西部謙司が考察 サッカースターのセオリー 第31回 ケナン・ユルディズ&アルダ・ギュレル 日々進化する現代サッカーの厳しさのなかで、トップクラスの選手たちはどのように生き抜いているのか。サッカー戦術、プレー分析の第一人者、ライターの西部謙司…

西部謙司が考察 サッカースターのセオリー 
第31回 ケナン・ユルディズ&アルダ・ギュレル

 日々進化する現代サッカーの厳しさのなかで、トップクラスの選手たちはどのように生き抜いているのか。サッカー戦術、プレー分析の第一人者、ライターの西部謙司氏が考察します。

 今回は、ユベントスとレアル・マドリードでそれぞれ活躍する、トルコ代表のケナン・ユルディズとアルダ・ギュレルを紹介。ふたりとも19歳。2026年ワールドカップで世界を驚かせる可能性のある逸材です。


ユベントスのケナン・ユルディズ(左)とレアル・マドリードのアルダ・ギュレル(右)

 photo by Getty Images

【トルコが再び世界を驚かせる!?】

 トルコ代表は2002年日韓W杯で3位だった。ラウンド16で日本代表を1-0で下したチームはブラジルに準決勝で敗れたが、3位決定戦で韓国に勝利。W杯2回目の出場での快挙である。

 初出場は1954年スイスW杯、この時はレギュレーションの関係で西ドイツ代表に2度負けて大会を去っている。優勝したのは西ドイツなので、過去2大会はいずれも優勝国に敗れたことになる。

 UEFA(欧州サッカー連盟)加盟は1962年、その後しばらくは欧州の弱小国だった。2002年に久々にW杯で出てきて、いきなりの3位を予想した人はいなかっただろう。

 技術がしっかりしていて、よく走り、体幹が強そうな印象は残ったが、筆者はトルコのサッカーがどんなものなのか明確にイメージを持てなかった。それで翌年にイスタンブールに取材に行ったのだが、余計によくわからなくなったのを覚えている。

 そもそもトルコ人のイメージがなかった。中東人っぽいのではないかと思っていたが、イスタンブールには金髪碧眼の人もいて、東洋人そのものみたいな人もいた。東西の文化と人の交差点と言われるとおり、いろいろなものが入り混じっている。

 サッカーのプレースタイルもいろいろ入り混じっていて、これが典型的なトルコというものは見えない。

 ただ、熱量はすごかった。街のあちこちに地元の人が「絨毯場」と呼ぶ人工芝のミニコートがあり、そこで草サッカーというか人工芝サッカーが繰り広げられていたのだが、その激しさには少々驚かされたものだ。

 スタジアムの熱狂ぶりもすさまじく、試合中に2階席から人が落下したと思えば、試合関係なく花火が打ち上がり、味方サポーター同士で罵り合いが始まり、ネコがフィールドを縦断するなど、カオスのてんこ盛り状態。

 結局、これといった結論は得られぬままだったが、サッカーへの情熱があり余っているのだけはよくわかった。突発的に世界3位になるエネルギーは確かにあった。

 今、トルコには19歳の逸材がふたりいる。ケナン・ユルディズとアルダ・ギュレル。トルコが再び世界を驚かせるとしたら、ふたりはその中心にいるだろう。

【ユベントスの10番を継いだユルディズ】

 ユルディズは昨季ユベントスでデビューして27試合2得点。今季からは栄光の10番を背負う。ミッシェル・プラティニ、ロベルト・バッジョ、アレサンドロ・デル・ピエロ、カルロス・テベスが着けていたエースナンバーだ。19歳のトルコ人への期待の高さがうかがえる。

 チャンピオンズリーグ・リーグフェーズ開幕戦、PSV戦のゴールはデル・ピエロを思い起こさせるものだった。左45度でひとりをカットインで外し、ふたり目の外を巻くシュートをファーサイドのポストに当ててゴールイン。かつて「デル・ピエロ・ゾーン」と呼ばれた場所からの一撃だった。

 ユルディズはこの角度からのシュートが得意なようで、その正確性とパワーは本家を彷彿させる能力を見せている。両足が使えてドリブルにキレがあり、ラストパスのセンスも光る。典型的な10番のタイプだが、ユベントスでのポジションは主に左サイドだ。

 左45度からの一発は確かにデル・ピエロ似ではあるが、プレーの雰囲気はむしろローマの王様だったフランチェスコ・トッティに近い。ユルディズは185㎝の長身で体格もよく、芯を食ったキックにパワーがある。繊細な技術とエネルギー、パワーが同居した、古典的でありながら現代性を実装したタイプ。

 セリエA第9節のインテル戦では、62分に交代出場するや2ゴールをゲットして4-4のドローに持ち込みマン・オブ・ザ・マッチに選出された。ひとりで流れを一変させられる、何か引きの強さみたいなものが感じられる。まだ歴代10番との比較は早いけれども、スター性は十分ではないだろうか。

【ギュレルは洗練されたレフティ】

 ドイツにはトルコからの移民が多く、2002年日韓W杯で活躍したユルドゥライ・バシュテュルクは生まれも育ちもドイツのトルコ代表選手だった。逆に、トルコ移民3世のメスト・エジルはドイツ代表として2014年ブラジルW杯優勝に貢献している。

 ユルディズもドイツ生まれ。バイエルンのユースからユベントスへ移っていてトルコのクラブチームは経験していない。

 ユルディズと同じ19歳、アルダ・ギュレルはトルコに生まれ、名門フェネルバフチェでデビューして昨シーズン、レアル・マドリードに移籍した。

 選手層の分厚いレアル・マドリードでデビューシーズンは10試合の出場にとどまったが6ゴールを記録している。左利きの右サイド。プレーぶりはよく比較されるエジルに似ているかもしれない。

 ユルディズのようなハイパワーはないかわりに、テクニックが優れていてひらりひらりとかわしていく。剛のユルディズ、柔のギュレルといったところだろうか。

 キックの精度が高く、ピンポイントを狙っているところはユルディズとの共通点だ。ふたりとも資質的には10番のタイプなので、フィジカルの強化とともに現在のウイングから中寄りにポジションを移していくと思われるが、トルコ代表にとって幸運なのはふたりの逸材が共存できそうなことだ。

 同じ10番タイプではあるが利き足と得意なサイドが左右に分かれていて、ストライカー的なユルディズとプレーメーカー型のギュレルで棲み分けもできる。MF中央には30歳のハカン・チャルハノール(インテル)が健在。チャルハノールが司令塔としてタクトを振るい、ギュレルとユルディズが技術とアイデアで共闘という、魅力的な近未来が期待できそうだ。

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