レスリング女子の強豪校・至学館大で、吉田沙保里ら多くの五輪金メダリストを指導、育成した栄和人氏(64)が20日、3月末で同校監督を退任することを明らかにした。栄氏が約25年にわたり指導した同校では吉田、伊調馨ら出身選手が延べ14個の五輪金…
レスリング女子の強豪校・至学館大で、吉田沙保里ら多くの五輪金メダリストを指導、育成した栄和人氏(64)が20日、3月末で同校監督を退任することを明らかにした。栄氏が約25年にわたり指導した同校では吉田、伊調馨ら出身選手が延べ14個の五輪金メダルを獲得。お家芸種目と呼ばれるほど、日本女子を世界有数の強豪国に導いた。スポーツ報知の取材に栄氏は「十分やり切った」と語った。
女子レスリング大国の礎を築いた至学館大で、栄氏が監督の退任を考えたのは昨年6月。退任を決断した理由について栄氏は「若い指導者に任せて、ここは一線を退いた方がいいと判断しました。もう僕は十分やり切った」と説明した。
女子指導の第一人者に中国、韓国、モンゴルから代表監督の要請もあったといい、モンゴルは朝青龍、白鵬(現宮城野親方)の大相撲の元横綱からラブコールを受けたが辞退した。4月以降は同校でレスリングを教える非常勤講師を務める予定で、大学生や社会人の練習を支援する立場に回る。
04年アテネ大会から五輪正式種目入りした女子で、日本協会の代表コーチ、強化本部長を務めた。当時栄氏が指導した後の4連覇・伊調馨含め、吉田、登坂絵莉、土性沙羅、川井梨紗子(現・金城)、川井友香子、向田真優(現・志土地)ら同校出身の教え子が獲得した金メダルは延べ14個を数え、銀と銅のメダル獲得総数では19個に上った。栄氏は「選手の頑張りが一番だったが、高校、大学の一貫教育のお陰でもあったと思う。大学が取り組んだ成果だと言いたい」と語った。
一方で、18年4月に伊調馨へのパワハラが認定され、日本協会の強化本部長を辞任。同年に至学館大の監督も解任されたが、19年に監督に復帰した。当時について「指導者が神経質になっていた時代で、僕も厳しい指導が大事だと思っていた。いろいろあったがボタンの掛け違いがあったと思う」と語った。
指導者として一番の思い出は愛知・中京女子大(現至学館大)付高の教員時代に伊調馨を預かったこと。「当時、青森・八戸からきた馨を車に乗せて片道1時間かけて家と学校を往復した。教員の仕事をしながら日本を担う将来の有望選手を預かった重圧は相当なものだった」と振り返った。(小河原 俊哉)
◆栄 和人(さかえ・かずひと)1960年6月19日、鹿児島・奄美市生まれ。64歳。鹿児島商工高(現樟南高)でレスリングを始め、日体大1年まで116勝。フリー62キロ級で87年世界選手権銅、88年ソウル五輪代表(4回戦敗退)。90年から女子指導者。96年に愛知・中京女子大(現至学館大)付高に赴任。03年から同大監督。04年日本協会女子代表ヘッドコーチ、08年同女子強化委員長、14年同強化本部長。パワハラ問題などで18年6月に至学館大監督解任も19年12月に復帰。
サプライズで教え子謝恩会 ○…今月15日に至学館大のレスリング場で多くの教え子たちがサプライズの謝恩会を実施した。登坂さん、土性さん、金城さんら五輪金メダリストもかけつけ、ねぎらわれた。所用で参加できなかった吉田さんからも「もう十分頑張ったよね。お疲れ様でした」と電話で連絡を受けた。栄氏は「厳しく指導することもあったけど、こうやって教え子たちに送り出せてもらえて僕は幸せ者です。選手たちには感謝しかない」と語った。