世界屈指の難コース。高速コーナーの連続に、65%にも達する全開率、容易には抜けないレイアウト。だからこそ、鈴鹿ではすべての力が問われる。 車体の空力性能とメカニカル性能、エンジンパワーと信頼性。ドライバーの腕と精神力。チームの戦略、ピ…
世界屈指の難コース。高速コーナーの連続に、65%にも達する全開率、容易には抜けないレイアウト。だからこそ、鈴鹿ではすべての力が問われる。
車体の空力性能とメカニカル性能、エンジンパワーと信頼性。ドライバーの腕と精神力。チームの戦略、ピットストップ、対応力……。チームとしての総合力が優れた者だけが勝利を許される。
鈴鹿サーキットを激走するマクラーレン・ホンダ
マクラーレン・ホンダが過去2度の鈴鹿挑戦で好成績を収められなかったのは、必然だった。他のサーキットではごまかしが利いても、真の総合力が試される鈴鹿ではそれだけの力しかないことが露呈した、というだけのことだ。
今年、マクラーレン・ホンダとして臨む3年目にして最後の鈴鹿で、果たしてどんな集大成を見せることができるのか――。それはある意味、改めてこの3年間の意義を問う試練のようにも思えた。
空力性能もパワーも求められる鈴鹿の1周の速さを競う予選で、マクラーレン・ホンダの2台は10位・11位につけた。この結果をホンダの長谷川祐介F1総責任者は「望んだ結果ではないが及第点」と表現した。
トップからは1.930秒。3強チーム以外の最上位フォースインディアには0.550秒の差をつけられた。しかし、その後方でウイリアムズとルノー、ハースまでが0.3秒の間にひしめく僅差のなか、この結果はまさしく”及第点”といえるものだった。
「我々は(現段階の現実的な目標として)常にトップ3の下の7位・8位を目指していますが、ここではやはりフォースインディアが強かった。エンジンとしてはパワー負けした感はあります。(直線主体の)セクター3で負けていますからね。そこはやはり悔しいです」(長谷川総責任者)
2台ともシャークフィンのTウイングやガーニーフラップを外すなど空気抵抗の削減に務め、フェルナンド・アロンソのマシンは高速サーキットで使用してきた軽い仕様のフロントウイングまで装着した。
その結果、同じ非力なルノー製パワーユニットを搭載するレッドブルのマックス・フェルスタッペンとほぼ同じ車速のマシンに仕上がったが、ラップタイムでは1.002秒の差をつけられた。これが、今のマクラーレン・ホンダとレッドブルの差だった。
金曜の夜、マクラーレン・ホンダのピットガレージだけ、遅くまで明かりが灯っていた。
フリー走行後のマシン解体と整備作業を終えて、ふたたび組み直したマシンにハイドローリック圧(油圧でギアボックスやスロットルなど様々なものを作動させるためのシステム)低下の症状が出た。どこからハイドロが漏れているのか特定に時間がかかり、それがパワーユニット内だと判明したのは深夜11時を過ぎてからだった。
「マシンのハイドロ圧が全然立ち上がらなくて、おかしいって(調査を)ずっとやっていたんです。ずっとやって、最後にエンジンまでおかしくなってしまったのが夜の11時過ぎでした。ハイドロ系は車体とPU(パワーユニット)がつながっているので、どこが原因なのか簡単にはわからないんです。交換すれば治りますし、時間さえあれば交換できるものですが、そこからでは交換は間に合いません。(ICEの上に乗っている)インダクションボックスやプレナムチャンバー(吸気ポート)を外して載せ換えるというのは、かなり大変な作業なんです」(長谷川総責任者)
そのため、パワーユニットごとの交換が必要になった。問題は、何に換えるか、だった。
アロンソにはまだ中古のパワーユニットがあり、それに載せ換えればペナルティを受けずに中団で戦うことができる。しかし、パワーユニットの寿命を考えると、次のアメリカGPで新品を投入しなければならなくなる。だが、チームとしては鈴鹿よりも好結果が期待できるアメリカGPを優先したい。そこでマクラーレンとホンダは協議の結果、ここで新品を投入し、ペナルティを消化しておくことを決断した。
「それはもう、苦渋の決断でした。ただ、ベルギーGPでストフェル(・バンドーンの母国GPであるにもかかわらず)に新品を投入してペナルティを受けてもらったときから、チームにとって最良の選択をするしかないと心に決めていましたから。鈴鹿だからどうこうというよりも、残りのシーズンのなかでベストな戦略を採るというのが、今の我々の選択です」(長谷川総責任者)
結局のところ、信頼性も含めての総合力――。タフな鈴鹿でこうした綻(ほころ)びが出てしまった、ということになる。
