WBでの経験を経て、守備面でも堂安のスキルは高まっている。(C)Getty Imagesフライブルクで欠かせない存在となった堂安の成長 ブンデスリーガの古豪フライブルクでプレーする日本代表MF堂安律の評価が高まっている。今季はここまで全15…
WBでの経験を経て、守備面でも堂安のスキルは高まっている。(C)Getty Images
フライブルクで欠かせない存在となった堂安の成長
ブンデスリーガの古豪フライブルクでプレーする日本代表MF堂安律の評価が高まっている。今季はここまで全15試合にスタメン出場し、5得点、2アシストをマーク。5ゴールはチーム最多だ。
ゴールやアシストという目に見える数字を残している堂安。しかし、シーズン序盤から絶好調だったかというとそうではない。9節のマインツ戦後にはこんな風に話していた。
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「実は満足した試合というのはブレーメンとライプツィヒとの2試合ぐらいしかないんです。自分的にはトップパフォーマンスはまだ出せてない。メディアではゴールやアシストという数字を取れば『絶好調だ』と思われますし、もちろんそれはプロとして大事。
僕もそこは意識しています。それができる選手がやっぱり上に行きますし。でも、逆にもっと伸びしろがあるということだと思ってもいます。トップパフォーマンスを出しながら、数字を残していけばもっと評価されると思いますから」
堂安は常にチャレンジの舞台に立っていたい選手なのだ。居心地の良い場所を飛び出して、戦場を求めている。ゆえに基準値は欧州で結果を残し続ける中で必然的に上がっていく。スタンダードのクオリティがアップしたことで、試合から消える場面もほとんどなくなった。
「ときに『俺、こんなこともできるようになったんや』って驚くような試合もあります。試合ごとに成長しています」
攻守にハードワークを要求されるのが当たり前の環境を求め、フライブルクに移籍した。昨季まで指揮官を務めていたクリスティアン・シュトライヒは非常に厳格で妥協を許さない監督だった。
厳しい環境下で堂安は得意なプレーだけではなく、課題とされていた守備での貢献、そして、連続して常にやるべきプレーを探し続けることに向き合い続けた。そして昨季はウイングバック(WB)にも挑戦。守備負担は大きくなるが、この経験で得たものはとても大きいものだった。
「あそこ(WB)をやれるようになったのは自分として大きくなった部分。監督にとっても助かる一つのオプション。4バックでスタートしても守備がはまらなかったら俺を一つ下ろして5バックで守れる。自分としての一つの大きな武器にはなってます。戦術的にこのポジションができるってなると、監督も使いやすいですし。それこそ代表だとかね、いろんなオプションを試しながらこの選手ここもできるっていうふうになったら、監督としても助かると思います」
ただあくまでも堂安はオフェンシブな選手だ。守備力を備えたからといって、守備だけを評価して『それでよし』とはならない。5バックで自陣深くから飛び出すことばかりを求められ、どうしてもゴールは遠のいた。WBのタスクを的確に務めながら、より効果的に攻撃に絡むか。敵陣でゴールに直結する働きを模索し続けた。
その点で、今季に就任したユリアン・シュスター新監督の下、4-5-1の攻撃的右サイドハーフとしてプレーできているのは一つのきっかけになっている。堂安はいつ、そしてどこで、自分がボールを欲しいのかを監督やチームに的確に伝え、最適なバランスを見出しつつある。
「プレー範囲は広がっていると思います。守備の仕方のところでもいろいろ学びました。本来自分の生きるポジションはウイング。これからまた伸ばしていきたいなと思います」
強豪を相手にしながら、己を研ぎ澄ます堂安。彼の成長は日本代表にも小さくない影響を及ぼしそうだ。(C)Getty Images
試行錯誤の連続の中で試行し続ける堂安
もっとも、ブンデスリーガ初采配を振るうシュースター監督だけに、序盤は試行錯誤の連続ではあった。
38歳のドイツ人指揮官は、ボールを持った時にオフェンシブな選手が中央スペースでパスを受け、最短距離でゴールを狙うという新機軸を打ち出した。新たなオプションとしてとても興味深いチャレンジではあるが、狙いが集中しすぎるあまり、相手守備を揺さぶれず……。攻撃陣が自分のタイミングでボールを受けられないジレンマもそこにはあった。
堂安もこんな風に話していたことがある。
「中で受けようという意識はありますけど、もっと外ではりたいところは正直ある。1対1の場面が正直去年より明らかに減っている。それはちょっと監督と話したいなと思います」
あるいは足元でのポゼッション意識が強まり、チームからダイナミックさが少し失われた点も指摘されていた。サイドでの起点作りや、ドリブルによる個人技勝負での揺さぶりがなければ、相手守備陣は中央からの攻撃をケアすればいいだけになってしまう。
「もっとサイドを自然に使ってくれてもいいのになと思いながら。グレゴ(オーストリア代表FWミヒャエル・グレゴリチュ)も入ってる中で、もっとクロスを多くあげたらなとか。ちょっとクリアじゃなかったですね、僕らのアイディアが」
堂安はそう試合を振りかえることもあった。シュースター監督も自分が志向するサッカーへの思いを大事した上で、チームとしての機能性を高めるために自分達の武器をどのように使うのかを模索している。
2024年終盤にはグレゴリチュとルーカス・ヘーラーの二人を同時に起用。速さとコンビネーションだけではなく、高さもうまく組み入れだした。堂安はこの戦略にとても好印象を抱いているようだった。
「僕たちが今年からやりだしたポゼッションをやってる中で、相手が少しずつそこを切ってきている。そうしたときにロングボールという選択肢が出てきた。グレゴの良さですし、彼がいるおかげで、僕が近くにいればボールが転がってくる。新しい戦術としていいオプションかなと思います」
試合はいつも自分たちのイメージ通りに展開するわけではない。ましてや、練り上げてき計画がそのままうまくいく保証もない。サッカーは相手あってのスポーツ。相手も対策を練ってくる。2の策、3の策と様々な手札を持ちながら、それぞれの質を高めていくことは、コンスタントに好結果を残すために避けては通れない道だ。
自分たちの良さをどのように出すか。そして相手の強さをどのように消すのか。試合の中で選手が瞬時に微調整をし、適切なバリエーションで攻守に効果的なプレーができるようになることは、ワールドカップでの8強以上を目標とする日本代表としても極めて重要なポイントだろう。
その意味でも、いま堂安がフライブルクで続ける取り組みと、そこから見れる本人の成長は興味深い。日本代表が世界で結果を出す上で、とても示唆に富んだ内容が含まれているのではないだろうか。
[取材・文: 中野吉之伴 Text by Kichinosuke Nakano]
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