立命大弓道部の女子が全国大会で史上初の年間3冠を目指す。昨秋の「全日本学生弓道王座決定戦第48回女子の部」で初優勝したチームの主力メンバー、丸山来夏(こなつ、国際関係学部2年)、石山和奏(わかな、文学部2年)が今年も健在。昨年の全国大学弓…

 立命大弓道部の女子が全国大会で史上初の年間3冠を目指す。昨秋の「全日本学生弓道王座決定戦第48回女子の部」で初優勝したチームの主力メンバー、丸山来夏(こなつ、国際関係学部2年)、石山和奏(わかな、文学部2年)が今年も健在。昨年の全国大学弓道選抜大会、全日本学生弓道選手権大会(インカレ)でいずれも準優勝に終わった無念さを晴らし、残りの2年間、大学女子弓道の三大大会で完全制覇を誓う。

 負けるわけにはいかない戦いを制しても、安堵の表情が浮かんだのは、ほんの一瞬だけだった。昨年11月、三重・伊勢神宮の神宮弓道場で行われた全日本学生王座決定戦の女子決勝。同大会11度の優勝を含め、三大大会合わせて25度のタイトルを誇る名門、日大を相手に、62―61と1中差で下した時だった。「選抜、インカレとどちらも悔しい思いをしたので、絶対勝つという強い気持ちで臨んだ。まだ来年、再来年と日本一へチャレンジする機会はたくさんある」。創部以来、この大会で悲願の初優勝を達成しても、最優秀選手に選ばれた丸山に気の緩みはなかった。

 直径36センチの的を28メートルの距離から狙い、的中数を競う弓道の近的。三大大会の中で王座決定戦は全国各連盟の秋季リーグ戦優勝校とインカレV校の計10校がトーナメント戦で争い、年の締めくくりに頂上を目指す。4人1組で準決勝までは12射ずつ計48射、決勝では20射ずつ計80射で争う。一昨年の関西リーグで大経大に敗れ、2年ぶりにこの舞台に立った立命大は丸山、石山に安藤真凛(24年度主将)、中嶋唯乃(1年)のチームで臨んだ。「互角に進んでいる時は先攻は結果を待つだけで、後攻はあといくつ外したら負けるという重圧がある」と、ふたりが声を合わせるように、先攻の立命大は駆け引きや心理面でも有利に立ち、わずか1中差の接戦を勝ち抜いた。

 丸山と石山が立命大で出会うまで、歩んで来た道はそれぞれ違う。両親が高校時代に弓道の経験者で帰国子女の丸山は、たまたま進学した愛知・豊橋市の南稜中で部活を始めた。「見学に行ったら、和弓を引くシーンがとても格好良かった」。基礎から学び、弓道が盛んな愛知で経験を積んだ。全国高校弓道競技大会(インターハイ)の女子団体戦で4度の優勝を誇る豊橋商に進み、2年の時にインターハイ個人戦で決勝進出。3年になるとインターハイ団体戦3位。高校最後の大会となった栃木国体の少年女子の部団体戦で近的、遠的(直径1メートルの的を60メートルの距離から狙い的中数や点数を競う)の両方で全国優勝を果たした。7時から始まる朝の練習では父・貴章さんに車で送ってもらい、1時間前の6時から弓を引き絞り、心と腕を磨いたという。

 石山は小学生から陸上競技を始め、中学生まで中距離ランナー。経験者だった兄・尊哉さんの影響からか、弓道には少し興味があったそうだ。静岡・菊川市の小笠高に進学し「弓道部の顧問の先生が全国大会を見据えていたので、3年間費やすなら全力で取り組める部活に入りたかった」と、転向を決意。地道に努力を重ね1年の全国弓道選抜大会で団体戦3位。2年では同大会の個人戦にも出場したが、全国の壁の高さも感じていた。「(丸山の出身校の)豊橋商は私でも知っているくらいの強豪校だけど、静岡のレベルはそこまで高くなくて、本当は高校で弓道を辞めようと思っていた」と、複雑だった当時の胸の内を打ち明ける。

 高校で頂点に立った丸山でさえ「大学で弓道が強くて、環境が整っているのは東京か関西。私は最初、地元の愛知県内で自宅から通える大学でいいかなと思っていた」と振り返る。だが、そんな思いを周囲が反転させた。「監督の(朝倉千尋)先生が強い大学で続けていいんじゃないかと…」。高校の先輩もいる立命大へ進む話が持ち上がった。石山も「顧問の(本宮裕平)先生から続けてみたらと言われて、すごく悩んだ」結果、「行ける大学があれば…」と進学を決意。同じように立命大との縁がつながった。「いい選択をして今は良かったと思う」と、石山は笑顔を見せた。

