3試合で15得点、1失点──。その勝ち上がりを見れば、流通経済大柏(千葉)の強さが浮かび上がる。 夏のインターハイこそ千葉県予選の決勝で市立船橋に苦杯をなめたものの、プレミアリーグEASTでは最高の4位でフィニッシュ。選手権予選ではベスト…
3試合で15得点、1失点──。その勝ち上がりを見れば、流通経済大柏(千葉)の強さが浮かび上がる。
夏のインターハイこそ千葉県予選の決勝で市立船橋に苦杯をなめたものの、プレミアリーグEASTでは最高の4位でフィニッシュ。選手権予選ではベスト4で敗れたライバルを尻目に、決勝で日体大柏を4-1で撃破し、堂々と全国の舞台に名乗りを上げてきた。
流通経済大柏はPKでの虎の子の1点を守りきった
photo by Takahashi Manabu
2回戦から登場した今大会でも、初戦で佐賀東(佐賀)を5-0と打ち破ると、3回戦ではプレミア王者の大津(熊本)に2-1で競り勝った。事実上の決勝戦とも言えた鬼門を突破すると、準々決勝では大量8ゴールを奪い、上田西(長野)を一蹴している。
伝統のハイプレスは健在で、FW松本果成(→湘南ベルマーレ)、MF亀田歩夢(→カターレ富山)とふたりのプロ内定者を擁するなどタレントも揃う。東海大相模(神奈川)を迎え撃つこの準決勝も、苦もなく突破するだろうと想像していた。
ところが、数々のドラマを生み出してきた選手権の舞台では、こちらが描いた陳腐なシナリオなど意味をなさない。初出場ながら快進撃を続ける東海大相模の洗練されたサッカーの前に、優勝候補は思わぬ苦戦を強いられた。
その原因となったのは、持ち前のハイプレスがはまらなかったこと。激しく前から奪いにいくも、東海大相模の自信あふれるボールコントロールと小気味いパス回しにはがされてしまい、そこからサイドに展開され、両翼の突破に苦しめられた。
さらに厄介だったのが、ロングスローだ。今大会で注目を集めるDF佐藤碧の威力と精度が備わった"投球"から、二度も危険なシーンを招いてしまう。前半に好印象を与えていたのは、間違いなく初出場校のほうだった。
「プレスがはまらなかったっていうよりは、ちょっと緊張があったのかもしれない。出足がうまく作れなくて、苦戦してしまいました」
榎本雅大監督が振り返ったように、流経大柏は国立競技場の独特の雰囲気のなかで、本来の力を発揮できないでいた。
【負けないサッカーとは──答えは明快】
それでも、苦しみながらも流経大柏には、ふたつのターニングポイントがあった。
ひとつは相手のロングスローの使い手である佐藤が負傷交代したこと。東海大相模の有馬信二監督も「彼の負傷交代が非常に痛かった」とこぼしたように、東海大相模は大きな武器を失い、流経大柏にとっては厄介な飛び道具を意識せずに済んだのだ。もっとも、後半から入った別の選手もロングスローを装備していたのは、さすがに想定外だったようだが......。
そしてもうひとつは、前半終了間際にあった。相手のお株を奪うようなロングスローからゴール前でスクランブルを生み出し、頭から飛び込んだMF和田哲平が相手DFに顔を蹴られ、PKを獲得。これを10番を背負うMF柚木創が確実に蹴りこみ、貴重な先制ゴールをマークした。
苦しみながらも限られたチャンスをモノにし、虎の子の1点を守り抜く。派手さはないが、強豪と呼ばれるチームが持つしたたかさだ。
流経大柏にも、この資質が備わっていた。その根本にあるテーマは、選手権仕様の「負けないサッカー」である。
「リーグ戦はアグレッシブに戦うというところでやってきましたが、勝ちきれないという問題に直面した時に、どういうふうなゲームをすればいいのか。やっぱり勝とう、勝とうとしすぎて、どうしても攻撃的になったり、おおざっぱになってしまうシーンが多かった。ですから、勝とう、勝とうじゃなくて、負けないぞ、負けないぞっていうサッカーにシフトしていったのが大きな変化だと思います」(榎本監督)
負けないサッカーとはなにか──。答えは明快だ。相手に隙を与えず、失点しないこと。ゼロに抑えれば、PK戦に突入しない限りは負けることはない。
二頭体制のキャプテンのひとりを務めるセンターバックのDF奈須琉世にも、その意識は徹底されている。
「失点しなければ負けないんで。本当に後ろが徹底して、最後のところで身体を張ったり、ボールに詰めるということができれば失点しない。前からのプレスもそうですけど、とにかく自分と(同じセンターバックの)佐藤(夢真)の真ん中を割られなければやられないと思っています」
【涙を呑んだ7年前のリベンジなるか】
1点リードで迎えた後半は、流経大柏のサイド攻撃が機能し、とりわけ右から多くのチャンスが生まれている。しかし、追加点を奪えないまま時間が過ぎると、終盤には逆にいくつかのピンチがあった。そこで目を引いたのは、流経大柏の選手たちの鬼気迫るプレーである。
カウンター阻止のために長い距離を走って自陣に戻り、相手のシュートに対しては躊躇(ちゅうちょ)なく身体を張る。一歩でも、半歩でも身体を寄せることで、相手に自由を与えない。そのディテールへのこだわりが、彼らの強さの理由だろう。快進撃を続けてきた東海大相模も、流経大柏の「負けないサッカー」に力及ばなかった。
決勝の相手は前橋育英(群馬)に決まった。DF関川郁万(現・鹿島アントラーズ)らを擁しながら、終了間際の失点で涙を呑んだ7年前の決勝のリベンジマッチとなる。
今季のプレミアの対戦でも1勝1敗と互角の相手に対し、流経大柏は「負けないサッカー」を貫くだろう。その先には2007年大会以来、二度目の頂点が待っている。