常人には耐えられないハードスケジュールが、例によって続いている。 多くの監督、選手が「このままでは壊れてしまう」と嘆いても、FIFAもUEFAもプレミアリーグも我関せず。あくまでビジネスを優先する。「試合数は選手、クラブの預金通帳に直結し…
常人には耐えられないハードスケジュールが、例によって続いている。
多くの監督、選手が「このままでは壊れてしまう」と嘆いても、FIFAもUEFAもプレミアリーグも我関せず。あくまでビジネスを優先する。
「試合数は選手、クラブの預金通帳に直結しているのだから、彼らがぐだぐだと文句を並べるのはおかしい」
アレクサンデル・チェフェリンUEFA会長の発言にはゾッとする。サッカーにおいて、いや、スポーツにおいて選手は宝であるにもかかわらず、UEFAのボスは選手を消耗品としか考えていない。
三笘薫のベンチスタートは休養させるためだ
photo by AFLO
ワールドカップやヨーロッパ選手権、チャンピオンズリーグなど、メジャータイトルは拡大する一方だ。ヨーロッパにはネーションズリーグという、存在意義が極めて薄い大会が2018年から始まった。1シーズンの試合消化数が80を超える選手もおり、各チームのメディカルスタッフがありとあらゆる努力を尽くしても、健康体を維持できない選手が激増している。
こうした状況を踏まえ、プレミアリーグの監督は大会によって若手を軸に据えたり、中2日の試合では主力を休ませたり、ローテーションを活用する。シーズン前に掲げた目標を達成するために、選手の健康管理は必須だ。ピッチに立ちたい若者が「行けます」と出場を直訴しても、メディカルスタッフと入念なミーティングを重ね、完全休養を言い渡すケースもあるという。
アーセナルの冨安健洋も同様だ。ひざの故障も癒え、芝生の上でトレーニングを再開している。ただ、「近年はケガを繰り返しているので、復帰にはより慎重にならざるをえない」。ミケル・アルテタ監督のこのコメントからも、現代のサッカーが抱える問題が浮き彫りになった。
ブライトンの三笘薫がスタメンから外れるたびに、「さぁ移籍」と内外のメディアが大騒ぎする。
彼はプレミアリーグ屈指の左ウイングだ。マンチェスター・シティ、リバプールをはじめとする強豪でも通用する。1月になって移籍市場が再開した。三笘を獲得するのではないか──。実に単純明快なストーリーである。
【無理強いすると古傷が再発するリスクも】
しかも三笘は、5月で28歳になる。年齢的にもビッグクラブへの移籍は最後のチャンスだ。ブライトンが設定したとされる5500万ポンド(約99億円)も多少は値引きできる、との憶測まで飛び交っている。
移籍市場のニュースとしては恒例で、現時点で特筆すべき動きはない。
三笘がスタメンから外れるのは、ファビアン・ヒュルツェラー監督がコンディションを最優先しているからに違いない。昨シーズンの三笘は腰と足首を負傷し、26節から欠場。その後のブライトンは2勝4分7敗と落ち込み、7位から11位にまで滑り落ちていった。
シモン・アディングラとヤシン・アヤリが急成長し、ユーティリティープレーヤーのソリー・マーチもひざのケガから1年ぶりに復帰したとはいえ、三笘の域には達していない。チャンピオンズリーグの出場権を得る4位以内とFAカップを獲得する最重要戦力が『KAORU MITOMA』 であることは、誰の目にも明らかだ。
だからこそヒュルツェラー監督は、三笘の健康に配慮しているのだろう。無理強いすると古傷が再発し、完治するまで長期化しかねない。
冨安やマンチェスター・ユナイテッドのルーク・ショー、メイソン・マウントは古傷に蝕まれ、悶々としたシーズンが続いている。三笘に彼らと同じ轍を踏ませるわけにはいかない。
「中盤戦を迎えるまで、カオルは数多くの試合に出場してきた。日本代表も含めると、かなりの距離を移動している。疲れていないわけがない。ピッチに立てばいつだって大きなインパクトを残してくれるけれど、彼にも休養は必要だ」
ブライトンの公式ホームページを通じ、ヒュルツェラー監督は全幅の信頼を明かした。移籍は九分九厘ない、と考えられる。
1月11日に行なわれたノリッジ戦(FAカップ3回戦)で、三笘は3試合ぶりにスタメン復帰。大方の予想どおりブライトンは4-0の圧勝を収め、三笘もフル出場している。ただ、ベストコンディションにはほど遠かった。彼らしくないイージーなミスも散見され、動きそのものも切れ味を欠いていた。
【敵将は三笘の後半出場に唇を噛んだ】
やはり、疲れを引きずっている。
チームに迷惑をかけていないため、「可もなく不可もなくの及第点」という一部の評価にはうなずけるものの、三笘は常に一定以上のインパクトを求められる稀有な存在である。コンディションが整うまで、本人もヒュルツェラー監督も、そして我々日本のファンも、もう少しだけ辛抱が必要だ。
ラインナップから外れたり、試合出場が短かったりすると、メディアはついついネガティブな発想を生む。マイナス思考に基づく情報に踊らされると、三笘とブライトンに失礼だ。
また繰り返しになるが、過密日程に抗うためにはローテンションの活用がチーム浮沈のカギを握る。三笘→アディングラでも、アディングラ→三笘でも、タイプの異なる左ウイングを使い分けたほうがいい。
「ミトマのような優れたウイングが後半から出てくるのだから、対応が難しかった。彼の登場で、試合の流れがガラリと変わった」
19節、ブライトンに2-2で引き分けたあと、アストン・ヴィラのウナイ・エメリ監督は唇を噛んだ。ローテーションとはいえ、58分から出場してきた三笘によってブライトンの攻撃は活性化した。
1月16日 イプスウィッチ(21節/A)
1月19日 マンチェスター・ユナイテッド(22節/H)
1月25日 エバートン(23節/H)
2月1日 ノッティンガム・フォレスト(24節/A)
2月8日 チェルシー(FAカップ4回戦/A)
2月14日 チェルシー(25節/H)
(日本時間)
プレミアリーグ残留という強烈なモチベーションを持つイプスウィッチ、ついに上向いたかに見えるユナイテッド、デイビッド・モイーズ新監督誕生でムードが一変したエバートン、20節終了時点で3位の絶好調フォレスト、さらにその翌週からはFAカップを含めてタレントの宝庫・チェルシーとの連戦だ。ブライトンに平穏の日は訪れない。
しかし、中2日はわずか1試合だけで、エバートン戦とフォレスト戦はともに中6日だ。疲労が蓄積している三笘にとっては願ったり叶ったりの試合間隔で、ヒュルツェラー監督も戦略・戦術を再確認する時間がつくれる。
【エゴイスト三笘も悪くない】
小指の先ほども焦る必要はない。コンディションさえ整えば、本来の三笘が戻ってくる公算は非常に大きい。彼に限らず疲労の蓄積が最大の敵であることは、昨今のプレミアリーグを見れば明らかだ。身体が言うことを聞かない場合は、休養が最良の薬である。
ただしふたつだけ、三笘には注文がある。まず、ペナルティボックスに入った時、パスではなくシュートを選択してくれないか。そして、同じスペースにジョアン・ペドロが姿を見せた時、「邪魔くせぇっ!」と怒鳴り散らしてくれないか。
もっともっと、わがままでいい。"エゴイスト"三笘も悪くない。