 立命大の練習は大会や試合が組まれる日曜を除くと、平日が午後6時過ぎから2時間ほど。土曜は午前11時から約3時間で終了する。「環境が優れているのは、通常の練習時間以外に、いつでも自主練習ができること」と、丸山は説明する。京都市の市街地最北端に位置する立命大・柊野グラウンドの弓道場は、早朝6時から夜10時まで使用可能だ。静寂に包まれた朝もやの中や、夜は電気照明にポツンと浮かび上がり、黙々と弓を引く射手(いて)が必ずいる。「高校では顧問の先生がいつも指導してくれるけど、大学では常に指導者がいるわけではないので、自分で考えて練習しなければ上達しない」と石山。丸山も「レベルが高い選手が多く、自分にはない知識を持っている人も多い。選手同士のアドバイスでお互いにカバーし、うまく技術が向上できている」と話す。主体性を高め、男女の分け隔てなく周囲をサポートし合いながら、それぞれのスキルやチーム力を高めてきた。

 一日の練習では「正射必中」(正しい射法で射られた矢は必ず中る)を目指す。「弓道は自分との勝負。昨日と同じようにしっかりとできるかどうか…」と、ふたりは強調する。弓は引く力の強弱によって使用する長さや重さがわずかに変わり、矢にも重さの微妙な加減がある。一日、100本近い矢を放ち続け「練習では実はいろいろなチャレンジもしていて、タイミングやポイントを修正しながら、実践で鍛え込む。射る時の不安を克服することが大事で、弓を引く時のすべての動作、一連の流れを頭の中で作っている」そうだ。弓道場で11人が横一線に並び、的を射る練習シーンは圧巻。磨き上げた板の間と、開放感に満ちた空間には研ぎ澄まされた空気が漂う。

 立命大の女子がこれまで2度の優勝(06年、18年)を誇る全国大学選抜大会は1チーム4人で4射1回の16射(昨年の決勝は桜美林大に11―15)。4度の優勝経験(09、11、14、19年)があるインカレの団体戦は1チーム3人で4射1回の12射(昨年の決勝は東北学院大に8−10)。昨年制した全日本学生女子王座決定戦は4人1チームで予選は48射、決勝は80射で競う。出場校が多い選抜やインカレでは、予選から決勝トーナメント戦まで長丁場だ。それでも昨年、ふたりの立ち順(ポジション)は不動だった。丸山は最後の締め役を担う「落」(おち)。石山はその前を請け負う「落前」(おちまえ)。「落」は矢が的に中(あた)るかどうか、勝敗が決まるプレッシャーに動じず、きっちりと中(あ)てあられる精神力の強さが求められ、「落前」は良い流れはつなぎ、悪い流れは断ち切る冷静さや粘り強さ、さらに「落」に匹敵するタフなメンタルがなければ、全国レベルでこの立ち順は務まらない。

 大学生活の半分が過ぎた。3年となる今年度から女子の主将に就任した丸山は「インカレと東西対抗は個人戦があるけど、関西リーグやインカレの団体戦で勝てば、全国大会につながる出場枠も獲得できる。まずは団体戦で優勝することが目標。残り2年間、3つの全国大会の団体戦で6回優勝できれば…」と、次なる標的を示す。過去に年間3冠を達成した大学はなく、女子の2冠も関西勢ではない。「準優勝だった選抜、インカレも今年は必ず雪辱を果たして優勝したい」と誓う石山。今年の三大大会の第一関門、全国大学選抜大会は6月、東京・明治神宮弓道場で行われる。3年後に創部100周年を迎える立命大が、今年こそ偉業を達成し、絶対女王の座に君臨する。

◇丸山 来夏(まるやま・こなつ)愛知県出身。4歳から小学2年まで4年間、父の仕事により米インディアナ州で過ごし、当時は水泳や体操に取り組む。豊橋市・南稜中進学を機に弓道を始めた。豊橋商では全国優勝を経験し、立命大・国際関係学部に進学した。グローバルな視野を養う国際関係学部があったことも受験した大きな理由のひとつ。「日本と外国の文化の違いに興味があり、日本古来の伝統文化である弓道にも結びつく」と指摘する。今年度からは弓道部女子主将のほか、大学の体育会本部にも所属し、体育会60団体の統括やサポート、地域と連携する企画・運営なども行う。日本の3人組ロックバンド「K A L M A」のファンでリラックスしたい時などよく聞いている。卒業後は地元に戻る考えで、生涯スポーツでもある弓道は「社会人になると時間が限られるけど、継続できるようにしたい」と話す。身長171センチ。

◇石山 和奏(いしやま・わかな)静岡県出身。掛川西中までは陸上競技の中距離選手。静岡・菊川市の小笠高に進み「今まで経験がない新たなスポーツにチャレンジしたいと思った」と、弓道を始めた。丸山とは同じ東海地区で当時から名前と顔は知っていたそうで、練習試合を行ったこともあるという。一時は高校で弓道を辞めようと思案し、看護の道を目指すことも考えたが、恩師の勧めもあり立命大・文学部に進学。「小学生の頃から読書が好きで、ゼミでは近現代の文学を学びたい」。好きな作家は本屋大賞を2度受賞した凪良(なぎら)ゆう。登場人物の繊細な心理模写など「すべての作品が好き」と話し、アニメや映画鑑賞でも気分転換を図る。最近見た映画の中では「余命一年と宣告された僕が、余命半年の君と出会った話。」に最も感動して泣き、ストレスを発散できたそうだ。身長165センチ。