前橋育英の7年ぶり2回目の優勝で幕を閉じた、今年度の全国高校サッカー選手権大会。プレミアリーグ勢同士の対戦となった流通経済大柏との決勝戦は、1-1からのPK戦でも10人目まで決着が持ち込まれ、見応えのある激闘となった。 観戦チケットも試合…

 前橋育英の7年ぶり2回目の優勝で幕を閉じた、今年度の全国高校サッカー選手権大会。プレミアリーグ勢同士の対戦となった流通経済大柏との決勝戦は、1-1からのPK戦でも10人目まで決着が持ち込まれ、見応えのある激闘となった。

 観戦チケットも試合前日までに完売し、会場の東京・国立競技場につめかけた観衆は、5万8000人超。あらためて100年以上の歴史を持つ選手権人気の高さがうかがえた。


高校サッカー選手権決勝でハイレベルな戦いを見せた前橋育英と流通経済大柏

 photo by Kishiku Torao

 そんな今大会決勝にあって注目したいのは、対戦した両校が、ともに2日前の準決勝から先発メンバーを入れ替えていたこと。わずかにひとりずつとはいえ、それが日本一を決める最終決戦であることを考えれば、画期的なことだと言ってもいいだろう。

 今大会は昨年12月29日の1回戦から中1日の試合間隔で準々決勝までが行なわれ、そこから中6日で準決勝が、中1日で決勝が行なわれた(1回戦のうち開幕戦のみ12月28日開催)。

 つまりは、準々決勝と準決勝の間だけは"常識的"な試合間隔がとられていたが、それ以外は中1日の過酷な連戦というわけだ。

 かつての選手権では、1月2日の1回戦から1月8日の決勝まで7日間で最大6試合を戦っていたことを思えば、かなり日程が緩和されてはいるが、それでも厳しいことに変わりはない。

 ところが、多くの出場校の選手起用を見ていると、試合ごとにターンオーバーやローテーションが行なわれることはほとんどなく、いわばベストメンバーが大会を通じてピッチに立ち続けるのが常だった。

 たとえば、昨年度の大会を制した青森山田は、大会初戦(2回戦)から決勝までの5試合で、すべて同じ11人が先発メンバーに名を連ねていた。しかも、昨年度の大会は今年度と違い、暦の関係で1月8日が決勝だったため、1回戦から決勝までがすべて中1日で行なわれていたにもかかわらず、だ。

 負ければこの大会が終わるどころか、高校3年間の活動に終止符が打たれてしまうとあっては、仕方がない面もあるとはいえ、その分、選手への負担は大きくなる。まして近年は、高校サッカーにおいてもプレー強度の高さが要求されるようになったことを考えると、なおさらだ。

 だからこそ、今大会の決勝が画期的だったと感じるのである。

 しかも、優勝した前橋育英が先発メンバーを入れ替えたのは、決勝だけではない。1回戦からの6試合を振り返ると、3回戦から準決勝までの3試合を同じ先発メンバーで戦っているが、それ以外は試合ごとに入れ替わっていることがわかる。

 小さな体と鋭いドリブルで今大会のアイドルとなった白井誠也(2年)にしても、先発出場は2回戦の1試合のみ。選手層の厚さがあるからこそ、これほどの選手でもベンチに置くことができ、先発メンバーを入れ替えることも可能になるのだろう。

 高校年代でもリーグ戦が定着し、"負けても次がある試合"が増加。多くの選手がプレーしやすくなった環境も、選手起用の幅を広げているに違いない。

 そんな前橋育英以上に先発メンバーが頻繁に入れ替わっていたのが、準優勝の流通経済大柏である。

 流通経済大柏は今大会の全5試合(大会初戦が2回戦)で、必ず先発メンバーが入れ替わり、すべての試合に先発出場した選手は7人だけ。合計15人の選手が、1試合以上に先発出場していた。過去の大会をさかのぼっても、こうした選手起用で決勝まで勝ち上がってきた高校というのは、ほとんど例がないのではないだろうか。

 もちろん、全国屈指の強豪校ゆえの分厚い選手層があるから可能なことかもしれない。

 実際、前橋育英との決勝を振り返っても、途中出場でピッチに立った和田哲平(3年)がわずかな出場時間で負傷交代を余儀なくされたにもかかわらず、代わって入った安藤晃希(2年)が、キレのいいドリブル突破を何度も見せていた。そもそも今大会3ゴールの和田を決勝でベンチに置くこと自体が簡単ではない決断のはずだが、その後の思わぬアクシデントもまた、図らずも選手層の厚さを見せつける格好になった。

 だが、そこには同時に、選手のコンディションに対する配慮もあったのではないだろうか。

 今大会の流通経済大柏は、湘南ベルマーレ入りが内定している松本果成(3年)を擁していたが、大会前に体調を崩したことで、準々決勝まではすべて途中出場。準決勝で初めての先発出場となったものの、そこでヒザを痛め、決勝では控えメンバーからも外れている。

 かつての選手権では、のちにプロで活躍するような選手が、(当然、本人の強い希望もあっただろうが)その能力の高さゆえメンバーから外すことができず、テーピングでヒザや太ももをがっちりと固めた痛々しい姿でピッチに立ったこともあるが、松本の場合はベンチ外。先発出場はおろか、途中出場さえさせなかったのは、選手の未来を考えればこその判断だったはずだ。

 もちろん、こうした選手起用はすべての高校が真似できるものではないだろう。一戦必勝でようやく全国の舞台にたどり着いた初出場校に、同じことを期待するのは酷な話かもしれない。

 とはいえ、中1日での連戦が基本となる"非常識"な大会において、とりわけ決勝まで勝ち上がろうという高校は、もっとこうした選手起用が習慣化されていい。

 今大会のファイナリスト2校、とりわけ流通経済大柏の選手起用には、学ぶべきところが多かったのではないかと思う。