8大会連続のワールドカップ出場を決めたサッカー日本代表。過去4回ベスト16に進出しているが、なかなかその先を突破できていない。次大会でベスト8進出は果たせるのか、現状を分析した。ワールドカップ出場を決めた直後のサウジアラビア戦は0-0で引…

 8大会連続のワールドカップ出場を決めたサッカー日本代表。過去4回ベスト16に進出しているが、なかなかその先を突破できていない。次大会でベスト8進出は果たせるのか、現状を分析した。


ワールドカップ出場を決めた直後のサウジアラビア戦は0-0で引き分けたサッカー日本代表

 photo by Sano Miki

【二重になったベスト8の壁】

 2026年W杯は初の48チーム開催となる。各4チームのグループリーグは従来と同じだが、グループ3位も8チームがノックアウトステージに進める。そしてノックアウトステージはラウンド16ではなくラウンド32から。決勝まで進むと8試合になり、これまでより1試合多い。

 こうしたレギュレーションの変化がどういう影響を与えるかはわからないが、ノックアウトステージで2回勝たないとベスト8にたどり着けないことになった。日本はノックアウトステージで勝ったことが一度もない。4回挑戦して突破できなかった壁が今回は二重になったわけだ。

 運にも左右される。これまでラウンド16で対戦したのはトルコ(2002年)、パラグアイ(2010年)、ベルギー(2018年)、クロアチア(2022年)だが、アルゼンチン、フランス、ブラジル、スペインなどと当たる可能性もあるわけで、対戦国しだいで壁の高さは変わる。

 こうしたレギュレーションの変化や組み合わせを置いておくと、日本がベスト8に到達する可能性はこれまでで最も高いと考えるのが自然だ。日本は代表史上最強チームであり、相対的に強豪国との差は縮まっていて、コロナ禍以来定着した5人交代制も有利に働きそうだからである。

【日本代表は史上最強】

 まず、現在のチームが史上最強ということに疑いを持つ人は少ないと思う。メンバーの大半が欧州リーグでプレーしていて、最高峰であるプレミアリーグ所属が5人いる(三笘薫、鎌田大地、遠藤航、菅原由勢、冨安健洋)。レギュラーポジションを確保しているのは三笘だけだが、全体的に選手のレベルは上がっている。

 1998年フランスW杯で初優勝したフランス代表には当時最高峰だったセリエA所属の選手が7人いた。1980年代はミシェル・プラティニだけ。こうした経験値の違いは大きい。また、現在の日本代表選手の多くは前回の2022年カタールW杯を経験している。

 アルベルト・ザッケローニ監督が率いた2014年ブラジルW杯のチームは当時、史上最強と言われていた。本田圭佑、香川真司を擁して確かに攻撃力は歴代最高だった。一方で強豪国相手に得点できても、それ以上に失点もしていた。ウルグアイに2-4、イタリアに3-4、ブラジルとは二度対戦して0-3、0-4。本大会ではコロンビアに1-4だった。

 ちなみに大敗してグループリーグ敗退が決まったコロンビア戦は、大久保嘉人が3戦目にしてフィットしていて攻撃面ではザッケローニ時代でも最高レベルだったのだが、4失点ではどうにもならない。いいチームではあったが偏りもあった。

 現在の日本代表は攻守いずれも大きな弱点がない。予選ではウイングバックにアタッカーを起用する大胆な攻撃偏重の編成だったが、守備的に戦う相手に対して効果的だった。W杯でここまで攻撃的な戦い方はしないだろうし、相手によってはできない。だが、守備的な戦い方はすでにカタールW杯で結果を出している。

 攻守の振り幅の大きさはこれまでの日本代表にはなかった。2010年南アフリカW杯では直前に守備型にシフトしてベスト16へ進出しているが、そこから攻撃型に変えられたわけではない。今回のチームはそれも可能で、過去のチームにない対応力を持っている。

 前回のカタールW杯で日本が唯一負けたのがコスタリカ戦だった。相手が引いたので、攻撃的なプレーをしなければならない試合だけ負けている。今回の予選で使った超攻撃型の3バックはコスタリカ戦で露呈した課題を克服するもので、日本がW杯で勝ち抜くための対応力は上がっている。

【強豪国との格差は縮小している】

 現在の日本がとうていかなわない強豪国もない。アルゼンチン、ブラジル、スペイン、ドイツ、フランス、イングランド、イタリア、ウルグアイの優勝経験国をはじめ、本大会で実力的に明確に日本より下の国を探すほうが難しいのだが、全体的に上下の格差は少なくなっていて、飛びぬけたスーパーチームは存在していない。

 カタールW杯ではモロッコがベスト4に進出していて、日本とラウンド16で引き分けたクロアチアもベスト4だった。日本が強豪を食う可能性は、これまでで最も高くなっている。

 昨年行なわれた欧州選手権(ユーロ)のベスト8にはトルコとスイスが含まれていた。トルコは同じ中堅国であるオーストリアに勝っての準々決勝進出だが、スイスはイタリアを破っている。ラウンド16ではスロベニアがポルトガルとPK戦までもつれ、スロバキアもイングランドに敗れたのは延長戦だった。ベスト4はスペイン、フランス、オランダ、イングランドの強豪国が残っているが、中堅国との差は勝敗に関して紙一重だった。

 ユーロと同時期に開催されていたコパ・アメリカもベスト4にカナダが入っていた。準々決勝4試合のうち3試合はPK戦による決着。アルゼンチンはエクアドルとのPK戦を制して勝ち抜けている。アルゼンチンは最終的にコロンビアを破って連覇を達成したが、コパ・アリメカも番狂わせは十分に起こりえる状況だったわけだ。

 ジャイアントキリングの可能性は日本だけではないが、カタールW杯でドイツ、スペインを破った実績もあり、クロアチアともPK戦だった。日本は前回より力をつけていて、欧州、南米の強豪国は頭打ちの状態。チャンスは増えていると考えていい。

【5人交代制は追い風】

 5人交代制もおそらく日本にとって追い風だろう。前回優勝を争ったアルゼンチンのリオネル・メッシやフランスのキリアン・エムバペのようなスーパーなタレントは日本にはいないが、選手の平均レベルが高い。

 強豪国でもメンバーを固定化しているチームが多く、ターンオーバーしても力が落ちないのはフランスくらいだろう。日本も板倉滉、遠藤、守田英正、三笘、伊東純也といった軸になる選手はいるものの、代えのきかない選手はいないといっていい。誰がプレーしても一定の水準は維持できると思う。

 連戦となるW杯では、ある程度の入れ替えはコンディション維持のために必須。また5人の交代枠を活用できるかどうかもポイントになる。スーパースターはいないかわりに、そのスーパータレントが欠場したり、調子を落とした時のリスクが日本にはない。三笘の代わりに中村が出ても十分やれるだろうし、久保建英がいなくても南野拓実、鎌田がいる。高いレベルで均質的という特徴は、5人交代をフル活用できて、大会中のローテーションも可能になる。

 5人交代制は攻撃的にも守備的にもプレーできる日本の対応力を発揮しやすく、現在のチームにとって追い風と言える。