこのようなプレーをしようとする人に聞きたいのは、いつも変わらずこうするのか?ということだ。スコアは関係ないのか?15-40 あるいは0-30で負けていればこれは本当に賭けだし、30-0、40-15で勝っていればちょっと気の利いたひねりにすぎない。同列には考えられないんだ。」と語った。

また、セカンドサーブにまつわるこのようなプレーは、30日に始まる「BNPパリバ・マスターズ」のような室内ハードコートの試合には向いているかもしれない。セカンドサーブエースはファーストサーブエースに比べ常に相手にプレッシャーを与えやすいように思える。それは、相手の出方は予想できないが、ともかく相手は大胆だ、と意識させることになるからである。

サンプラスとフェデラーのコーチを務めたポール・アナコーンはこう語った。

「確かに、ファーストサーブに失敗して絶望的な気分でいるときセカンドサーブエースはいい手だろう。しかし、マイアミのフェデラーのように、キリオスと闘っていてタイブレークで3-3、不利な場面であれば話は別だ。それなのにフェデラーは高速なセカンドサーブを正確に打ち込み、それを打ち返すことなど不可能だった。君もそう思うだろうけれど、私に言わせれば、彼はクレイジーだ。それとも君はこう考えるかもしれない。『大事な場面での彼のセカンドサーブは目にも留まらない速さだ。何かまずいのか?』その影響はとても大きい。もしNo.1なら自信をもってそうすればいい。やぶれかぶれになってそうするのと、戦略的にそうするのでは大違いだ。キリオスがするなら問題はない。人は『切羽詰まってるな』と思うかもしれないが、彼は偉大なサーバーだ。自分がセカンドサーブで成功することはちゃんと分かっている。サンプラスがそうだったようにね。」

「1999年の「ウィンブルドン」のファイナルで、サンプラスはアンドレ・アガシ(アメリカ)を破った。その試合の映像を後から見ていて分かったのだが、サンプラスのセカンドサーブはアガシの全試合のそれより時速にして11キロメートルも速かった。だからサンンプラスに訊いたんだ。そうしたら彼は2つのことを言った。一つ目は『相手はアガシだ。だからそうしなくちゃならなかった』2つ目は『あれが僕の強さだ。僕はできるからやっただけさ』」

グランドスラムで14のシングルスタイトルを取ったサンプラスは、疑いなく史上最高のサーバーの一人だ。Youtubeには彼のセカンドサーブエースの場面だけを集めた動画があるぐらいだ。だからといって選手がまるで決まりごとのように、ファーストサーブと同じ強さのセカンドサーブを打っていいものだろうか?

2014年に行われたアンケートで、次のような結果を得た。「ほとんどすべての選手にとって、セカンドサーブをファーストサーブと同じように打つことは有害だろう。ダブルフォルトの確率が非常に高くなるので、セカンドサーブで勝つ可能性は結果的には低くなってしまう。」従って今も昔も、状況によって打ち分けることが正しいアプローチであると思われる。

現在ランキング46位のライアン・ハリソン(アメリカ)は言った。「これについての僕の考えはとてもシンプルだ。僕はセカンドサーブで取ったポイントで勝つことに比べたらダブルフォルトについては気にしない。もし報われそうならやってみるべきだろう。僕はコントロールを失ったことはなくて、ダブルフォルトの確率は低く抑えてきた。だからやり続けたことには意味があった。でも1試合で8回ダブルフォルトし、セカンドサーブによって取る得点が全得点の50%以下なら考え直すべきだ」

先週の「スイス・インドア」でのトーナメントに出場した25歳のハリソンは、考え直すべきタイミングを迎えていた。2017年のセカンドサーブによるポイントが全得点の49%だったのだ(彼のキャリアを通じての割合は50%)。

これは本当に分かりやすい戦術だ。月曜日の試合において戦った2人の男性選手の確率は最高の時でラファエル・ナダル(スペイン)62%、フェデラー(スイス)60%だった。ナダルのセカンドサーブによるポイントはフェデラーのそれを上回っていた。現在31歳のナダルはATPランキングで1位に返り咲き、36歳のフェデラーは2位につけている。

アナコーンは、ナダルがフェデラーに負けた4回の試合を振り返ってみれば、ナダルは場合によっては大胆に出ることで利益を得るかもしれないと考えている。しかしナダルもフェデラーもベースラインの試合で非常に強いので、連続してセカンドサーブでリスクを冒す必要はない。

アナコーンは「フェデラーは歴史に残るワンツーパンチサーバーだと思う。サーブを使って、次のフォアハンドを取る。でもナダルももう一歩でそのレベルだ。フェデラーはセカンドサーブでも十分な創造性を発揮してコートを切り開き、強力なフォアハンドをものにする。だから彼は『セカンドサーブでラインをヒットしなければ。さもないと面倒なことになる』なんてことを考えなくていいわけだ」

しかし2017年にトップにつけている選手の中には、サーブで危険を冒す選手もいる。シーズンを早めに切り上げたキリオスのセカンドサーブポイントの比率は全得点の54.9%、この確率はツアー全体の10位だ。

ランキング5位のズべレフは、54.4%で13位である。フェデラーやナダルと違って若手である彼らは、今後数年の間に方向性を決めることになるだろう。(テニスデイリー編集部)※写真は攻撃的なセカンドサービスで一時代を築いたサンプラス(2000年の「全米オープン」の時のもの)

(Photo by Gary M. Prior/Getty Images)