選抜高校野球準決勝(28日、甲子園)○智弁和歌山5―0浦和実(埼玉)● 智弁和歌山の4番・福元聖矢は左打席でバットを構えながら、浦和実の左腕・石戸颯汰(そうた)のリリースポイントだけに目をこらした。右足を高く上げる石戸の変則フォームを…

【浦和実-智弁和歌山】一回裏智弁和歌山1死二、三塁、福元が右前適時打を放つ=阪神甲子園球場で2025年3月28日、新宮巳美撮影

選抜高校野球準決勝(28日、甲子園)

○智弁和歌山5―0浦和実(埼玉)●

 智弁和歌山の4番・福元聖矢は左打席でバットを構えながら、浦和実の左腕・石戸颯汰(そうた)のリリースポイントだけに目をこらした。右足を高く上げる石戸の変則フォームを目で追うと惑わされ、120キロ台ながら伸びのある直球に差し込まれてしまうからだ。余計なことを考えず、これまでの積み重ねを信じた。

 一回1死二、三塁。1ボールから高めの129キロの直球を手元まで引きつけ、上からたたいた。強烈なライナーで先制の右前適時打とした。福元は「球が速いとは感じなかった。自分たちの打撃をすればいいと思っていた」。大会有数のスラッガーはさらりと振り返った。

 続く左打者の荒井優聖(ゆうき)も同じようなスイングで緩い変化球を引っ張って右前適時打を放ち、2点を先行した。初戦から4試合連続で一回に先取点を奪い、試合を優位に進めた。

 チームは左の軟投派に対して苦い記憶がある。昨夏の甲子園の初戦で、霞ケ浦(茨城)のエース左腕の緩急にタイミングが合わず、フライアウトを重ねて惜敗した。それ以来、ボールを上からたたき、中堅から逆方向への低く強い打球を意識してきた。一回の2本の適時打は結果的に引っ張ったものだったが、逆方向を意識した分だけ体を開かずにきっちりとコンタクトすることができた。

 「石戸対策」も奏功した。準決勝の前日には、石戸の変則フォームを見慣れるべく、右投げの中谷仁監督が投げ方をまねて打撃投手を務めた。「僕が筋肉痛になっただけ」と中谷監督は冗談めかしたが、福元は「似ていたので効果はあった」と感謝する。あとは磨き上げた打撃を披露するだけだった。

 「決勝でも、いかに自分たちを最後まで貫けるかが勝負を分ける」と福元。全員が一丸となり、31年ぶりの春の頂点に王手をかけた。【石川裕士】