第97回選抜高校野球大会(毎日新聞社、日本高校野球連盟主催)で18日の開幕試合に登場する柳ケ浦(大分)。マネジャーの大学雄斗さん(3年)は2024年夏に選手から転身した。選手を諦められず迷いに迷った末の決断を後押ししたのは、高校時代…

第97回選抜高校野球大会(毎日新聞社、日本高校野球連盟主催)で18日の開幕試合に登場する柳ケ浦(大分)。マネジャーの大学雄斗さん(3年)は2024年夏に選手から転身した。選手を諦められず迷いに迷った末の決断を後押ししたのは、高校時代に同じような経験をしたコーチの言葉だった。
2月下旬、大分県宇佐市にある柳ケ浦の野球場。選手と少し離れた場所でラインカーを手に白線を引き、ベースを置く大学さんの姿があった。練習が始まると、外野ノックでバットを握り、打撃練習では投手に。実戦練習ではプロテクターを身に着けて球審に就く。黙々と役割をこなす大学さんがかぶる帽子のつばには、自らの目標がこう書き込まれている。
「全力サポート 大分NO1MG(マネジャー)~仲間~」
目標の意味を、大学さんは「チームが一番になれば、それは一番のマネジャーになれたということ。そのために選手たちを全力でサポートしたい」と語る。
千葉市出身。小学2年で野球を始めたが、小5の時に右肘の軟骨がはがれかけ、中学入学後も手首を骨折するなどけがに苦しんだ。
それでも「寮に入り、野球漬けの生活がしたい」と両親を説得し、柳ケ浦へ進学。捕手としてプレーしていたが、昨春、右膝を痛め、捕球の姿勢を取れなくなった。
そこへ、指導陣からマネジャーへの転身を打診された。復帰を目指していた大学さんにとって、マネジャーは「選手を諦めた人がやるもの」との思いがあり、いったんは断った。だが、両親らと話す中で、選手を続けるには厳しい現実も感じるように。そんな時、同じ寮で暮らすコーチの小布施承太郎さん(24)に自室に呼び出された。
小布施さんは、甲子園に春夏計38回出場した星稜(石川)出身。当初捕手だったが、1学年下には、後にプロ野球・巨人に入団した山瀬慎之助捕手がおり、圧倒的な実力差を見せつけられる中、マネジャーに転向していた。
「選手を諦めたら、野球は終わりなのか。野球を通じて別の道に行くだけじゃないか。いまお前にしかできない経験をしたら、今後の人生で役立つはずだ」
小布施さんにこう諭され、大学さんは説得力を感じた。小布施さんがマネジャーをしていた時、星稜は13年ぶりのセンバツに出場して夏の甲子園にも出場。その働きぶりが評価され、小布施さんは亜細亜大に学生マネジャーとしてスカウトされた。柳ケ浦に赴任したのも、大学時代に鈴木聡監督と親交があったことがきっかけだった。
マネジャーの「先輩」を追って大学さんが歩み出した新しい野球の道。1月にチームのセンバツ出場が決まると、翌日、小布施さんからグリップ部分に「MG」と彫った特注のノックバットをプレゼントされた。小布施さんは「チームを支えるあいつの存在は大きい。(転身の)つらさも分かるからこそ、頑張ってほしい」とエールを送る。
初戦の二松学舎大付(東京)戦に記録員としてベンチに入る予定の大学さんは「本番は緊張すると思うが、自分とノックを重ねてきた選手たちには、迷わず前に出る強気な守備を見せてほしい」と期待を込めた。【山口泰輝】