10月1日、東京秩父宮ラグビー場で関東大学ラグビー対抗戦「明治大vs.筑波大」が行なわれた。初戦で青山学院大に108-7と大勝した「紫紺のジャージー」明治大は、この試合でも持ち前の攻撃力を発揮。合計10トライを重ねて68-28で勝利を…

 10月1日、東京秩父宮ラグビー場で関東大学ラグビー対抗戦「明治大vs.筑波大」が行なわれた。初戦で青山学院大に108-7と大勝した「紫紺のジャージー」明治大は、この試合でも持ち前の攻撃力を発揮。合計10トライを重ねて68-28で勝利を収めた。



明治大の復活にCTB梶村祐介(中央)の存在は欠かせない

 前半は互いに3トライを挙げて、21-21の同点で折り返した。しかし、後半は明治大が圧倒。その攻撃を牽引したのは、副キャプテンの梶村祐介(4年)だ。身長180cm・体重95kgの体躯を誇る「12番」は、持ち前のランやパスでインサイドCTB(センター)の位置から冷静に攻撃をリードした。

 ライバルの筑波大から10トライも奪えた理由について、梶村は「前半(明治大の)強みであるFWで我慢できて、後半は相手が疲れたなかでスペースを見つけてボールを運ぶラグビーができた」と分析する。ただ、自身の調子については「あまりよくなかったですが……」と控え目だ。

 しかしながら、明治大を率いて5年目となる丹羽政彦監督は「今シーズンが一番いいんじゃないですかね」と梶村を評する。「リーダーとなるといろんなことを考えないといけないが、自分でボールキャリアをしたり、パスを出したり、それらを意図的にやっていました。高校時代にあれだけ注目されていて、同期のFB(フルバック)野口竜司(東海大4年)が日本代表になったのも意識していると思う」と語り、教え子の成長ぶりに目を細めた。

 丹羽監督が言うように、梶村は報徳学園高時代から将来を嘱望された逸材だ。パナソニックのSO(スタンドオフ)山沢拓也と同様に、高校生ながらエディージャパンの合宿に練習生として招集されたこともある。

 高校3年生だった2013年の夏。梶村はU19日本代表としてアジア選手権を戦い、そのメンバーにはSO松田力也(パナソニック)、WTB松井千士(サントリー)、FB野口などがいた。だが、錚々(そうそう)たるメンツが同じピッチに立っていたなか、その試合を視察していた日本代表指揮官のエディー・ジョーンズがPR(プロップ)具智元(グ・ジウォン/ホンダ、サンウルブズ)とともに「2019年のワールドカップで日本代表としてピッチに立つべき選手」と名指ししたのは梶村だった。

 進学した明治大では1年生から試合に出場し続けているものの、松田や野口のように日本代表に招集されるほどのブレイクには至っていない。それでも、最終学年の4年生となった今、梶村は充実したラグビー生活を送っている。その要因のひとつは、明治大のHC(ヘッドコーチ)にOBの田中澄憲が招聘されたことだろう。今季から丹羽監督と二人三脚で明治大の強化にあたっている。

 今年42歳になる田中は報徳学園高から明治大に入学し、その後サントリーで活躍したSH(スクラムハーフ)だ。梶村にとっては、高校・大学ともに同じ経歴の大先輩である。15人制や7人制の日本代表としてもプレー経験を持ち、2010年度に現役を引退。2012年度からはディレクターとしてチームを支え、サントリーの優勝に貢献してきた。

 明治大のHCに就任した田中は、朝6時から夜10時まで学生たちの動向に目を光らせているという。そんな日々を送っている田中について、梶村は「キヨさん(田中HC)が一番ハードワークしているので、それに選手が応えないといけない」と語る。

 今季の明治大は「日本一」を目標に掲げ、春シーズンから強度の高いトレーニングを重ねてきた。明治大のグラウンドはまだ照明施設がなく、毎日朝6時半から2時間ほど練習を行なっている。「フィットネスとスキルが絶対に必要となる。春シーズンは我慢して、そういうところを強化してきた」(梶村)。

 筑波大戦の快勝も、その強化が実を結んだ結果といえよう。特に成果が顕著に見えたのが、21-21の同点で迎えた後半最初のトライだ。明治大は自陣から約4分半――32次にわたる攻撃を継続し、最後はFL(フランカー)井上遼(3年)がインゴールに飛び込みハットトリックを達成した。

「今までの明治大と違います。本当にタフに、走り勝つラグビーができています」

 試合後、梶村は堂々と胸を張った。

 また、梶村のBK(バックス)リーダーとしての冷静な判断も光っていた。前半、明治大は前に出てくる筑波大ディフェンスに苦しみ、プレッシャーを受けたBKはトライを獲ることができなかった。そこで梶村はハーフタイムにBKの立つポジションの深さや広さを修正。結果、後半の大量得点につながった。

 このように、相手の動きに対して柔軟にプレーできるようになったことも、春から積み上げてきた練習の賜(たまもの)である。昨季までの明治大は、アタックの形こそ今季とあまり変わっていないものの、あらかじめ7~8次の攻撃まで予定している「決め事の多いラグビー」だった。だが、田中HCはあくまでも選手の判断を重視し、目の前で起こっていることに「対応するラグビー」を指向している。

「キヨさんはあまり決めたがるタイプではなく、『チョイスしていくのは選手だ』と言われています。自分たちに考えさせる時間をくれるので、試合中に修正する力がついてきたのかなと思います。また、修正していく力はシーズンを通して深めていかないといけない。そこが帝京大や、春シーズンから順調に仕上がっている慶應大との差だと思います」(梶村)

 大学選手権では12回の優勝を誇る明治大だが、1996年度以降は21年間、その栄冠から遠ざかっている。対抗戦3位で出場した昨季の大学選手権も、初戦で京都産業大に敗れてベスト8にも残れなかった。そのため就任早々、田中HCは「マインドセット(心構え)」を変えるために「日本一」を掲げ、大学選手権の決勝戦で勝つことをイメージしてスケジューリングしたという。梶村も「全員、日本一を意識している」と力を込める。

 温かい目で選手をサポートし続けている丹羽監督と、サントリーのエッセンスを注入する田中HCのもと、2試合連続で10トライ以上を奪い、反則はともに1個のみ。「近年の明治大とは違う」と大きく印象づける内容だけに、ライバル校にとっては今後脅威となることは間違いない。

 もちろん、9連覇を狙う王者・帝京大の壁をそう簡単に崩すことはできないだろう。それは、梶村も十分にわかっている。ただ、春からどのチームよりも練習をしてきたという手応え、そして自負もある。「帝京大を倒すことは今の段階では難しいと思いますが、シーズン中に成長していって、ファイナルで勝ちたい」(梶村)。

 梶村の座右の銘は、『驥(き)は一日にして千里なるも、駑馬(どば)も十駕(じゅうが)すれば之に及ぶ』。才能の劣る者も努力を続ければ、才能のある者と同じ成果を挙げられる、という意味だ。来年の1月7日、右肩上がりで成長曲線を描き続ける明治大は、大学選手権の決勝で新たな歴史に名を刻むことができるか。