浦和実(埼玉)のセンバツ初出場に大きく貢献した、エース左腕の石戸颯汰投手(3年)。右足を顔の真横まで上げる変則的なフォームから繰り出す球は、120キロ台にもかかわらず不思議と凡打の山を築く。その異色の才能を見いだしたのは、元巨人の小…

浦和実(埼玉)のセンバツ初出場に大きく貢献した、エース左腕の石戸颯汰投手(3年)。右足を顔の真横まで上げる変則的なフォームから繰り出す球は、120キロ台にもかかわらず不思議と凡打の山を築く。その異色の才能を見いだしたのは、元巨人の小原沢重頼投手コーチ(55)だ。当初はエース候補ではなかった石戸投手を見守り、強打者を翻弄(ほんろう)する独自の投法を磨き上げてきた。
個性的なフォームで次々と
昨年の秋季関東大会。石戸投手がマウンドに立つと、バックネット裏の観客席はキツネにつままれたような雰囲気となった。目を引くのは右足を高々と上げる独特のフォーム。決して速い球ではないが、打者は次々とフライアウトに打ち取られた。準決勝で横浜(神奈川1位)に敗れたものの3点に抑えて完投し、秋の8試合で防御率は0・72。「秋を通して打線に捕まったという感覚は横浜戦の2巡目からだった」と淡々と振り返る。
中学時代は軟式野球でプレー。上半身と下半身をうまく連動させようと模索し、当時から現在のような個性的なフォームで投げていたという。
同校OBで1990年代に巨人でプレーした小原沢コーチは「埼玉西武ライオンズジュニアユースには選ばれていたものの、フォームにあまりにもクセがあった。でも制球力はとにかく良かった」と話す。中学3年の石戸投手と出会い、浦和実に誘ったが、ここまでの活躍は期待していなかったという。「潮目を変える技巧派投手として中継ぎで使えば面白いと思っていた。エース候補は他にいた」
新チーム発足後に急成長
高校野球では投手の球速アップが著しいが、速さを意識したフォーム改造は考えなかったのか。「指導が厳しい強豪校に行ったら、跡形も無く修正されていたかも」と小原沢コーチは笑う。だが、改善を指示したのは右手の開きを抑えるといった微修正程度。「石戸はこのフォームでコントロールが良い姿を見て声を掛けたので、変えたくなかった」と、長い目で見守った。
チーム内でしばらくは2番手だった石戸投手が結果を出し始めたのは、新チーム発足後の練習試合。磨き続けた投法で打者を手玉に取り、強豪校相手に完投勝利するケースが増えた。秋季県大会で背番号1を背負うと、センバツを制した経験もある浦和学院を完封するなどチームを初優勝に導いた。
「制球が一層良くなりました。回転数がいいんでしょうかね。打者の手元の伸びが良く、芯で捉えにくいのでフライアウトが多いのかも」と小原沢コーチは分析する。フォームは個性的だが下半身をうまく使っているため、体への負担も少ないという。
「甲子園にもまったく浮かれず」
石戸投手のマイペースでブレないメンタルも、その投球を際立たせる。周囲が「石戸は緊張しないんじゃないですか」と口をそろえる強心臓ぶりで、強豪相手にもひょうひょうと球を投げ込む。報道陣がセンバツでの目標を聞いても毎回、「普段通りの投球をしたい」と淡々と答える。小原沢コーチは「甲子園にも全く浮かれずいつも通り。大したやつだと思いました。記者泣かせのコメントだとは思いますが……」とほほえむ。
球速向上も目指してはいるが、センバツ出場が決まった後も、師弟は焦らずにさらなる制球力向上に主眼を置いて調整を進めてきた。「全国レベルでは球速140キロ超が主流化する中、異色でしょう。130キロ弱なら公立校にもいる。こういう投手でも甲子園に出られるという希望になるんじゃないですか」と小原沢コーチ。ブレずに我が道を進むエースは、強豪ひしめく甲子園でどんな投球を見せるのだろう。【田原拓郎】