なでしこジャパンの現在地 長野風花 後編イングランド女子スーパーリーグのリバプールでプレーする長野風花を現地取材。世界最高峰とされるリーグで揉まれるなかで成長したい部分、身につけなければいけないこととは?前編「長野風花が語るリバプールでのプ…

なでしこジャパンの現在地 長野風花 後編

イングランド女子スーパーリーグのリバプールでプレーする長野風花を現地取材。世界最高峰とされるリーグで揉まれるなかで成長したい部分、身につけなければいけないこととは?

前編「長野風花が語るリバプールでのプレー」>>


リバプールでプレーする長野風花を現地取材した

 photo by Hayakusa Noriko

【中盤での圧倒的な力が欲しい】

 19歳でなでしこジャパン入りを果たした長野風花も25歳を迎え、チームに欠かせない中盤の柱へと成長した。世代別代表ではU-17、U-20で世界一の景色を見ている。

 常に第一線を走り続けているように感じるが、意外にもなでしこジャパンとして世界大会を戦ったのは、2023年の女子ワールドカップ(オーストラリア&ニュージーランド共催大会)と、2024年のパリオリンピックの2大会のみ。代表歴の少なさを感じさせないほど長野の存在が色濃いということだ。

 ワールドカップ準々決勝ではスウェーデンに対し、なんとか対抗するなでしこジャパンだったが、不運にも長野がVARの介入の末にハンドを取られ、それが決勝点になってしまった。終了のホイッスルをベンチで聞いた長野が泣き崩れる姿は、今でも忘れることができない。

 誰よりも重く抱えたあの悔しさを内に秘めて臨んだパリオリンピックを経て、新たななでしこジャパンが生まれようとしている今、長野はどんな未来を思い描いているのだろうか。

「パリオリンピックは......もう悔しさしかないです。私たちと準々決勝で延長戦(●0-1)を戦ったアメリカが金メダルだった。あそこを勝っていればというのは何度も思っちゃいましたよね。でも、じゃあどうやったら勝てたか、どうやって点を取れたかと考えると、自分たちの戦い方はすべてにおいて力不足だった。だから悔しいという感情しかないです」

 初の世界大会を経験した2023年から2年の成長を見れば、この先4年間の彼女には伸びしろしかない。世界最高峰と言われるイングランド女子スーパーリーグのリバプールで3シーズン目を戦っている長野の環境がそれを示している。

「ここからの時間、磨きたいところしかないですよ。個人的に一番欲しいのは中盤での圧倒的な力。強さって言ったら抽象的ですけど、中盤を制することができたら、自分たちの時間も増える。パリオリンピックでは守備的な戦い方しかできなかったですけど、もうちょっと中盤で時間を作れたり、中盤の私たちがボールを受けることができれば、まずチャンスが作れたよねという話で......。

 もちろんあの時の私たちには難しかったこともあったけど、強いチームの中盤は安定してるし、リバプールでの課題でもあるボールを取りきるとか、中盤での1対1に勝って、そのボールを前につなげられる安定感、強さが欲しいです」

【なでしこジャパンで感じたボールを持つ重要性】

 選手の色で言えば、長野の相棒である長谷川唯も含めて、すでに確立されてはいる。あとはそれをいかに爆発させられるかだろう。長野は中盤の選手としてどう戦いたいのか。新生なでしこジャパンは、マンチェスター・シティ女子チームのテクニカルダイレクターを務めていた、イングランド女子スーパーリーグを熟知するニルス・ニールセン監督が指揮を執る。その始動の前の今は、唯一堂々と自分の理想を語れる時期でもある。

「確かに! 今しかない(笑)。でも......私はいい意味でこだわりがないんです。速い選手がいれば裏に蹴るのも全然アリだと思うし、絶対にポゼッションがしたいわけでもない。ただ、私はどんなスタイルにも合わせてみせる。パリオリンピックで感じたのは、ポゼッションがしたいというのではなく、もっとボールを持たないとチャンスが作れないってことでした。

 もちろんカウンターでいい場面を作れた時もあったけど、やっぱりそれだけじゃ世界を獲るには足りない。きれいなサッカーがしたいというんじゃなくて、チャンスを多く作るためにもうちょっとボールを持ちながらでないとダメだと。そういうサッカーがしたいなって思います」

 金メダルのアメリカに対しても、決してワンサイドではなかった。劣勢のなかから好機を生み出したことからも、理想へのかけらは拾えているのではないだろうか。

「私たちはあの粘り強い守備とか、規律を守って戦うことはすごくできると思ったので、あとは攻撃でボールを握ることができれば戦えるんじゃないかなとは思っています。だからこそ......ボール持ちたいな(超小声)」

 最後のひと言は小声すぎて、聞き落としそうになった。何度も言葉に出てくる "ボールを持つ"重要性。それが身に染みたオリンピックだったことがうかがえる。

【いい意味での図々しさを身につけないといけない】

 どんなチームでも"化ける"ことができるのが世界大会だ。パリオリンピックでは世界一に返り咲いたアメリカ同様、銀メダルに輝いたブラジルもそうだった。大会前には決していい仕上がりではなかった両チームが、戦うごとにワンチームとなっていく。ここからのなでしこジャパンに何を加えれば、ベスト8の壁を破る勢いが生まれるのだろうか。

「"我"じゃないですかね。我の強さ。いい意味でも悪い意味でも自分がシュートを打つ! 外しても『大丈夫、次、決めるから!』みたいなマインドが海外の人にはあるじゃないですか。いい意味での図々しさがある。日本人は配慮できるのがよさだし、空気を読むことだってなくしちゃいけないと思うんです。でも、もうちょっと私も含めて、質のいい図々しさ......これ、私、配慮できてます?(笑) このいい図々しさを身につけないといけないなって海外に出て本当に思うんです。

 自己中心的な図々しさは日本人には向いてないけど、そういう一面も一人ひとりがここぞという時きに出すのも大切。まとまることはできるから、クリアな図々しさがあるといい。私も成長しないと!」

 単純にスキルを上げるよりも簡単ではないかもしれないが、必要なマインドであることには違いない。そういうマインドにさせてもらえる相手も必要だろう。以前長野は世代別の代表として世界と戦う時、未知のパワーやスピードに「ワクワクする」と言った。今やその世界レベルが日常に落とし込まれたこの環境で、長野はどんな瞬間にワクワクするのか。

「私こう見えてすごくサッカー好きなので(笑)、いつもプレーできることにワクワクはあります。でもやっぱり強い相手を感じるとワクワクしますね。例えば......マンチェスター・シティでプレーしているスペイン代表のアレックス(ライア・アレクサンドリ)選手。今まで、センターバックを相手に自分の読みが外れることってなかったんですよ。でもアレックスがことごとく逆を取ってきた試合があって......。その時に『うわ、そっち出すんだ』って。フィジカルでやられることはあっても、読みでやられることは初めてだったので、そういうのはワクワクしますね」

 磨きたいものは数多くあるとはいえ、そのひとつひとつに向き合うこと自体を楽しんでいる。この感覚を持ち続けている限り、リバプールにおいても、なでしこジャパンにおいても、長野の歩みが止まることはないだろう。