生花店に転身の猪本健太郎さん「ライバルとして見られないタイプだった」 ソフトバンクとロッテでプレーし、現役引退後はブルペン捕手としてソフトバンクを陰から支えた猪本健太郎さん。2023年限りで退団し、昨年9月に福岡市内で生花店をオープンさせた…
生花店に転身の猪本健太郎さん「ライバルとして見られないタイプだった」
ソフトバンクとロッテでプレーし、現役引退後はブルペン捕手としてソフトバンクを陰から支えた猪本健太郎さん。2023年限りで退団し、昨年9月に福岡市内で生花店をオープンさせた。2013年オフに自身とともに支配下登録されたのが、巨人にFA移籍した甲斐拓也捕手だった。「現役を20年やれる」と感じた甲斐の“忖度なし”の生き方とは――。
2008年育成ドラフト4位でソフトバンクに入団した猪本さん。「拓との思い出は果てしなくありますね。自分が決めた道をしっかり進んでほしいなって感じです」。そう語る表情は柔らかかった。チームは2009年のドラフトで育成選手を指名しなかったこともあり、2010年育成ドラフト4位で入団した甲斐は初めてできた後輩でもあった。
「身長は小さかったけど、フットワークはうまくて肩も強かったですね。僕としては、どちらかというとライバルとして見られないタイプのプロ野球選手だった。怪我しろとか思ったこともないです」。同じポジションということもあり、行動はいつも一緒だった。「(当時のファーム施設があった)雁ノ巣まで僕が運転して乗っけていたんですけど。ずっと言ってました。『俺は先にクビになるけど、お前は現役を20年できるから。マジで頑張ろう』って。拓は『そうですかー』って感じでしたけどね」
猪本さんが甲斐の性格をプロ向きだと感じた出来事があった。「僕が食事に誘っても、来ないんですよ。何回も誘うけど、『いや、大丈夫です』って。大丈夫じゃなくて、すみませんだろって思いましたけど。自分のことで精いっぱいだっただろうし、疲れていたんでしょうけどね」。冗談っぽく笑いつつ、感じたのは意志の強さだった。
人生最大の決断を応援「今まで通りやっていってほしい」
「僕はパッとご飯食べて、お酒を飲みたかったんですけど、『俺飲まんし、なげえーし』って。『しんどいっす』が断り文句でしたね。多分、僕はついて行ったらいかん先輩と思ったんでしょうね。ちゃんとついて行く先輩をあいつは選べた。そこは野球選手の性格だと思いましたし、だから活躍できたんだと思います」。当然、2人の関係性があるからこその笑い話だ。「僕も全然嫌いになることもないし。また誘うけど、『でも大丈夫です』って」。忖度しない生き方が甲斐をつくってきた。
2人の会話は“タメ語”に時折敬語が入る。「拓が怒っとったことは山ほどありますけど、僕が怒ることはないっす。そんな悪いことはしないし。積み重ねてきた関係があるので。あの子はやっぱりキャッチャーなので、偉い人とかがいる場ではちゃんと敬ってくれる。そういうことができない後輩を注意することはありました。いつもの関係でワイワイするのはいいけど、ちゃんとした場ではきちんと振る舞いなさいって」。甲斐のメリハリある対応があったからこそ、心を許せた。
野球人生最大の決断を下した後輩には応援する気持ちしかない。「人生は1度きりだし、いろんなことに挑戦できるってありがたいじゃないですか。人生を1冊の本に例えれば、3ページの本より、30ページ、300ページあった方が価値もあるじゃないですか。だからこそ、今まで通りやっていってほしい。思うことは1つです。『怪我せんで、やりきってくれ』。それしかないですよね」。
自身も昨年9月から新たな人生を歩み始めた。新たに構えた店舗には甲斐も訪れてくれたという。「あいつは野球で、僕は花で人を笑顔にすることができたら。そこは同じですよね。僕は全力で応援します」。進む道は違っても、思いはあの頃のまま変わらない。(長濱幸治 / Kouji Nagahama)