マクラーレン・ホンダとして臨む最後の日本GPがやってきた。 すでに今季かぎりでの離別が決まっているとはいえ、3年間の苦楽をともにしたチームの誰もがホンダのホームレースである日本GPで最高の成績を収めて締めくくりたいと思っている。アロン…

 マクラーレン・ホンダとして臨む最後の日本GPがやってきた。

 すでに今季かぎりでの離別が決まっているとはいえ、3年間の苦楽をともにしたチームの誰もがホンダのホームレースである日本GPで最高の成績を収めて締めくくりたいと思っている。



アロンソは鈴鹿でも神がかり的なドライビングを見せてくれるか

 グランプリ週末の開幕を控えた木曜日、ピットガレージで作業をしていたホンダのチームスタッフはこう語った。

「やっぱり日本は特別です。今日だってあんなに大勢ファンの人たちがピットガレージの前に来てくれて、旗や横断幕もたくさん用意してくれていて。その気持ちと温かさを感じるし、こんなグランプリなんて他にありませんから。今年こそはこの鈴鹿でいい成績を収めたいですよ」

 マクラーレン・ホンダが復活してからの過去2年、鈴鹿では惨敗とも言える結果が続いた。1年目の2015年はパワーユニットのターボとMGU-H(※)を小型化しすぎたがためにERSディプロイメント(エネルギー回生システムの出力)切れがライバルよりも早く、フェルナンド・アロンソがストレートで抜かれ「GP2エンジン!」とフラストレーションを爆発させた。2年目の2016年は自信を持って臨んだはずだったが、鈴鹿特有の高速コーナーが連続するセクションでマシンの挙動が定まらず、Q1敗退の辛酸をなめた。

※MGU-H=Motor Generator Unit-Heatの略。排気ガスから熱エネルギーを回生する装置。

 しかし、今年は違う。

 シーズン後半戦を迎えて車体は3強チームに次ぐ速さがあり、空力的にも安定している。パワーユニットもスペック3.7で他メーカーとの差を縮め、出力面で最下位であることに変わりはないものの、戦えないほど大きな差をつけられているわけではない。

 比較的コース特性が似たマレーシアGPで2台揃ってQ3に進出し、チームは鈴鹿に向けて大きな手応えを掴んでいる。

「マレーシアで2台揃ってQ3に進めたというのは、僕らにとっていいサプライズだったんだ。マレーシアの結果を受けて、少し自信を持っている。鈴鹿はセパンよりもさらにパワーの影響が大きいサーキットだけど、高速コーナーもあるから僕らのマシンパッケージにとってはそれが助けになるし、Q3に進むことも可能だと思う。それができれば、決勝でポイントを獲得することも現実的なチャンスになってくるよ」(アロンソ)

 シーズン序盤は苦戦を強いられていたストフェル・バンドーンも、ここにきて名手アロンソを上回る走りを見せることも増えてきた。それはエンジニアとの意思疎通がより細やかにできるようになり、マシンを自分の思うようにセットアップできるようになったことと、経験値を上げたことで自ら流れを取り戻す力が増したからだとバンドーンは語る。

「シーズン序盤は走行時間が限られてしまったせいでなかなか苦戦を強いられたけど、ここにきてすべてがうまくいかないときでも自分で挽回できる幅が広くなってきていると思う。それはエンジニアをはじめとしたチームとの関係がよくなったからこそできるようになったことだし、チームとともに努力を重ねてレースを重ねるごとに間違いなく少しずつよくなってきたんだ」

 鈴鹿は昨年、スーパーフォーミュラで走り込んだ場所だけに経験値もある。それだけにバンドーンの好走にも期待がかかる。

「サーキットを知っているというのはいいことだよ。鈴鹿では昨年、スーパーフォーミュラのレースやテストでものすごく多くの経験を積んでいるし、実際に優勝もしているからね。だから今週末はこの鈴鹿をF1マシンで走ったらどうなるのか、すごく楽しみなんだ。今年のF1マシンで走るとものすごくエキサイティングだと思うよ」

 2017年型F1マシンは、ダウンフォースが増えたこととタイヤのグリップが増したことで、中高速コーナーが格段に速くなった。鈴鹿の場合は、流れるように高速コーナーが続くセクター1のタイムが大幅に短縮すると予想されている。

「ターン1は全開で飛び込んでいくことになるだろう。その後のセクター1は空力性能が問われ、F1マシンにとってパーフェクトな場所だ。乗っている僕らもアドレナリンが出まくるだろうね。4~4.5Gの横Gが長時間にわたって首にかかり続けることになるだろう」(アロンソ)

 S字の入口も全開になり、コーナリング速度は30km/hほど高くなるので、デグナーもスプーンも驚異的な速度で曲がっていくだろう。それゆえに全開率は65%前後まで大きく伸びることが予想されている。

 車体の空力性能が問われ、ある意味ではパワーの不足があまり影響しないセクター1や高速コーナーで、時に人智を超えた神がかり的ドライビングを見せるアロンソと、鈴鹿を知り尽くしたバンドーンがどんな走りでタイムを刻んでくれるのか、楽しみだ。

 マレーシアGPでアロンソ車だけに投入されたバージボード(※)のアップデートは、今回は2台分が用意されてすでにマシンに装着されている。

※バージボード=ノーズの横やコクピットの横に取り付けられたエアロパーツ。

「2台ともアップデートパッケージだよ。マレーシアでは残念ながらテスト的な位置づけになってしまったけど、今回は2戦目だからこのパッケージの挙動に対する理解もより進んでいるし、セットアップ調整が必要かどうかもわかってきて、本来の力を引き出せるはずだよ」(アロンソ)

 パワーユニットはスペック4が間に合わず、2台ともに3日間を通してスペック3.7で戦う予定だ。さらなるパワーアップが果たされないのは残念だが、その一方でグリッド降格ペナルティに左右されず、本来の力を存分に発揮できるというメリットもある。

 今シーズン残りの5戦を見渡すと、そのなかでももっともマシンパッケージの総合性能が問われるのが鈴鹿であることは間違いない。車体もパワーユニットもドライバーも、すべての能力が問われる。

 つまり、鈴鹿はマクラーレン・ホンダとしての3年間の集大成を飾るにふさわしい場所だ。今週末、その鈴鹿サーキットで彼らがどんな走りを見せてくれるのか、しっかりと見届けようではないか。