) 今のアジャコングが「アジャコング史上最高」――。最高のアジャコングはどのようにして生まれたのか? その謎に迫るインタビューを締めくくる第5回では、東京女子プロレスと全女の共通点、理想の引退式などについて聞いた。今も現役で闘い続けるアジャ…

 今のアジャコングが「アジャコング史上最高」――。最高のアジャコングはどのようにして生まれたのか? その謎に迫るインタビューを締めくくる第5回では、東京女子プロレスと全女の共通点、理想の引退式などについて聞いた。


今も現役で闘い続けるアジャコング

 photo by Hayashi Yuba

【東京女子に出て感じた、全女との共通点】

――現在の、アジャ選手の一番のモチベーションは何ですか?

アジャ:世の中に「プロレスってこんなに面白いものですよ」というのを広めていきたいです。Netflixの『極悪女王』が全世界に配信されて、みんながプロレスに注目してくれて当時の話をよく聞かれるんですけど、「昔も面白かったけど、今も面白い」と伝えたい。「新しい選手がいっぱい出てきて面白いですよ」と、今もリングに立っている自分だからこそ伝えられると思っています。

 しかも、なんでプロレスの道を選んだのかわからないような可愛い子たちが、必死になって、痛い思いをしながらすごい試合をしている。世の中に「こんなにすごい子たちいるんだ」というのをもっと知らせたいですね。私を通じて、私の体を使って、どんどん世のなかに出ていってほしいというのが、一番のモチベーションかもしれないです。

――昔の女子プロレスと今の女子プロレスはどう違いますか?

アジャ:違いはないんです。「ない」と言ったら変なんですけど、私は東京女子プロレスによく出させていただいていて、もう6、7年経って彼女たちに対して思うのは、「あ、全女の頃の若い子たちと変わらないな」ということ。対抗戦でギスギスし始める前の、私たちが新人時代だった全女に対するノスタルジーがあるんですよ。

――多幸感溢れる東京女子と、殺伐とした全女に共通点があったんあったんですね! ものすごく意外です。

アジャ:もちろん全女には先輩・後輩の関係が厳しい、といったことはあるんですけど、私たちが入団した当初や、先輩たちの話を聞くと、年齢が近いとけっこう仲がよかったらしいんですよ。この間の『しゃべくり007』(日本テレビ系。11月18日に全女軍団が登場した)を見たんですが、(ライオネス)飛鳥さんがジャガー(横田)さんにあれだけ言える。3年くらい歳の差がありますが、飛鳥さんとジャガーさんの関係性って、私たちが新人の頃に感じていたものなんですよ。

――飛鳥さんがジャガーさんをいじっていましたね。

アジャ:当時は「青春時代を一緒に過ごす仲間たち」という感じだったんだな、と思います。東京女子にはそんな匂いを感じることがあって、みんなリングを降りれば仲よしだけど、リングに上がれば「この子には負けたくない」「この子より上に行きたい」って頑張っている。

 でも、みんなが目指しているのは「東京女子プロレスをもっと大きくしたい」ということ。私たちが全女時代に、「女子プロレスがすげえんだっていうのを世に知らしめるぞ!」と思っていたのと、たぶん感覚は似ていると思います。若い子たちが試合後に「同期に負けた」って膝を抱えて泣いてたりとかも、「ああ、全女の頃にもいっぱいいたな」と思いながら懐かしく見てますね。

 東京女子からしたら、全然そんなところは目指していないと思いますけどね。全女とは"対極"を目指しているんじゃないかと。でも、対極を目指すと、一周回って一緒になるんじゃないか、と私は思っています。

【東京女子で、自分を受け入れる雰囲気ができた瞬間】

――アジャ選手は、東京女子のらく選手と仲良しで、すごくほっこりします。最初、らく選手のようなほんわかした感じは嫌いなんじゃないかと思っていましたが、試合ではらく選手の必殺技「おやすみエクスプレス」も一緒にやっていてホッとしました。

アジャ:らくちゃんと組むことになった時、SNSを見たら「らくちゃんとアジャ様が組むということは......まさかそれはないよな」って書かれたことがあって。「なんだろう?」と思っていたら、「まさか、おやすみエクスプレスはやらないよな」って。そもそも当時は、おやすみエクスプレスが何なのかわからなかったんですけど、それだけザワつくくらい、お客さんが何かを求めているんだろうなと思いましたね。

――初めてらく選手を見た時、どんなことを思いましたか?

アジャ:「うーん......可愛らしい子だね。ケガだけはしないようにね」という感じでした。試合で「あれ(おやすみエクスプレス)、やりますよ」って言われたけど、やり方がわからなくて。それで1回見で「ああ、確かに私はやらなそうな技だな......」と思ったけど、お客さんが期待しているのはわかりました。

 それで実際にやったんですが、それで会場が「アジャコングが東京女子とここまでシンクロしてくれた」というウェルカムな雰囲気になったんです。だから、らくちゃんは東京女子に出ることにおいての恩人だと思っているんです。「継続して出ていい」という雰囲気にしてくれたのは、らくちゃんのお陰だと思っています。

