冬の風物詩、全国高校サッカー選手権大会が終わった。決勝戦は見応えのある内容で、大いに盛り上がったが、サッカージャーナリスト後藤健生は、こうした好ゲームを増やし、日本サッカーのレベルを向上するためには、大会に「改造」が必要だと考える。その改…

 冬の風物詩、全国高校サッカー選手権大会が終わった。決勝戦は見応えのある内容で、大いに盛り上がったが、サッカージャーナリスト後藤健生は、こうした好ゲームを増やし、日本サッカーのレベルを向上するためには、大会に「改造」が必要だと考える。その改造プランの内容は?

■優勝を狙う「実力校」の戦い方

 当然、プロを目指すような実力校と部活的なチームの間には大きな実力差が存在する。

 そうなると、試合はかなり一方的なものにならざるを得ない。

 しかし、高校サッカーは準々決勝までは80分(40分ハーフ)で行われ、同点で終了した場合は延長なしのPK戦というレギュレーションで行われているから、通常の試合よりも番狂わせが起こりやすい。

 実力的に劣るチームでも、しっかりと対策を立ててハードワークして失点を防ぐことさえできれば、活路を見出だせるのだ。セットプレーを利用して、あるいは幸運に恵まれて1点が奪えれば、ジャイアントキリングが実現するし、PK戦に持ち込めば次回戦に進出できる。

 では、優勝を狙う実力校はどんな戦い方をすればいいのか……。

 なにしろ、そうした番狂わせが起こりやすいノックアウト式トーナメントの大会なのだ。少しでも勝ち進む可能性を上げるためには、慎重の上にも慎重を期して戦う必要がある。

 準決勝で東海大相模に勝利して決勝進出を決めた後の記者会見で、流通経済大柏の榎本雅大監督がこんな話をした。

「リーグ戦ではアグレッシブに戦った。ではトーナメントではどうするか? 勝とう、勝とうでは大雑把になる。勝とうというより、負けないことにシフトした」

■高校サッカーでは「当然」の戦術に

 勝つためのサッカーよりも、負けないサッカーをする……。それが、ノックアウト式トーナメントの大会で優勝するための方法だというのだ。

 実際、流通経済大柏は東海大相模よりも実力は明らかに上だったが、慎重に戦ってPKによる得点を守り切って1対0という最小スコアで勝利して決勝への切符を手にした。

 これまで何度も優勝を飾ってきた青森山田も守備を強化して負けないサッカーで戦ってきた。そういう戦い方を構築してきたのが、昨年のJ1リーグで旋風と論争を巻き起こしたFC町田ゼルビアの黒田剛監督だった。黒田監督の青森山田はロングスローを有効に使ったが、今では高校サッカー界では当たり前の戦術になってしまっている。

 本来、ロングスローは弱者が強者に抵抗するための武器であるべきなのだが……。

「負けないサッカー」。それは、当然の選択である。ノックアウト式トーナメントで番狂わせを避けながら、1戦1戦勝ち抜いていくことで決勝への道が開けるのだ。攻撃的なサッカーで戦うよりも確実性は高い。なにしろ、リーグ戦と違ってひとつ取りこぼしたら、次がないのだから……。

 そして、優勝あるいは決勝進出という成果を出すことは、当然、選手たちの自信にもつながるし、そういう「勝利という目標から逆算して戦う戦い方」を経験しておくことは、将来、プロに進んだり、日本代表で戦うときにも役に立つことだろう。

■観客数が示す育成年代の「主従」逆転

 そして、同時に強豪校を率いる監督にとっては、結果を出すことは義務でもある。選手のため、チームのためであると同時に、学校のため、そして学校を経営する学校法人のためにも結果を出すことは必須なのだ。

 学校法人は、スポーツの全国大会で名を売ることで受験生を増やし、学校の価値を上げることができる。多くの予算を使ってサッカー部強化を進める学校法人のために、監督たちは全国大会で結果を出すことが与えられた任務なのだ。

 だが、サッカー強化のため、選手育成のためには、そうした「負けないサッカー」が有効なのかどうかと考えれば疑問にも思える。

 もちろん、ノックアウト式トーナメントを経験することは悪いことではない。そこで、球際の激しさとか、メンタル・コントロールといったことを覚えることができる。だから、若い選手たちがリーグ戦とノックアウト式トーナメントの両者を経験しておくべきなのは当然だ。

 だが、「育成」という観点からすれば、アグレッシブな戦いができるリーグ戦を「主」、トーナメント方式を「従」と見なすべきなのは間違いない。

 だが、少なくとも高校生選手たちにとっては、最大の「主」目標がトーナメント方式の全国高校サッカー選手権大会であるのは間違いない。

 リーグ戦形式の大会の最高峰であるはずの高円宮杯プレミアリーグ・ファイナル(12月15日・埼玉スタジアム、大津高校対横浜FCユース)の観客数は3394人。高校サッカー決勝戦のわずか18分の1だった。(3)に続く。

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