サッカー日本代表の長年のライバル、韓国代表。つい数年前まで、日本の前に「高い壁」として立ちはだかり続けた。そんな彼らのストロングポイントのひとつといえば、屈強なフィジカルだろう。その肉体をキープするためか、「韓国人は大食漢が多い」と断言す…

 サッカー日本代表の長年のライバル、韓国代表。つい数年前まで、日本の前に「高い壁」として立ちはだかり続けた。そんな彼らのストロングポイントのひとつといえば、屈強なフィジカルだろう。その肉体をキープするためか、「韓国人は大食漢が多い」と断言するのは、サッカー観戦で数えきれないほど隣国を訪れている蹴球放浪家。韓国代表の強さの秘密かもしれない(?)、その「大食漢ぶり」を、後藤健生が現地からリポートする!

■何かあれば宴会を開いて「数人分」

 最近、『朝鮮民衆の社会史——現代韓国の源流を探る』(趙景達著、岩波新書)という本を読みました。

 民衆……。支配者でもある「両班(ヤンバン)」と呼ばれる郷紳階級から奴婢、賤民を含む民衆が主人公のはなはだ地味な本ですが、丹念に資料を考証して丁寧に論述した、なかなか面白い本でした。

 その中で、「朝鮮の民衆は大食漢だった」ということが紹介されていました(同書30ページ)。

 かつて朝鮮を訪れた西洋人の宣教師も、あるいは20世紀に朝鮮を植民地支配した日本人支配者も、口をそろえて、そのように書いているそうです。何かあれば宴会を開き、1人で数人分を平らげてしまうというのです。

「ああ」

 僕は、しょっちゅう韓国を訪れていた頃のことを思い出して、納得しました。

■外資系ブランド店でも「ラジオ体操」

 韓国という国は、今は立派な近代国家です。

 最近の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の「非常戒厳」宣布以来の政治的大混乱を見ると、「本当に近代国家?」と疑問に思えてくることもありますが、経済的に韓国は、先進国の一つになっています(国民1人当たりのGDPは、今では日本を越えています)。

 しかし、韓国が経済発展を始めたのは1960年代からのこと。朴正熙(パク・チョンヒ)大統領の軍事独裁政権の下、アメリカや日本からの資金を使って新興財閥を中心に経済開発を進めたのです。

 つまり、わずか半世紀あまりの間に急速に発展した国です。ですから、世代によって価値観も暮らし方も大きく異なっているのです。

 僕が韓国によく通っていたのは2002年ワールドカップの前後、つまり20年から30年前のことです。その頃、若者たちはすでに近代的な服装をして、近代的な暮らしをしていましたが、年配者は見るからにオジサンっぽい雰囲気でした。ソウルのお洒落な外資系のブティックでも、店員たちがラジオ体操をしていました。

■実際は元気でも「杖をついていた?」

 当時、僕は沈完燮(シム・ワンソプ)さんという人と、よく行動を共にしていました。短期間でしたが韓国代表監督を務めたこともある人で、日本統治時代に小学校で教育を受け、サッカーをやめてからは日本との貿易に携わったこともあったので、日本語が堪能で、韓国のサッカーの歴史を調べるのを手伝ってもらっていたのです。

 僕より、20歳あまり年長で、当時は70歳台だったはずですが、杖をついてヨボヨボとした、いかにも老人ですといった歩き方をしていましたが、軽自動車を運転して身軽に動いておられました。

 あるとき、大学サッカー界の名門、高麗(コリョ)大学校のグラウンドを訪れたときのことです。グラウンドの片隅にボールが1個置いてありました。すると、沈さんが「ちょっと、蹴ってみましょうか」と言うのです。

 ビックリです。さっきまで、杖をついてヨボヨボと歩いていた人が強烈なキックを披露するのです。芯を捉えたボールがうなりを立てて飛んできました。

 そのときはカメラマンの大和国男さんと、フットボール・アナリストの田村修一さんが一緒にいたのですが、40歳台の日本人たちはまったくついていけませんでした。

 要するに、「老人はこのように行動すべき」という規範のようなものがあって、当時の韓国の老人たちは、実際は元気であっても、誰でも皆、杖をついてヨボヨボと歩いていたのです。(2)に続く。

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