――東京女子のお客さんは、東京女子だけを見ている人も多い印象です。

アジャ:多いですし、ほかの団体から東京女子に流れてきたファンは、試合後の「てめえ、こら!」っていうギスギスしたのが嫌で、東京女子の幸せな空間を求めてくる方が多いのかなと思います。おそらく東京女子が目指してきたものって、そこだと思うんですよね。でも、東京女子をもっと大きくしたいファンからすると、「もっと他団体と交流したほうがいい」「もっとギスギスしたほうがいい」と思うこともあるだろうし、そのジレンマがあると思うんです。

 でも、大丈夫です。東京女子は東京女子のやり方でいけばいい。もし日本で大きくならなくても、世界にはどんどん発信していますし。日本は特殊で、WWEで闘っている世界で超有名な日本人レスラーのことを、一番日本人が知らないんじゃないかと。ASUKA、IYO(SKY)、Kairi(Sane)も、海外で街を歩いていたら普通に声を掛けられるけど、たぶん日本ではめったにないはず。だから、「世界ではみんな有名だから安心して」って思う。野球が盛んではないヨーロッパなどに行ったら、もしかすると大谷(翔平)選手より彼女たちのほうが有名かもしれませんよ。

【アジャコングが描くレスラーの理想像】

――里村明衣子選手が今年4月に引退されますが、アジャ選手は「お葬式が引退式」を理想とされていますね。

アジャ:私の一番の理想は、生涯現役だったジャイアント馬場さんです。今さら私が「プロレス引退します」と引退式をしたところで、世間では一生アジャコングとして見られる。たまに「アジャコングって今、何代目なの?」って聞かれるんです。ずっと私はひとりで、何代目もないんですよって言うんですけどね(笑)。

――38年も現役でやられていると、そう思う人もいるかもしれませんね(笑)。

アジャ:タイガーマスクは何代か続いているので、そんな感覚で「何代目なの?」って言われることがあるんでしょうね。それができるなら、そうしたかったなあとも思っていますが(笑)。

――アジャ選手はすでにレスラーとして完成されているように思いますが、ご自身では「こういうレスラーになりたい」という理想像はありますか?

アジャ:まだ見ぬレスラーになりたいです。今と明日のアジャコングはまた違ったものになるだろうと思うんですよね。まだ見たことないアジャコングが、どこかに隠れているのかなと思うと楽しみだし、見る人たちが見たらそれがひとつの面白みにもなるだろうし。

――アジャ選手にとって、プロレスとはどういうものですか?

アジャ:私にとってプロレスは天職であり、人生そのものであり、なくてはならないものなんですけど、人によっては「なくてもいいもの」だったりする。大多数の人はプロレスがなくても生きていけますが、「プロレスがあったらちょっとだけ人生が楽しくなるかもしれないよ」と伝えたい。悩みがあるんだったら試合中に力の限り声を出してみたりとか、自分が推している選手がやられているのを見たら、憎たらしいと思う選手に罵詈雑言を浴びせてみるのもいい。

 人間、声を出せばさまざまなことが発散できるので、プロレスを観てそういうことができれば、ちょっとだけ人生が豊かになるというか、楽になるかもしれない。息抜き程度に考えるのもいいもんじゃないかと思います。

――プロレスがないと生きていけないファンもいます。

アジャ:その人たちは逆に、たまにプロレスから離れて息抜きしたほうがいいよ(笑)。私もプオタ(プロレスオタク)で、ずっと観てたけど、最近は観すぎて肩が凝ってきちゃったから。少し離れると、また面白く観られると思いますよ。

――私は「強さとは何か?」をテーマに取材を続けているのですが、アジャ選手にとって強さとはなんですか?

アジャ:私にとっての一番の強さは、母親の愛です。あの強さに勝てるものはない。父、母がいて初めて自分が生まれたんですけど、特に命を賭けて自分を世に送り出してくれた母の愛はやっぱりすげーな、と思いますね。

――プロレスにおいての強さはいかがでしょうか?

アジャ:いかに痩せ我慢できるかですね。プロレスは、痩せ我慢の競技だと私は思っているんです。「八百長じゃん」とか「痛くないんでしょ」とか言う人もいますけど、痛いのよ。蹴られたりしたら、痛いの。人間だから。「長与千種 還暦祭」で闘った新人(彩芽蒼空)にだって、蹴られたら痛いです。

 でも「まだまだ来い!」と我慢するのがプロレス。どんだけそれができるかが、プロレスラーの強さの象徴だと思いますね。ただの我慢じゃなく、痩せ我慢。昔の不良が「全然効かねーよ」って言ってたような我慢が、どれだけできるかですね。

【プロフィール】

●アジャコング

1970年9月25日、東京都立川市生まれ。長与千種に憧れ、中学卒業後、全日本女子プロレスに入門。1986年9月17日、秋田県男鹿市体育館の対豊田記代戦でデビュー。ダンプ松本率いる「極悪同盟」を経て、ブル中野率いる「獄門党」に加入。1992年11月26日、川崎市体育館でブル中野に勝利し、WWWA世界シングル王座を奪取。1997年、全女を退団し、小川宏(元全女企画広報部長)と新団体『アルシオン』を設立。その後、GAEAJAPANへと闘いの場所を移し、2007年3月10日、OZアカデミー認定無差別級初代王者となる。2022年12月末、OZアカデミーを退団。以降はフリーとして国内外の団体に参戦している。165cm、108kg。X:@ajakonguraken  Instagram:@ajakong.uraken