丹羽は同志社大学へ進学予定だ(C)産経新聞社 第104回高校ラグビー選手権の決勝が1月7日に神奈川県代表の桐蔭学園(以下、桐蔭)と、大阪第2代表の東海大学大阪仰星(以下、仰星)との間で行われ。40-17で桐蔭が勝利した。桐蔭は2年連続で通算…
丹羽は同志社大学へ進学予定だ(C)産経新聞社
第104回高校ラグビー選手権の決勝が1月7日に神奈川県代表の桐蔭学園(以下、桐蔭)と、大阪第2代表の東海大学大阪仰星(以下、仰星)との間で行われ。40-17で桐蔭が勝利した。桐蔭は2年連続で通算5回目の栄冠に輝いた。
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非常によく締まった好試合で、本年度の高校日本一チームを決めるにふさわしい一戦だった。両チームともにつまらないミスがほとんどなく、無駄なキックもなかった。ともに、攻撃時にはハンドリングとランでデイフェンスラインに果敢に挑み、守備時にはポジションに関わりなく、強力なタックルと接点での積極的なコンタクトを見せた。両チームともに質の高いプレーを継続させられるフィットネスも身につけており、大学選手権やリーグワンの試合に勝るとも劣らぬ熱戦が展開された。
そんなギリギリの戦いではあったが、桐蔭の「勝負勘」がほんのわずか仰星を上回っていたようだ。
前半桐蔭はゴール前まで攻め込み、右に左に、執拗にピック&ゴーを仕掛け、17ものフェイズを重ねた。そのまま密集近辺をついて、相手を真っ向からねじ伏せるという選択でもおかしくない場面だったが、桐蔭のハーフ陣は冷静に仕掛けどころを見極めていた。強力な突進を止めるため密集によりつかざるを得ない仰星ディフェンスラインにギャップが生じたのを見てとると、そのギャップに走り込んできたCTB松本桂太にSO丹羽雄丸がドンピシャの少し長めのパスを放って先制トライを奪う。
前半終了間際には、オープン側への攻撃を警戒していた仰星ディフェンスラインの裏をかいて、ブラインドサイドを攻め、スピードも人に対する強さも兼ね備えたWTB西本友哉にラインブレイクさせた後、細かくパスをつなぎ、最後は再度ボールを受けた西本がインゴールまで走り切った。
しかし仰星はこの程度で折れてしまう様なヤワなチームではない。全国一の激戦区大阪を勝ち抜き、今大会でも準々決勝では過去幾多の死闘を繰り広げた福岡の東福岡に、準決勝では同じ大阪の第3代表常翔学園に僅差で競り勝つなど、逆境には慣れたチームだ。リードを許す展開の中でも自分たちのプレーをやり切るという信念が見てとれ、後半4分には1トライを返す。さらに、しぶといディフェンスで後半9分過ぎまで追加点を許さなかった。
ただ、仰星を前半無得点に抑え、防御一辺倒に追い込んだ桐蔭は「攻撃は最大の防御」という言葉を見事に実現して見せていた。試合の大きな分水嶺となったのは、後半9分過ぎ。ラインアウトを得て、そこからモールを組んだ桐蔭は約30メートルをそのまま押し込んで3本めのトライをあげたのだ。
強力なFWを「オトリ」に使ってBKで勝負するというクレバーさを見せていた桐蔭が問答無用と言わんばかりにFWのパワーを遺憾なく発揮したトライは、点数差以上のダメージを仰星に与えたようだ。桐蔭は勢いそのままにその後3トライを重ね、試合を決めてしまった。
仰星は終了間際にも2本の見事なトライを奪い、意地を見せたが残念ながら届かなかった。繰り返しになるが、両チームのフィットネス、技術には点数差ほどの開きはなかった。後半9分過ぎのラインアウトからのモールと、その直後のスクラムで1回だけ桐蔭が仰星を圧倒する場面があったが、それ以外はどの場面を取ってもほぼ互角だった。
そのほんの少しのプレーの精度の差で生じたスキを大きな得点差に結びつけたのが、HB団の活躍だ。特にSO丹羽の存在が大きかった。大阪の東生野中学から、敢えて強豪ひしめく地元での高校生活を選ばず桐蔭に進んだ変わり種。その高校生活は相次ぐ怪我との戦いだった。特に2023年に負った左前十字靱帯損傷は、ラグビー人生にピリオドを打ってもおかしくないほどの大怪我だった。一時は「ラグビーボールを見たくない」とまで思い詰めたが、そんなどん底状態からはい上がり、心身ともに一回り大きくなってレギュラーに復帰した。
今大会前にも左手指の骨折に見舞われたが、そんなことを微塵も感じさせず、決勝まで見事に司令塔としての役目を果たした。決勝では自在なポジションチェンジとパスワークで仲間のトライを演出するとともに、後半には自ら2本のトライを奪って、ランのスキルの高さも示した。強力なチームメイトたちに支えられた優れた才能が、最高の舞台で強烈な輝きを放ち、チームに優勝という果実をもたらしたのだ。
丹羽は高校卒業後、同志社大学への進学予定だ。大学選手権3連覇を始め、長い間大学ラグビーのトップランナーであった同大ではあるが、近年では低迷し、関西リーグ1部、2部の当落線上をウロウロするような状態が続いている。どん底から、一気に頂点に駆け上がった経験を持つ丹羽が同大をどのように変革していくのか。ステージが上がった丹羽の活躍と、丹羽の影響で同大がどのように変わっていくのか。来季の関西大学リーグには要注目だ。
[文:江良与一]
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