サッカー日本代表は、26年北中米W杯アジア最終予選バーレーン戦(20日・埼玉)で勝利すれば、8大会連続のW杯出場が決定する。スポーツ報知では森保ジャパンの進化の一つとして、MF三笘薫(27)=ブライトン=の変化に着目。三笘の母校で大学サッ…
サッカー日本代表は、26年北中米W杯アジア最終予選バーレーン戦(20日・埼玉)で勝利すれば、8大会連続のW杯出場が決定する。スポーツ報知では森保ジャパンの進化の一つとして、MF三笘薫(27)=ブライトン=の変化に着目。三笘の母校で大学サッカー屈指の強豪、筑波大学蹴球部でトップチームアナリスト(分析担当)を務める中野愛斗氏(19=1年)に分析を依頼し、三笘の“成長過程”を追った。(構成・金川誉)
今やプレミアリーグでもトップクラスのウインガーとして評価されるようになった三笘の成長は、そのまま日本代表の進化に直結している。今回、中野氏は日常的にプレーを続ける中での成長を測るため、プレミアリーグ・ブライトンでのカタールW杯直後の2022―23年と、今季24―25年のスタッツを元に分析。21―22年まではベルギーのサンジロワーズ、23―24年はブライトンでもケガの影響で試合数が少なかったため、この2シーズンの比較(今季は第28節時点のデータ)により、進化を解き明かした。
筑波大ではアナリストとして他大学や自チームの分析を行う中野氏。今回たどり着いた結論は明確だった。「三笘選手は『サイドドリブラー』から『内側でもプレーできるウインガー』に進化したと言えます。実は、三笘選手だけでなく、今世界のトップオブトップのウインガーは内側でもプレーできるスキルが備わっています。Rマドリードのブラジル代表FWビニシウスやリバプールのエジプト代表FWサラーを始めとするウインガーは、内側に入ってもスーパーなプレーヤーです。そういった意味で三笘選手は、現代フットボール界に求められるスキルを兼ね備えたウインガーに進化したと言えます」
まずは攻撃面での変化に、データを基に迫った。
「主な攻撃のスタッツを見ていくと、ゴール数では今シーズンは22―23年に並ぶ7ゴールを記録しています。この背景には、『プレーエリアの変化』が考えられます。それは、下の図(※ヒートマップ)が参考になります。三笘選手のプレーエリアのヒートマップで、赤いほどそのエリアでのプレーが多いことを表します。明らかにペナルティーエリア内の色が22―23年に比べて今季の方が赤くなっています。また左サイドのエリアも、相手ゴールに近い位置まで赤くなっています。また少し分かりにくいですが、左ハーフレーン(ピッチを縦に5分割した際の外から2番目のエリア)のプレーが多くなっていることも分かります。つまり、三笘選手は今季、22―23年に比べ、より内側で、より相手ゴールの近くでプレーしていることがわかります。これが、得点が増えている要因と考えられます」
また同時に“減った数値”にも着目した。「90分当たりのドリブル成功数は2・3回から1・7回に減少しています。これはドリブルが対策されて簡単に抜くことが出来なくなっていること以上に、プレースタイルの変化だと言えます。より相手ゴール前でプレーしていることから、要求されているプレーがドリブル突破ではなく、中央での味方との連携や裏への抜け出しによるチャンスメークやゴールになっています。2節のマンチェスターU戦のアシストや12節のボーンマス戦でのゴールがそのタスクを象徴しています」
また中野氏は攻撃面だけでなく、注目されることが多くはない守備の進化についても、明確なデータを示す。
「先程のヒートマップを見ると、自陣での赤色のエリアも多いことから、守備意識が高まっていることが分かります。さらに目立つのがデュエルの部分で、22―23年に比べて今季は、デュエル勝利数が4・8回から5・8回(1試合平均)、デュエル勝利率が42パーセントから50パーセントと大幅に向上しています。世界で一番激しいと言われるプレミアリーグでこの数値を出せることは、攻撃だけでなく守備も一流だということ。試合を見ても、クロス対応の部分でマークを外すことも少なく、1対1の守備も粘り強く簡単に抜かれることはありません」
この進化は、W杯では格上の相手と戦う試合も増える日本代表にとっても、大きなプラスとなる。22年カタールW杯では、攻撃の切り札として全4試合で途中出場だった三笘。しかし現在は攻守に貢献する力を備え、不動のレギュラーへと進化した。また守備面での進化は、日本に戦い方の幅を与えると中野氏は見る。「3バックで戦うこともある日本代表で、左ウイングバックを1試合通して務めることも十二分に可能ではないでしょうか。もう1つ特徴的なのが、三笘選手はプレミアリーグの3年間で受けたイエローカードはわずか4枚で、今季は1枚ももらっていません。どんな時でも冷静にプレーできることは強み。累積警告が影響するW杯の舞台では、大きなアドバンテージとなる可能性があります」
攻守両面から、着実な進化を遂げている三笘。先輩の活躍について「僕は天皇杯で活躍していた大学時代の三笘さんを見て、筑波大のことを知りました。三笘さんが昨年、オフに大学に来て学生たちからの質問に答えてくださった時、大学時代から常に自分が1番だ、という自信を持ってプレーしていたこと、また食事やトレーニングは基本的な積み重ねが何よりも重要、とおっしゃっていたことが印象に残っています。もちろん三笘さんだけではなく、活躍している先輩たちのワンプレーワンプレーに、僕だけでなく筑波大生は刺激を受けています」と語った中野氏。プレーの幅も広げ三笘が、W杯での頂点を目指す日本代表にとって“最大の武器”であることは間違いない。
◆中野 愛斗(なかの・あいと)2005年11月5日、福岡県生まれ。19歳。小倉南FC、小倉東高校サッカー部を経て、指導者、アナリストの道を志して筑波大に進学し、蹴球部に入部。現在はトップチームアナリスト兼Cチームヘッドコーチを務める。筑波大蹴球部には専門のアナリストが4名、選手兼任や大学院生も含めれば、約15名がアナリストとして活動している。