U-20日本代表/RB大宮アルディージャ所属市原吏音インタビュー(後編)「海外へ行くのなら、RB大宮から行きたい」 RB大宮アルディージャのアカデミーが生んだ最高傑作と言っていいCBが、世界の舞台を見据えている。プロ2年目の19歳・市原吏音…
U-20日本代表/RB大宮アルディージャ所属
市原吏音インタビュー(後編)
「海外へ行くのなら、RB大宮から行きたい」
RB大宮アルディージャのアカデミーが生んだ最高傑作と言っていいCBが、世界の舞台を見据えている。プロ2年目の19歳・市原吏音である。
今年2月に行なわれたAFC U20アジアカップで、市原はキャプテンを務めた。ベスト4以上に与えられるU-20ワールドカップの出場権を獲得し、重責を果たしたのだった。
19歳の市原吏音が見据える次のステージは?
photo by Sano Miki
「欲を言うなら、アジアチャンピオンとして世界大会に出たかったですけれど。まず出られるっていうのが、自分らとしてはホッとしているというか」
U-20ワールドカップに、日本は現在3大会連続で出場している。かつては準優勝に輝いたことがあり、グループステージ突破も驚きではなかった。それだけに、出場権を逃すわけにはいかないというプレッシャーは大きかったのではないだろうか。
市原は黙ってうなずいた。
「プレッシャーはありました。めちゃくちゃありました。初めてというか、久しぶりだなっていうぐらい」
グループステージ最終戦の韓国戦で、日本は1-0とリードした後半終了間際に失点してしまう。その結果として韓国にグループ1位を譲ることとなり、準々決勝でイランと対戦することになった。
「イランは別グループを3連勝で突破してきて、『メチャクチャ強いぞ。俺ら大丈夫か』みたいな雰囲気があったんです。誰も口には出さなかったけれど、イランはけっこうやるぞ、という。
韓国戦の失点は自分の責任だったので、イランに負けてU-20ワールドカップに出られなかったら自分のせいだ......と思っていました。キャプテンも任されていたので、そういう意味でのプレッシャーはありました。だけど、いざ試合が始まるとそんなに重圧を感じることもなく、楽しめたかなと」
開始早々に先制されたものの、前半のうちに追いついた。その後は主導権を握る。だが、2点目が遠い。90分までに突き放すことはできず、延長戦でもゴールネットを揺らすことはできなかった。
「70分以降はずっと自分らの試合だったんで、押せ押せでギリギリ取れないみたいな展開って、ちょっと焦れるじゃないですか。ずっと攻めて点が取れず、カウンターかセットプレー1発でやられて敗ける......っていうパターンはサッカーではよくある。それは絶対なしにしよう、と。その話ができたのは、自分的にはよかったかなと思っていて」
【イチかバチかで真ん中に蹴って...】
市原は生まれながらのリーダーである。大宮のアカデミーでは、常にキャプテンを任されてきた。
「小学校や中学校はキャプテンマークを巻いているだけで、高校もプレーで示すタイプでした。でも、イランには絶対に負けられないし、チームを勝たさなきゃいけないと思って、ハーフタイムとか延長の前に、チームが今どういう状況に置かれているのかっていう話をしました。PK戦の前にも話しましたし」
1-1のままスコアは動かず、勝敗はPK戦に委ねられた。キャプテンの市原はコイントスに臨み、勝利したものの後攻を選んだ。
「みんなのところへ戻って、トスに勝って『後攻だぞ』って言ったら『えっ?』て。先行が有利とか知らなかったし、後攻で勝てる、5人目の自分が決めて勝てるな、という感じがしていたんで。マジでそんな感じがしたんで。ああいう試合って、何かこう降りてくるっていうか......うまく表現できないんですけど」
先攻のイランはふたり、日本はひとりが外した。3-3の状況で、市原はペナルティスポットにボールを置く。決めればU-20ワールドカップ出場へチームを誘い、外したら決着は6人目以降へ持ち越される。かくも大きな重みを持つPKは、なかなか経験できない。
「めちゃくちゃ自己中な考えですけど、失点以外はほぼパーフェクトに守った。後ろはしっかりやったというマインドだったんで、『外しても全然、大丈夫っしょ』と。120分で決めなきゃいけない試合だったから、めっちゃ緊張することもなかったし」
緊張はしなかった。ただ、どこに蹴るのかはすぐに固まらない。わずかな時間のなかで、頭をフル回転させた。
