冬の風物詩、全国高校サッカー選手権大会が終わった。決勝戦は見応えのある内容で、大いに盛り上がったが、サッカージャーナリスト後藤健生は、こうした好ゲームを増やし、日本サッカーのレベルを向上するためには、大会に「改造」が必要だと考える。その改…
冬の風物詩、全国高校サッカー選手権大会が終わった。決勝戦は見応えのある内容で、大いに盛り上がったが、サッカージャーナリスト後藤健生は、こうした好ゲームを増やし、日本サッカーのレベルを向上するためには、大会に「改造」が必要だと考える。その改造プランの内容は?
■5万8347人の前の「激闘」
第103回全国高校サッカー選手権大会決勝戦は、東京・国立競技場に5万8347人の大観衆を集めて行われ、前橋育英と流通経済大柏が激闘を繰り広げて1対1の引き分けに終わり、PK戦の末に前橋育英が7大会ぶり2度目の優勝を決めた。
両者は「高円宮杯JFA U-18サッカープレミアリーグ」での対戦でも、1勝1敗と互角の星を残しており、まさに実力が伯仲していた。
キックオフ直後に流通経済大柏が先手を取って相手陣内に押し込んで、そのまま12分にこぼれ球を拾った亀田歩夢が決めて先制したが、以後は前橋育英も盛り返して一進一退の戦いとなり、31分には右サイドでサイドチェンジのパスを受けた黒沢佑晟が巧みなターンでDFを外してクロスを上げ、MFの柴野快仁が頭で合わせて同点。
後半から延長にかけても互いに攻撃を仕掛け合うが、守備力も強く、またGKのファインセーブもあって得点には至らずに引き分けに終わった。
ボールテクニックと推進力。運動量や球際の強さ……。サッカーという競技に求められる要素にはさまざまあるが、それらのバランスが取れた好ゲームだった。
また、途中交代の選手が特徴を生かして流れを変えたり、負傷でシナリオ通りではない交代を余儀なくされた場面でも、交代出場した選手が活躍できるだけの選手層の厚さにも感心した。
この大会では、決勝戦といっても実力差があってかなり一方的になることも多いが、これほど実力が伯仲した緊迫感ある決勝戦というのは、いったい、いつ以来のことだろうか。
さらに両者はPK戦も互いに譲らず、10人目までもつれ込んだ。
準決勝までは次ラウンド進出チームを決めるためにPK戦が必要だが、高校生の大会で決勝が引き分けに終わった場合にPK戦で決着をつけさせる必要はあるのだろうか? 昔のように両校優勝でもよかったような気がする(そうすれば、PK戦の模様が放映できないといった“放送事故”も防げる)。
本当なら再試合を行って決着をつけさせてあげたかった。2日後とか、1週間後に再試合を行えば、さらに盛り上がること間違いないのだが……。
■熱戦が減る「最大の理由」
さて、史上最高の大観衆を集めた中で、非常にハイレベルな決勝戦が繰り広げられたので「終わり良ければすべて良し」という気持ちにもなるが、こういうハイレベルの試合をもっとたくさん観たかったという気持ちも強い。
今大会では、僕は10試合をスタジアムで観戦したが、本当に素晴らしいゲームだと思えたのは、決勝戦のほかには3回戦の流通経済大柏対大津の一戦だけだった。
大津は高円宮杯プレミアリーグWESTで優勝し、Uー18年代の最強チームを決めるプレミアリーグ・ファイナルではEAST優勝の横浜FCユースを下して優勝しており、大会前から優勝候補に挙げられていたチームだった。
こちらも、テクニックと球際の激しさを両立させたスリリングな攻防が90分間続く大熱戦となった。
こうした試合を、もっと観たいのである。
だが、現実にはそうではない試合が多くなってしまう。もちろん、観戦する試合がいつもそんな熱戦になるというのは贅沢な希望なのだが、この年代で内容の濃い試合が繰り広げられれば、日本のサッカーの将来はさらに明るいものになるはずだ。
好試合ばかりでなくなってしまう最大の理由は、参加校間の実力差だ。
最近の高校サッカーは地域間格差は小さくなっている。かつて、静岡県勢が圧倒的な強さを誇っていた時代が長かった。1970年代から90年代くらいの話だ。清水東や清水市商、静岡学園、そして古豪の藤枝東などが切磋琢磨しており、「静岡県大会は全国大会よりレベルが高い」などと言われていた。
その前は、埼玉県の浦和勢と藤枝東を中心とする静岡勢が競り合っていた時代もあった。
浦和でも浦和高校をはじめ、浦和市立、浦和西、浦和南など強豪校が競り合うことで力を上げた。さらに昔にさかのぼれば、第2次世界大戦をまたいで「広島の時代」もあった。
広島、埼玉、静岡が高校サッカーの「御三家」と呼ばれていたのだ。
■関東勢「勝ち残り」は偶然
だが、今ではサッカーは日本全国で盛んになり、地域間格差は小さくなっている。
第103回大会では関東勢3校がベスト4に勝ち残ったので「高校サッカーも関東勢優位の時代か」などと言った人もいるが、今回、初出場の東海大相模を含めて関東勢3校が残り、関東勢同士の決勝となったのは偶然のことだろう。最強と言われた大津も、流通経済大柏戦で勝利していれば、当然、決勝戦に残っていてもおかしくなかった。その他にも、可能性を秘めたチームはいくつもあった。
最近10年を振り返ると、青森山田が4度も優勝している。
青森県といえば、およそ「サッカーどころ」とは言えない地域である(J3リーグとJFLに1チームずつ参加しているが……)。地域間格差が小さくなったのは、この青森山田のように全国から中学生年代の好素材を発掘して、プロ並みのトレーニング施設を備えて強化する高校がどの地域にもあるからでもある。
こうした高校からは、毎シーズンのようにJリーグに進む選手が輩出される。
そうした全国大会優勝とプロ選手の育成を目指す強豪校と、普通の高校の部活動的なチームが混在しているのが、この全国高校サッカー選手権大会なのである。(2)に続く。