アロンソはグリッド降格ペナルティを受けて最後尾スタートとなり、望みは9番グリッドに繰り上がったストフェル・バンドーンに託された。
「僕は9番グリッドから新品のタイヤを履いてスタートできる。とてもいい条件で決勝に臨むことができるんだ。Q3に進まなかったことはいい結果だと言うべきだろう。レースペースは悪くなさそうだし、なんとかポイントを獲れればと思う」(バンドーン)
アロンソが10位に入りQ3に進んだことで、11位に終わったバンドーンは新品タイヤで決勝をスタートできる。Q2タイム記録時に履いていた中古タイヤでスタートしなければならないQ3進出者たちと比べ、有利な状況だった。
しかし、その期待はスタートからものの10秒で打ち砕かれてしまった。混雑した1~2コーナーでアウト側に振ったバンドーンは行き場を失い、接触して押し出されて最後尾まで落ちてしまったのだ。
「スタート自体はまずまずで問題なかったんだけど、ターン2に飛び込んでいくところでみんながスペースを見つけてなんとかしようという状況になっていて、3台が横に並んで入っていくような状態だった。そこで僕はキミ(・ライコネン/フェラーリ)にヒットされてしまったんだ。彼が意図的にやったとは思わないし、よくないタイミングでよくない場所にいただけのことだと思う」
マクラーレンは9周目にVSC(バーチャルセーフティカー)が入ったところでピットインさせるギャンブルに打って出たが、コース復帰後はランス・ストロール(ウイリアムズ)の後ろに入り押さえ込まれてしまい、本来のペースで走ることができないままバンドーンのレースは14位で終わってしまった。
一方のアロンソはレース戦略でジョリオン・パーマー(ルノー)を抜き、上位勢の脱落もあって11位まで挽回したが、最終盤に追いついたフェリペ・マッサ(ウイリアムズ)を抜ききれず入賞を果たすことはできなかった。
「20番グリッドからスタートして11位でフィニッシュだから、いいリカバリーができたと言えるだろうね。それも中古のスーパーソフトでスタートして、ピットストップが1回しかないなかでの挽回だからね。ずっと誰かの後を追いかけていて、タフなレースだったよ。チーム全員の多大な努力を考えれば、僕らはポイントを獲るにふさわしいものだったと思う。だけど少し不運だった」(アロンソ)
チームとしても、この結果には落胆の色がにじんだ。1周目の事故やペナルティがなければ、入賞はできたはずだった。
「もちろん、残念な結果です。スタート直後のアクシデントとグリッド降格ペナルティで前に出られず、ポイントが獲れなかったのは非常に悔しいです」(長谷川総責任者)
予選で示したように、フォースインディアには及ばずとも、その次のポジションを争うだけの速さは決勝ペースでもあった。つまり、ポイントを獲る速さはあったのだ。パワー不足のせいで直線の速いウイリアムズを追い越すまでの最高速はなくとも、後続に抜かれるほど遅くもなかった。
「レースペースは悪くありませんでしたし、ウイリアムズよりも速かったし、ハースやルノーにも負けていなかった。パフォーマンスとしてはポイントを獲る実力があったことを見られたのはポジティブな面かなと思います」(長谷川総責任者)
しかし、ポイントを獲る速さがあっても結果に結びつかなかったのは、チームとしての総合力が足りなかったからだ。それが、3年目の鈴鹿でも突きつけられた。
「技術者としては(性能は)そこそこの及第点だと思っています。でも、レースは結局そういうものを乗り越えて、どうやってポイントを獲るかという戦いですから。『本当は速かった』というのは言い訳にはならない。結局は、これがチーム力だということだと思います。たとえば仮にハースとウチが同じ実力を持っていたとして、どっちがポイントを獲れるかといえば、最後はドライバーや運まで含めたチームとしての実力の差が出るのがレースだということです」
マーシャルやファンに向かって手を振るフェルナンド・アロンソ
速さは常にトップ10圏内に入るものの、結果に結びつかない。それはまさに今シーズンのマクラーレン・ホンダそのものであり、中盤戦からポテンシャルが上がってきたにもかかわらず、いまだに入賞は5回のみ。コンストラクターズランキングでも9位にとどまっている理由も、そこにある。
マシンパッケージはようやく3強の後ろが見えてきたが、チームとしての総合力はまだまだそれに及ばない。チームとしての真価が問われる鈴鹿で、今年もそんな厳しい現実を突きつけられた。それが3年間のマクラーレン・ホンダの到達地点だった。