「ボールを置いて助走を取るまで、右か真ん中か、ずっと悩んで。基本的には右に蹴りたかったですけど、グループステージのタイ戦で右に蹴っている。で、真ん中はやっぱり、ちょっと怖い。いつもなら主審に笛を吹かれてから何秒かおいて蹴るんですけど、2回目の笛を吹かれるぐらい考えて。イチかバチかで真ん中に蹴って、ホントよかったです」
【今は海外よりも日本代表でやりたい】
Jリーグを戦う日常に、PK戦のシチュエーションは訪れない。ただ、イラン戦の前に、市原はPK戦を経験している。昨年12月に開催された南雄太さんの引退試合だ。笑みがこぼれる。
「三浦知良さんをはじめ、錚々たる方々の前でしたから。あっちのほうが断然プレッシャーはありましたよ」
U20アジアカップは、中2日のスケジュールが基本だった。9月にチリで開催されるU-20ワールドカップも、同じくらいにタイトな日程が組まれる。市原は「それなんです」と、声のトーンを上げた。
「国内だと中2日はなかなかないけど、代表に行ったら絶対にあるんですよ。その中2日でのパフォーマンスを、もっともっと上げなきゃいけない。高いレベルで安定させたい。
CBとしては失点しないことにこだわっていきたいし、判断の精度を上げることも課題です。ある程度は足もとに自信があるんですけど、ちょっとやりすぎてしまうところがあるので」
9月の開催地チリでピッチに立てば、自身初の世界大会出場となる。
「同世代の世界の選手たちとの真剣勝負って、そうそうあるものじゃない。楽しみですし、すごく大事だなと。U-20日本代表のスタッフからは『U-20ワールドカップが終わったら、日本代表へ飛び込んでいけ』ってずっと言われています。その前から入れるようにがんばれ、とも」
2026年の北中米ワールドカップへの競争に食い込んでいくために。世代の最年長として挑む2028年のロサンゼルス五輪でピッチに立つために──。クラブレベルでのステップアップは欠かせない。
「日本代表に選ばれるには、海外でやらなきゃいけない。小さい頃はバルサが大好きで、カンプ・ノウのピッチに立ちたい気持ちはありますけど、どこのリーグでやりたいっていうこだわりはないですね。それよりも、日本代表でやりたい気持ちのほうが強いです」
【ファン・ダイクは正直、参考にできない】
戦いのステージを上げていくために、モデルにしている選手がいる。高校3年時はジョン・ストーンズとルベン・ディアス(ともにマンチェスター・シティ)の名前を挙げたが、現在はバルサのカンテラ育ちのCBが気になる。
「フィルジル・ファン・ダイク(リバプール)が好きなんですけど、彼はそもそもの能力が自分とは違いすぎるというか......大きくて、強くて、速いので、正直、参考にできないです。
自分が参考にしているのは、パウ・クバルシ(18歳)です。身長は180cmちょっとで日本人に近くて、めちゃくちゃ身体的に強いわけでもないけれど、クレバーで準備が早く、パスもうまい。自分にとってモデルになる選手、プレースタイルが似ている選手、体格が近い選手はよく見ていますね」
アジア予選突破後の3月に実施されたU-20日本代表のスペイン遠征に、市原は招集されなかった。今遠征は日本代表の国際Aマッチウィークを活用したもので、J1リーグは中断されるがJ2リーグは期間中も2試合が組まれている。J2クラブに所属する選手が市原を含めてひとりも選ばれていないのは、プレーするリーグのスケジュールにも理由があったと考えられる。
本人もポジティブそのものである。「与えられた環境のなかで、自分のベストを尽くします」と、澄み切った声で話した。
日本サッカーの未来を担うひとりとなるために──。大宮の勝利につながるパフォーマンスを見せ、U-20日本代表を牽引していく。
19歳の瞳は、はっきりとした意志を持って今日の自分を見つめ、明日の自分を思い描くのだ。
<了>
【profile】
市原吏音(いちはら・りおん)
2005年7月7日生まれ、埼玉県さいたま市出身。大宮アルディージャのアカデミー(ジュニア→U15→U18)で育ち、2023年7月の天皇杯・セレッソ大阪戦でクラブ史上最年少18歳5日でのトップチームデビューを果たす。翌年トップチームに昇格し、いきなり副キャプテンに任命されてJ3優勝に貢献。日本代表歴は各カテゴリーで呼ばれ、AFC U20アジアカップ2025ではキャプテンとしてチームを牽引し、今年9月にチリで開催されるU-20ワールドカップ出場権を獲得した。ポジション=DF。身長187cm、体重81kg。