第97回選抜高校野球大会でNHKの解説者を務め、選手への愛情あふれる語り口で注目を集める社会人野球・NTT東日本の元監督、飯塚智広さん(49)には、緊張して全く覚えていない試合がある。大舞台に臨む選手や監督を、敬意を持って見つめてい…

第97回選抜高校野球大会でNHKの解説者を務め、選手への愛情あふれる語り口で注目を集める社会人野球・NTT東日本の元監督、飯塚智広さん(49)には、緊張して全く覚えていない試合がある。大舞台に臨む選手や監督を、敬意を持って見つめている。
「後にも先にも、1試合だけ、丸々自分の記憶から抜け落ちている。ちょっと不思議な感じです」
日本代表の一員として出場した2000年のシドニー・オリンピックの初戦、米国戦がその試合だ。プロの出場が解禁され、初めてプロアマ合同で臨み、次のメンバーが先発出場した。
1番・左翼 田口壮(オリックス)
2番・中堅 飯塚智広(NTT東日本)
3番・一塁 松中信彦(ダイエー)
4番・三塁 中村紀洋(近鉄)
5番・遊撃 田中幸雄(日本ハム)
6番・指名打者 阿部慎之助(中央大)
7番・右翼 梶山義彦(三菱自動車川崎)
8番・二塁 平馬淳(東芝)
9番・捕手 鈴木郁洋(中日)
投手 松坂大輔(西武)
飯塚さんは千葉・二松学舎大沼南(現二松学舎大柏)高、亜細亜大を経て社会人に進んだ。選手時代は、ほぼすべての試合で第1打席は緊張したというが、極度の緊張により、試合を全く覚えていないのはこの試合だけだった。
当日に試合会場で先発起用されることを知った。3人ずつ行う打撃練習で、最初のグループに自分の名前を見つけた。
その順番は打順を示すことから日本代表の大田垣耕造監督に「これってどういうことですか」と聞くと、「そういうことだよ」(名前が2番目にあり2番打者で出る)と言われた。
プロ選手もいる中で上位打線で先発することになり、「そこから記憶が飛んでしまった。何も覚えていない」と振り返る。
NTT東日本では監督として17年に都市対抗優勝に導くなど実績を残した。指導者になってからも頭が真っ白になる場面はあったというが、「優秀なコーチに支えられた」と感謝する。
コーチ陣には、自分と異なる、さまざまな考え方を持つメンバーをそろえた。そのように備えたことで、ピンチでも多様な意見が出て、より良い決断を下せたといい、「同じ色ではなく、凸凹でいることも良かった」と話す。
自身は高校時代に甲子園には届かなかった。甲子園でプレーする選手たちには「野球をやってきて、努力が実って(甲子園に来られて)良かった、ということを言葉で伝えたい」と語る。
予測しないことも起きるのが甲子園。「プランが崩れた時に監督はどう決断するのか。僕ら(社会人チーム)は周りにコーチがいるが、高校野球は決断は(監督)一人のことが多い。それはすごいと思います」。選手にも監督にも敬意を抱きながら、解説に臨んでいる。【江連能弘】