周囲のプッシュもあり、米国内で知名度を高めているモートン。そのスキルは明白だが……。(C)Getty Images規定を15パウンド以上も上回った体重で公の場に… 記録的な計量大幅オーバーだった。 昨年11月30日、ニュージャージー州のアト…

周囲のプッシュもあり、米国内で知名度を高めているモートン。そのスキルは明白だが……。(C)Getty Images

規定を15パウンド以上も上回った体重で公の場に…

 記録的な計量大幅オーバーだった。

 昨年11月30日、ニュージャージー州のアトランティックシティで行われる予定だった133パウンド契約6回戦の前日、カーメル・モートン(米国)は、なんと148.7パウンドで計量に登場。7キロ以上のオーバーではもちろん試合が許容されるわけもなく、この日まで11勝(6KO)6敗1分だったブライアン・メルカド(エクアドル)との一戦はキャンセルされた。

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 計量失敗は残念ながら、特にアメリカでは珍しくはない。それでも今回の件が少々異例に思えるのは、これほどのオーバーをやらかしたのがまだ18歳、6戦全勝(5KO)のルーキーだったからに他ならない。モートンは緩い身体で体重計に乗っても悪びれず、同興行のプロモーターを務めた元世界2階級制覇王者ダニー・ガルシア(米国)と笑顔で握手まで交わした。

「伝達不足があった。試合をするのに必要な血液検査の結果が間に合わず、彼は試合ができないと思ったようだ。私たちは検査が間に合った時のために体重を作ってくれると期待していたが、彼を責めたくはない。私たちの責任だ」

 翌日、筆者とのインタビューに応じたガルシア本人の説明は筋が通ったものではあった。とはいえ、どんな事情があろうと、西海岸に拠点を置く新人ボクサーがわざわざアメリカ東海岸のニュージャージーにまで足を伸ばした上で、規定を15パウンド以上も上回った体重で公の場に出てくれば、周囲が眉をしかめるのは仕方がない。この件を受け、デビュー当初から有望視されてきたモートンの将来に疑問を抱く関係者が増えたのも当然だった。

 まだ8回戦で戦っている選手にもかかわらず、モートンの知名度はすでに米国内でもかなり高い。「アマ18冠」と喧伝され、17歳でプロデビュー後は連戦連勝。今年3月、その時点で9戦無敗(7勝2分=3KO)だったアンソニー・キューバ(米国)とのハイレベルな8回戦に判定勝ちを飾り、勢いだけの選手ではないと証明した。

 スピード、パワー、爆発力は誰の目にも明白。元世界5階級制覇王者のフロイド・メイウェザー(米国)がかなり早い段階から目をかけてきただけのことはあり、稀有な素質を持っているのは間違いない。

モートンを早くから目にかけ、井上の名を使いながらプロモーションを展開するメイウェザー。(C)Getty Images

若手ボクサーの優遇はいいことばかりにあらず

 日本のファンの間でもモートンの名はすでに少なからず知られている。その理由はプロ入り直後から井上尚弥(大橋)の名を自ら引き合いに出してきたから。昨年9月30日、サウル・カネロ・アルバレス(メキシコ)対ジャーメル・チャーロ(米国)戦のアンダーカードで用意されたプロデビュー戦(フェザー級4回戦)で初回KO勝ちを飾ると、直後、会見の場で早々と“モンスター越え”を宣言した。

「イノウエは良い選手だ。スキルがあって、速く、強い。ただ、僕は彼よりもずっと大きくなる。最終的には遥かに優れた選手になれると思っている」

 会見に同席した“プロモーター”メイウェザーも、「日本のあいつ(=井上)といつか戦うことになるかもしれない。名前の発音がわからないけど、あいつだよ」と例によって傍若無人にモートンに同調。“モンスター”の存在を巧みに使い、「井上の将来のライバル候補」という形でモートンの知名度を広げた。

 このエピソードはメイウェザーのマーケティングのうまさと、現在の米国内での井上の評価の高さを物語る。“イノウエ”はたまた“モンスター”に付与されれば、話は少なからず大きくなる。さすがは2015年のマニー・パッキャオ(フィリピン)戦を興行面では史上最大のイベントに仕立てたメイウェザーという他にないのだろう。

 ただ……華やかなプロデビューから1年半も経たない現時点で、上記通り、モートンの今後を不安視する声が増えている。163センチの小柄な体躯でもウェイトは1戦ごとにかなり上下してきた。プロ第1戦はフェザー級リミットを少しオーバーした契約ウェイトで戦っていたが、10月の第6戦はスーパーライト級。依然として身体は大きくなっているはずで、もう近未来の井上戦など現実的ではない。

「あれほどの体重超過は大きな危険信号だ。私にはいい兆候に見えない」

 ニュージャージーでの試合を計量オーバーで流したあと、元WBO世界スーパーライト級王者で、現在は解説者を務めるクリス・アルジェリがそう指摘していたことも無視できない。端的にいって、今では米国の多くの関係者がアルジェリに同調するのだろう。

 モートンの次戦は2月1日、ラスベガスのT-モバイルアリーナで予定されている。デビッド・ベナビデス(米国)対デビッド・モレル(キューバ)という好カードのアンダーカードと、またビッグステージだが、どのウェイトになるかは未定だ。再び計量時から大きな注目が集まるに違いない。

「ボクシングでは、リングに入るその瞬間まで何が起こるかはわからない。今回の件から学び、成長してほしい。まだまだ伸びていってほしい。それだけだ」

 メイウェザー・プロモーションズとは「関係がいい」というガルシア・プロモーターはそう述べており、今後も自前の興行でモートンを起用したいという意向を見せている。このように早い段階から若手ボクサーを“Aサイド”として優遇することは、その選手にとっていいばかりではないのかもしれない。その才能は誰もが認めるものがあるが、今の待遇で規律を学ぶことは可能なのか。それを助けるサポート体制は周囲に存在しているのか。

 モートンの存在はボクシング界にとって最新のテストケースとなる。今後しばらく、まだ18歳の有望株はリング内外で注目を集め続けることになりそうだ。

[取材・文:杉浦大介]

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