なでしこジャパンの現在地 長野風花 前編男子のサッカー日本代表と同じく、女子のなでしこジャパンの面々も海外でプレーする選手の割合が増えてきた。世界最高峰とされるイングランド女子スーパーリーグのリバプールには、なでしこジャパンの攻守の要、長野…
なでしこジャパンの現在地 長野風花 前編
男子のサッカー日本代表と同じく、女子のなでしこジャパンの面々も海外でプレーする選手の割合が増えてきた。世界最高峰とされるイングランド女子スーパーリーグのリバプールには、なでしこジャパンの攻守の要、長野風花が所属している。そのプレーぶりを現地取材した。
長野風花はイングランド女子スーパーリーグのリバプールでプレーしている
photo by Hayakusa Noriko
【リバプールではアンカーでプレー】
右サイドでボールを持った長野風花は、マークにつかれながらもその右足を振り抜く。その次の瞬間、クロスバーをしたたかに叩く音が響き、スタンドがどよめいた。
「もう!ああいうところなんですよね......」
試合後、開口一番に彼女が放った言葉は悔しさにまみれていた。カップ戦とはいえ、リバプールのホームにエバートンを迎えたダービーで外したシュートの一場面。リーグ戦の同カードでも長野はゴールに迫っていただけに、悔しさが倍増したようだ。
リバプールで彼女がまかされているポジションはアンカーだ。しかも指揮官からは、状況によっては2枚のセンターバックの間に落ちてくるようにと、かなり深めの位置でのサポートを求められているとのこと。
それでも、隙あらば長野は前線へボールを運ぶだけでなく、自らフィニッシュまで狙い続けている。そのために90分間意識しているのがポジショニングだ。常に細かく動き、ボールを持った味方の視野に入りやすく、前線への抜け道になるようなポジションを探り続けていることは、長野の動きを見ればすぐに理解できる。
しかし、この気の利く動きは、味方に気づいてもらえなければ意味をなさない。リバプールに来た当初は相当厳しかったのではないか。
「こういうプレースタイルの人がリバプールにはいなかったから、初めて練習に行った時はみんな『ん?何してんの?』『なんか異質なヤツ来た』みたいな空気は流れました(苦笑)。ただ監督が『中盤の風花を見ろ!』って常に言ってくれてたので、最初のほうはよかったんです。でも相手のプレッシャーがかかってくると、みんなすぐ蹴っちゃう。そもそも無理なのに強引に前に運ぶことが多いから、今もですけど、もどかしい思いはあります(苦笑)」
味方の視野に入るタイミングが合えば、確実に何かを起こせる。そんな自信が長野からは感じ取ることができる。その瞬間を最終ラインまで下がって、ボールをかき出しながら狙い続ける。気が遠くなる作業の積み重ねだ。
「でも、めちゃくちゃ見てくれる選手もいて、そういう選手が入ってくると流れを変えられるんです。ただ、監督が求めているのはあくまでも守備的なところ。そこは理解した上で......。あまりビルドアップが得意なチームではないので、ボールを受けてなんとか前に運ぶことは意識してやってます」
【いかに1対1で相手についていけるか】
実際、リーグ戦でエバートンと対戦した際には、ゴールエリア内まで走り込んでいた長野のシュートが炸裂した。惜しくもキーパーに阻まれたが決定機を作った。
「あの試合はDFの選手とうまくコミュニケーションを取りながら上がっていて......。あのチャンスも決めきらないといけなかったですけど、(シュートを打てる)あの位置にいられたというのが少し変化できているところでもあると思っています。
本当に点を決めないと勝てないスポーツなので、私からチャンスを作る時もそうですけど、ラストパスを出せる位置まで行きたい。味方とコミュニケーションを取って、ここは埋めてねって伝えながら、それで自分が結果を残せる位置に行って仕事をしっかりできれば、何も言われないですから」
WEリーグでプレーしていた時、長野はサポートの質に強いこだわりを持っていた。環境が変わり、彼女のサポート力にはどんなアレンジが加わっているのだろうか。
「私が縦パス入れても、もはやサポートすらないから孤立してしまう場面があった。海外では『ターンして自分で行ける!』って考えるから。私はいい意味で、あえてサポートの形は変えてないです。ここでもう2年やっているので、選手の特長はわかってる。詰まっちゃうだろうなというところはわかるので、先を読みながら、でも常に(ボールの)出口になれるようなポジションは意識して取るようにしています」
彼女の言葉その通りのプレーが、リバプールのピッチで再現されている。味方にブレーキをかける役目も、長野のポジショニングにかかっているということだ。
もうひとつ気になる感覚として、"先を読む力"が上がってきているようだ。それを伝えると、彼女は少しいたずらっぽい顔をして笑った。
「そう"見える"のかも(笑)。誤解を恐れずに言うと、わかりやすいプレーが多いから、こっちのほうがボールを取れるんです。ちょっと空けておいて誘うことができる気がします。そういう技が少しずつできるようになってきた実感はありますね。いかに1対1で相手についていけるか、遅らせられるか、当たれるかというのにフォーカスしています」
【リバプールでの生活も満喫】
その表情からは、充実しているのがひしひしと伝わってくる。それはこのリバプールの土地柄も大きく影響しているという。
「すぐそばにエバートンというチームもあって、とにかくフットボールに対する街の人たちの熱量がすごい! 小さな子どもでもすごく熱くなってるのを見るし、そういうなかでプレーできている幸せがあります。歴史あるクラブだから、その重みも感じながらプレーできるなんて......。
エバートンにはホノちゃん(林穂之香)が来ました。今は試合に行けば相手チームにほぼ日本人選手がいる、みたいな現象が起こっています。オフに会ったりもできて心強い部分もありますが、なんか不思議な感覚です」
長野風花と林穂之香(左)。対戦後の2ショット
photo by Hayakusa Noriko
街を歩けば、コンパクトでありながら、必要なものが過不足なくあり、古きよきものと最先端のものがバランスよく混在している。どこか長野が持つ雰囲気に似ている気がする。そのせいか、彼女に街の様子を聞くと、ものすごい勢いで推しポイントがあふれ出てきた。
「リバプールの街、いいでしょ? どこにでもすぐに行けるし、海もある。あとはなんといっても人が優しい! 外から来た人間を受け入れてくれる愛があるんですよ。リバプールの中心から歩いて5分くらいのところに住んでいるんですけど、安全だし、快適すぎです。2年も住めばオフに街を徘徊する時期はさすがに終わりました(笑)。でも(徘徊)2周目に入ると、もう何をするってわけじゃないんですけど、散歩していることが多いかな。街の雰囲気が好きなんです」
長野が、最高峰とされるイングランド女子スーパーリーグで、自然体のまま挑戦を続けられる理由がわかった気がした。
後編「長野風花が語る、自分となでしこジャパンが身につけるべきこと」へつづく>>