2025年は、サムライブルーやなでしこジャパンにとって大きな目標となる大会はない。だが、サッカージャーナリスト後藤健生は、その先のワールドカップやオリンピックに向けて、いくつかの「試練」を乗り越えるとともに、未来への「布石」を打つべき年だ…
2025年は、サムライブルーやなでしこジャパンにとって大きな目標となる大会はない。だが、サッカージャーナリスト後藤健生は、その先のワールドカップやオリンピックに向けて、いくつかの「試練」を乗り越えるとともに、未来への「布石」を打つべき年だと考えている。
■ビッグイベントのない「2025年」に
新しく迎えた2025年。今年はどんな年になるのだろうか?
日本では、昨年の総選挙の結果、自由民主党が少数与党となっており、野党との話し合いを続けながら薄氷の政権運営が続くことだろう。アメリカでは、間もなくドナルド・トランプが大統領に返り咲くが、いったい何を始めるのか「予測不能」と言われている。公約通り高水準の関税を課すようなことを実施したら、輸入品の価格が上昇してインフレが再燃。アメリカはますます不安定化するだろうし、アメリカで金利が上がれば円安がますます進行するだろう。
韓国では尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の“オウンゴール”で政治が大混乱。せめて安定していてほしいヨーロッパでも、ドイツやフランスをはじめ、各国で極右政党が台頭したことで政治が不安定化してしまっている……。
こうして、世界の政治経済は先行きが読めない状況だが、サッカーの日本代表にとっては、ビッグイベントのない無風の2025年となりそうだ。
今年は男女のワールドカップもなければ、オリンピック・イヤーでもないので、世界大会がない年に当たるのだ。
森保一監督率いる男子日本代表はワールドカップ・アジア最終予選を戦っているが、すでにとっくの昔に「当選確実」となっており、3月20日のバーレーン戦に勝利すれば数字的にも予選突破が確定。以後の戦いはいわゆる「消化試合」となる。
その後は、新戦力の発掘や戦術的なバリエーションの拡大に注目するしかない。
2022年のカタール・ワールドカップの時点でも日本チームは全出場国中で平均年齢が若いチームだったから、新戦力の発掘は急ぐ必要はなく、これまでは現有勢力を使って戦術的熟成度を上げていけばよかった。
実際、昨年秋に始まったアジア最終予選で森保監督はメンバーを固定して、両サイドに攻撃的選手を配した3バックでの戦いを続けてきており、その熟度は間違いなく上がってきた。だが、ワールドカップ本大会で強豪国と戦うことを考えれば、両サイドに守備的な選手を入れた形や4バックもテストしなければならないし、チーム内のマンネリ化を防ぐためにも、チーム内競争激化のためにも新戦力の組み込みが必要だ。
■「新戦力の発掘に消極的」批判も…
「森保監督は新戦力の発掘について消極的だ」と批判をする人もいるが、これは大きな間違いだ。森保監督は、これまでにも「剛腕」ともいえる手法で世代交代を図ってきた。
たとえば、2022年のワールドカップ・イヤーには、それまで日本代表のセンターフォワードとして君臨してきた大迫勇也をメンバーから落とした。最初は負傷によるパフォーマンス低下が原因だったが、大迫が復調しても再び招集することなく、カタール大会では前田大然を中心に、固定したCFなしで戦った。
ワールドカップ後にも「大迫待望論」があったが、森保監督は上田綺世を使い続け、2024年に入ってようやく上田が日本のCFとして独り立ちすることができた。森保監督はオリンピック・チームの頃から上田を起用しており、長期的な展望を持って上田を使い続けていたのだろう。
鈴木彩艶の抜擢も、相当に強引だった。
カタール大会まではベテランの権田修一を使っていたがワールドカップ終了後、若手に切り替え、そして、2023年後半から鈴木を起用し始めた。
2024年1月のアジアカップでは不安定なパフォーマンスで鈴木が失点に絡むことが何度かあり、鈴木は批判の矢面に立たされた。しかし、それでも森保監督は頑固に鈴木を使い続けた。そして、2024年夏にイタリア・セリエAのパルマに移籍して正守護神となったことで鈴木が急成長。人々は、アジアカップでの鈴木の起用に対して批判していたことを忘れてしまったようだ。
新戦力を発掘すべきポジションでは、森保監督はかなり強引に新戦力を組み込んできた。そのことは、上田や鈴木の例から明らかだろう。
■「主力の欠場」で新戦力が台頭
こうした、戦略的な新戦力の組み込みと並んで、自然発生的にメンバーが更新されることもある。
アジア最終予選で、日本代表のセンターバックは板倉滉、谷口彰悟、町田浩樹の3人で固定されている。30歳を過ぎた谷口がますます安定感を増し、若手の町田が左サイドでの攻撃へのつなぎの仕事を見事にこなしたりと、想定以上のパフォーマンスを続けている。
このメンバーで戦うことになったのは、冨安健洋が故障の連続のため、ほぼ1年間プレーできない状態が続いたからだ。こうして、「主力の欠場」という偶然の産物として新戦力が台頭することもある。
そして、若手の成長が新陳代謝を起こすのが理想的だ。
たとえば、その安定した3バックだが、来年のワールドカップ本大会でも同じメンバーで戦うことになるとは限らない。冨安が復調すれば、やはり守備の軸となるだろうし、若手の高井幸大やチェイス・アンリが経験を積めば、彼らがレギュラー入りする可能性もある。なにしろ、フィジカル面を含めて彼らの潜在能力は現在のメンバーを上回るものがあるからだ。(2)に続く。