今季のAFCチャンピオンズリーグでは、昨季J1王者のヴィッセル神戸が逆転負けを喫するなど、Jリーグチームが早くも姿を消した。女子でも同様の事態が起こった。WEリーグで上位を争う三菱重工浦和レッズレディースが、中国のチームに敗れたのだ。内容…
今季のAFCチャンピオンズリーグでは、昨季J1王者のヴィッセル神戸が逆転負けを喫するなど、Jリーグチームが早くも姿を消した。女子でも同様の事態が起こった。WEリーグで上位を争う三菱重工浦和レッズレディースが、中国のチームに敗れたのだ。内容と結果が大きくかけ離れていたことは驚きだが、サッカーの奥深さを感じさせるものでもあったと、サッカージャーナリスト後藤健生は考える。
■「120分間」なぜ守り切れたのか?
武漢の戦略……。それは、中盤でのボール保持やサイドでの崩しは諦めてでも、中央(ゴール前)の守備を固めて、けっしてペナルティーエリアやバイタルエリアで相手にスペースを与えないことだった。
守備陣は中国代表の姚偉(ヤン・ウェイ)を中心に置いた3バック。浦和が揺さぶりをかけても、けっして引き出されることなく、じれずに規律を守って120分間守り切った。姚偉のリーダーシップの賜物だろう。
もちろん、守備に回る場面では両ウィングバックも戻ってくるのだが、中央の意識と同時に両サイドのスペースを埋める動きもできており、浦和の両サイドバック(遠藤優と栗島朱里)が攻撃参加しても、数的優位を保って守備を続けた。
武漢の左のウィングバックに入ったのは、32歳のベテランで中国女子代表の元キャプテンの王海燕(ウー・ハイエン)。女子ワールドカップには2015年のカナダ大会から3大会連続参加した中国女子サッカー界のレジェンドの1人だ。
王海燕は、その経験値を生かして、浦和のサイド攻撃を封じながら、中盤の守備にも貢献。後半終了直前には、武漢の常衛魏(チャン・ウェイウェイ)監督は姚偉を中盤に上げ、呉海燕をセンターバックの中央に置いて守備を再構築している。
武漢にとっては、まさに呉海燕と姚偉という2人の代表選手の経験値が生きたスコアレスドローだった。
■ゲーム前から「描いていた」シナリオ
武漢は「スコアレスドローとその後のPK戦」というシナリオをゲーム前から描いていたのだろう。
交代枠を1人残していた武漢は、延長終了間際の120分にそれまでゴールを守っていた丁施(ディン・シュエン)に替えて、PK用のGK陳晟(チェン・チェン)を投入。陳晟は、実際に浦和の6人目の伊藤と8人目の遠藤のキックをストップして勝利に貢献して見せた。
PK戦でのキッカーの選択も戦略的だった。
1人目を姚偉、2人目を呉海燕と両ベテランが務めると(呉海燕は池田にストップされる)、その後は4人目(趙雨欣=ジャオ・ユーシン)と7人目(馬君=マー・ジュン)を除いて、すべて途中交代で入ったフレッシュな選手に蹴らせた。ちなみに、馬君も中国代表で長く活躍した36歳のベテランだ。
つまり、武漢は浦和のミスに助けられたわけでも、幸運に助けられたわけでもなく、ベテランを中心にしっかりとした守備の組織を構築し、その守備戦術を120分間規律を保って遂行し続け、そして、PK戦での勝利という当初のシナリオ通りの勝ち方をしたわけである。
■「少なすぎた」決定機そのものの数
しかし、対戦相手がどれだけしっかりした守備網を敷いていたとしても、浦和はボールを握り続けていたのだから、その守備を崩さなくてはならなかった。
中央に分厚い守備網を敷かれた浦和。左右からクロスを上げても、武漢のDF陣には空中戦での強さもあり、また、浦和FWが飛び込んでいくスペースも消されてしまった。
浦和が2列目でボールを動かしても、相手DFはそれに釣られて飛び出してくることもなく、スペースは生まれない……。
後半の立ち上がりに、左から右サイドにパスをつなぎ、最後はオーバーラップしてきた遠藤がフリーになった場面が最初のビッグチャンスだったが、シュートはGKの正面。延長前半の105+1分には左でつないで、最後はボックス内で途中出場の藤崎智子が巻いたシュートでファーサイドを狙ったが、これは相手GKの好守でCKとなった。
しかし、あれだけボールを握って攻撃を続けた割には、決定機の数そのものが少なすぎた。
相手の守備は引いてくるので、DFラインの裏にはスペースが生まれない。前線の選手でつないだ中で2列目、3列目の選手が飛び出していくのも難しかったろうが、もう少し前線の選手が下がって、MFが飛び出していく動きは加えたかった。