2022年と23年の年間女王、山下美夢有が今年から米ツアーにフル参戦する。24年は初めてメジャー全5戦に出場して「全米女子プロ選手権」2位、「パリ五輪」でメダル逃しの4位、国内ツアーの平均ストロークは歴代最高69.1478を記録した。メジ…
2022年と23年の年間女王、山下美夢有が今年から米ツアーにフル参戦する。24年は初めてメジャー全5戦に出場して「全米女子プロ選手権」2位、「パリ五輪」でメダル逃しの4位、国内ツアーの平均ストロークは歴代最高69.1478を記録した。メジャー制覇を目指し、主戦場を移す思いに全2回のインタビューで迫る。(取材・構成/加藤裕一)
「私はこのスタイルでいい」 飛距離を気にしない技術/インタビュー<後編>
「いろいろあった濃い一年」
米ツアー最終予選会(Qシリーズ)を1位で通過した昨年12月9日、山下は挑戦を決めた時期を4月のメジャー初戦「シェブロン選手権」後と明かした。メダルを逃して号泣した8月「パリ五輪」など、周囲から見れば、より印象的なタイミングがあったと思われたが、シーズン早々に気持ちは固まっていた。
―2024年はどんな年やった?
「まあ良かった年やと思います。いろいろあったけど、結構、濃い一年やったと思います」
―“いろいろ”の中でも、やっぱりパリ五輪?
「うーん、結果的にはやっぱりオリンピック…かな。あれはもうホンマに一番悔いが残りました。金(メダル)が散りましたもん、16番(の池ポチャ)で…」
わかってきた自分のレベル
―どういう理由で米ツアー挑戦を決めたん? 21年の初優勝(KKT杯バンテリンレディス)前に「うまくいけば来年(22年)か再来年(23年)にチャレンジしたい」と言ってはいたけど、向こうに行かんでもメジャーで結果は出始めてたし
「もともと海外志向はあって、試合を重ねるごとに、自分のレベルもわかってきたんです。『まず日本の上位で戦えないと向こうに行っても結果は出せない』って言われてきて、自分もそれは理解してましたから」
―そう言ってたのはお父さん(勝臣さん)?
「そうです。お父さんは結構厳しいっていうか、ほめられたこともあんまりないんですけど…。ほめてるの聞いたことない?(爆笑して)はい、ないです。でも、私はそれで良かったと思います」
―お父さんと山下さんの考え方は見事に一致してるよね。簡単に満足せん。めっちゃ自分に厳しい。もうちっと肩の力を抜いてもええんちゃう?
「気持ちはいつも、出る全部の試合で優勝を目指してやってるんで。特にプロになってから、そういう気持ちが強くなりました。ちょっとでもうまくいかんと納得いくまで練習します。アマチュアの時から、そのスタイルは変わってないです」
―自分と厳しく向き合って、結果もついて来た。その上での米ツアー挑戦
「特にここでってのはないけど(国内開幕戦の)ダイキン(オーキッドレディス)からちょっとして…メジャーの最初はシェブロン(選手権)でしたっけ? そう、シェブロンに行ったのが一番大きかったです」
背中を押したザ・クラブatカールトンウッズ
―シェブロン選手権は初出場で17位になった
「コース(ザ・クラブatカールトンウッズ)がすごく難しくて『ほんまにやりがいあるな』って思ったんです。本当に技術が重要になる。今の自分の実力が絶対にわかる。そういった部分で『自分はやっぱここやな。レベルアップするために、気持ちの面でも、自分を進化させるためには、ここで勝たないとな』とすごく感じた。ほんでもう『絶対(予選会を)受けよう』と。その時にはもうお父さんにも(予選会に)『行く』と言ってました」
―山下さんにとって難しいコースって言うなら、2023年のペブルビーチゴルフリンクス(全米女子オープン会場)でしょ? メジャー出場2戦目で「衝撃やった」「経験したことない難しさやった」と言ってた。それと違うものを感じた?
「だいぶ感じましたね。あの時は海外志向もあんまりなくて。(2日目がプロ転向後のワーストスコア79と)ズタズタにやられたんで、それ(海外志向)よりも『足りひんな、このレベルやったら(プレー)できひん』と思ったことの方が強かったです」
―米ツアーに挑戦する人は雰囲気、顔ぶれの違いとかを理由に挙げることも多いけど、それよりもコース?
「私はコースですね。人とかはあんまり…。そりゃコミュニケーションをとっていくうちに、徐々に気になるかもしれへんし、もちろん大事と思います。でも、やっぱ一番は『LPGAで勝つ』っていう気持ちがあって、それには難しいコースと戦っていかないとあかんから。甘さとか中途半端なものがあったりしたら絶対にダメ。その気持ちは絶対に忘れたらあかん。何のために行くかってこと。そう思ってます」
難しさが「楽しい」
―具体的にはどんな難しさを感じたの?
「ほんまに全体です。コース全部が難しい。セッティング。ティイングエリアから全然違うんですよ。日本ってだいたい似てるじゃないですか? もちろん日本が悪いとか言ってるんじゃないですよ。でも、普通に(ティイングエリアから)ドーンとしてて、グリーンも大きくて、ピンサイドに外しても寄せられる、ミスしてもカバーできる」
―米ツアーではそうもいかん?
「(半笑いで)はい。向こうってミスしたら終わりなんです。そこに外したら、絶対にダボ、ボギーがすぐに来るとか、割り切らなあかん。だから、やっててほんと楽しいんです。いかにバーディをとるか、どうやってパーにするか。それこそQシリーズのコースも難しかったですよ」
―そうか、楽しいんや。でも、日本では要所でお父さんがコースに来て、状態をチェックしてくれてたけど、米ツアーに行くとそうはいかんし、大変ちゃう?
「まあ、そのへんはビデオ通話もあるし。でも、何と言っても(スコアの鍵は)ショートゲームと思うんで。ショット、スイングも大事ですけど、最終的にはやっぱりそこやと思います。コースに対するマネジメントもそうで、それは自分で考えてやらんといけない。例えば、グリーン回りとか。(父親に)頼るところは頼るけど、頼るばっかりじゃなく、自分でやるようにしないとダメでしょう? プレー中に何があるかわかんないじゃないですか?」
◇◇◇
もともとあった海外志向。日本で、メジャーで経験を重ね、力をつけて、メジャーのコースを「難しいから楽しい」と思うようになった。決断の時は、ゴルファーとして成熟したプロ5年目に訪れた。(後編に続く)