バレーボール女子の米国代表セッターとして、1992年バルセロナ五輪で銅メダルを獲得したヨーコ・ゼッターランド氏(55)が、2028年ロサンゼルス五輪が開催される母国で新たな挑戦を始めた。米女子のプロリーグ「リーグ・ワン・バレーボール(LO…
バレーボール女子の米国代表セッターとして、1992年バルセロナ五輪で銅メダルを獲得したヨーコ・ゼッターランド氏(55)が、2028年ロサンゼルス五輪が開催される母国で新たな挑戦を始めた。米女子のプロリーグ「リーグ・ワン・バレーボール(LOVB)」のクラブのコーチに就任。自身も出場した96年五輪の開催都市、アトランタのクラブで指導をしている。米国での女子のプロリーグ定着へ、28年ぶりに母国のコートに立った経緯や心境を聞いた。(取材・構成=久浦 真一)
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ゼッターランド氏は、チームの始動に合わせ、昨年10月末に渡米。監督、選手、スタッフとのコミュニケーションを取り、選手にアドバイスを送るなどしてきた。「8日のソルトレイクシティ戦は、リーグとしてのオープニングゲームにもなる。ホームに、どれだけお客さんが来てくれるのか。わくわくが大きいですね」と気持ちは高まっている。
LOVBは女子だけの6チームのリーグ戦。28年の地元でのロス五輪に向け、人気を盛り上げ、翌29年には10チームに増やす構想がある。米国では何度かプロリーグが創設されてきたが長続きせず、選手たちは海外のクラブチームでの活動を余儀なくされてきた。
このため、LOVBでは数年前からバレーが盛んな地域を徹底的にリサーチし、6地域を選定。スポーツメーカーや、元プロテニスプレーヤーのビリー・ジーン・キング氏(81)などの元スポーツ選手からの投資などで資金を調達。並々ならぬ意気込みだ。
メンバーは、そのチームの所在地にある大学出身者や、ゆかりのある選手、16年リオ、21年東京、24年パリの各五輪代表から選考。ゼッターランド氏は92年バルセロナ銅、96年アトランタ7位と両五輪での米国代表としての活躍が評価され、23年7月、LOVBからのオファーを受けて、昨年9月にコーチに就任した。
99年の現役引退後はスポーツコメンテーターなどを務め、関東大学リーグの嘉悦大の監督として4年間、采配を振るったが、実業団やプロチームの指導の経験はなかった。「Vリーグなどトップレベルのコーチングはやってみたいというのはあったけど縁がなかった。オファーがあった時はうれしかった」。元ラグビー選手の夫・佐藤友重さん(53)も「いってらっしゃい。いつかアメリカに行くと思ってた」と、一緒に喜んでくれた。
日本と米国の国籍を持っていたが、22歳になる直前、米国籍を選択。米国代表で五輪に出ることを決断した。早大バレー部に所属していたが、当時の女子は大学のレベルが低く、同じ年代でも実業団の選手が日本代表に選ばれていた。大学1年まではジュニア日本代表に選出されていたものの、その後は声がかからなくなった。日本代表での五輪出場を諦め、メダルの夢を追って、米国に渡った。97年まで米国代表として活動。28年の時を超え、今度は選手からコーチとして米国の地に立つ。「これだけ時間がたって、もう一度アメリカでバレーボールに携われるなんて奇跡に近い。積み重ねたキャリアを生かして、選手に伝え、リーグを盛り上げていきたい」。たくさんの情熱を持ってコートに立つ。
◆LOVB アトランタ、ソルトレイクシティー、オースチン、ヒューストン、マディソン、オマハの6チームが参加するプロリーグ。1月から4月までリーグ戦を行う。2021年東京五輪金メダルの米国代表や、各国代表らを中心にメンバーは構成されている。ソルトレイクシティには、パリ五輪代表のリベロ、小島満菜美(30)、19年アジア選手権代表のセッター、松井珠己(26)が在籍している。米国には、もうひとつ、プロリーグ(プロ・バレーボール・フェデレーション、PVF)があり、昨年、7チームで始まった。LOVBが、選手がリーグと契約するのに対し、PVFはチームとの契約となる。LOVBは米国協会とパートナーシップを結んでいる。
◆ヨーコ・ゼッターランド 1969年3月24日、米サンフランシスコ生まれ。55歳。東京・文京十中からバレーを始め、全国大会で優勝。元日本代表の母・方子(まさこ)さんがヘッドコーチを務めた東京・中村高ではインターハイ、春高バレーで3位。早大卒業後、渡米。日本に戻ってからは東芝、ダイエーなどでプレー。引退後は、スポーツコメンテーター、21年東京五輪・パラリンピック組織委員会理事、日本スポーツ協会常務理事などを務めた。