ブンデスリーガ日本人選手 前半戦レポート 後編ブンデスリーガ後半戦スタートにあたって、日本人選手のシーズン前半の模様を現地ドイツで取材を重ねるライターの林遼平氏が詳報。後編では今季ブンデスリーガデビューを飾った4選手のプレーぶりをレポートす…
ブンデスリーガ日本人選手 前半戦レポート 後編
ブンデスリーガ後半戦スタートにあたって、日本人選手のシーズン前半の模様を現地ドイツで取材を重ねるライターの林遼平氏が詳報。後編では今季ブンデスリーガデビューを飾った4選手のプレーぶりをレポートする。
前編「堂安律、板倉滉のシーズン前半の活躍ぶり」>>
マインツの佐野海舟(左)とシュツットガルトのチェイス・アンリ(右)
photo by Getty Images
【リーグ全体の注目株のひとり】
佐野海舟(マインツ/MF)
ドイツの地に渡って約4カ月。これほど大きく評価を変える選手になるとは想像もつかなかった。
キャンプに遅れて合流した後、チーム内外から「適応に時間がかかる」という評価を下されていたものの、開幕前のカップ戦でハイパフォーマンスを披露。これにより開幕戦スタメンの座を勝ち取ることになった。
開幕して数試合は、Jリーグとの違いに戸惑いを隠せず、本来のよさであるデュエルの強さなどは影を潜める時もあった。ただ、試合を重ねるごとに素早く順応。チームが「いい守備からいい攻撃」を前提にしていることもあり、自身のスタイルがしっかりとマッチして、プレーも日々改善されていった。
すると、徐々にチームに欠かせない選手へと成長。第4節のアウクスブルク戦以降は、全ての試合でフル出場を飾っており、中盤の柱のひとりとして立ち位置を確立した。
ドイツ国内メディアも、手放しで佐野のパフォーマンスを称賛。第10節のドルトムント戦で見事なボール奪取と得点の起点となるロングパスで評価を高めると、第14節のバイエルン戦ではドイツ代表のエース級と言っていいジャマル・ムシアラを沈黙させ、一気にリーグ全体の注目株のひとりとして名を挙げた。
また、チームもドルトムント戦以降、6戦5勝と調子を上げ、現在(第15節終了時)来季チャンピオンズリーグ(CL)出場圏内となる4位のライプツィヒと勝ち点2差の5位につけており、チーム全体のパフォーマンス良化の一翼を担っている。
佐野自身は試合を重ねるごとに守備面で手応えを掴んでいると明かす一方、攻撃面では"もっと得点に絡むこと"を課題として強調。ボール奪取してからの前線への絡み方であったり、中盤の相方との関係性を踏まえながらいかにゴール前に入っていくかを考えており、さらなる向上を目指す姿勢もうかがえる。
実際、ここから得点やアシスト数を増やしていければ、さらに評価が高まることは間違いない。残りのハーフシーズンで攻撃面に進化が表れたとすれば、来夏にはビッグクラブからの招待が待っているかもしれない。
【準レギュラーの立ち位置を見事に手にした】
チェイス・アンリ(シュツットガルト/DF)
今季の前半戦において"驚き"という面では、佐野海舟を上回っているのがチェイス・アンリだ。
現在20歳の若武者は、シーズン開幕前の時点でトップチームに残れるかどうかも定かではなかった。しかし、最終ラインにケガ人が続出してベンチ入りを果たすと、さっそく開幕戦でブンデスリーガデビュー。そこで堂々たるプレーを見せて、わずかなチャンスを掴み取ることに成功した。
そこから4カ月の間にチェイス・アンリの環境は大きく変わった。なかなかケガ人が復帰してこなかったことやCLとの兼ね合いで日程がタイトになったこともあり、コンスタントに出場機会を得られた。10月26日のキール戦からは公式戦4試合連続先発出場を記録するなど、着実に評価を高め、クラブ内での地位を確かなものとしている。
もちろん今後、ケガ人が復帰してくれば序列は下がってしまうかもしれないが、現在はCLとの兼ね合いのなかでセンターバックのローテーションの一角に入っており、準レギュラーという立ち位置を手にしたのは見事と言っていいだろう。
プレー面に関しても試合を重ねるごとに変化してきている。シーズン序盤はビルドアップやポジショニングに不安を抱えていたが、今では積極的にトライする姿勢が見られ、ポジショニングにしても読みの鋭さを生かしたディフェンスでボールを奪取する回数が増えてきている。この半年での成長という面では、他の日本人選手とは比べものにならない程、ピッチ上で変化を見せており、ここからの進化が楽しみでならない。
一方で、しっかりと認められたうえで迎える2025年は、よりプレッシャーのかかる状況でプレーする機会が多くなるはずだ。シーズン終盤になると、CLやブンデスリーガにおいて重要な試合がより増えてくる。そういった状況下で強いメンタリティを持って挑むことができるか。2025年をさらなる飛躍の年にしたいところだ。
【下位で苦しむチームのなかでここまで6得点】
町野修斗 (キール/FW)
クラブ史上初のブンデスリーガ昇格を果たしたキールで新シーズンに挑んだ町野修斗は、浮き沈みの激しいハーフシーズンを過ごした。
序盤戦は絶好調だった。開幕スタメンをもぎ取り2トップの一角やトップ下の位置で起用されると、巧みなポジショニングでボールを引き出しては前線から鋭いプレスを敢行。もちろんそれだけでなく、隙を見逃さずにゴール前に進入して得点に絡むなど、その存在感は抜群だった。実際に5試合を終えて4得点を奪った時点では、今季の町野の大爆発を予想した人も少なくないだろう。
ただ、町野自身というよりも、チームが苦しい状況に陥ったことが結果的に町野を苦しめた。開幕5試合で4得点を奪った期間も、チームは1分4敗となかなか結果が出ず、第8節までひとつも勝利を得られなかった。
迎えた第9節のハイデンハイム戦で今季初勝利を得るのだが、この試合で町野は出場機会を与えられず。チームとして失点が増えていたこともあり、守備を第一に考えた戦い方を選択するようになったため、町野はベンチを温める時間が増えてしまった。
それでも、数少ないチャンスを掴むために準備を続けてきた成果が、ウインターブレイク前最後の第15節アウクスブルク戦で花を開くことになる。その前の試合のボルシアMG戦後に「あと1、2点取って、5得点に乗せてウインターブレイクに入りたい」と語っていた町野は、序盤からアグレッシブなパフォーマンスを披露。見事な直接FK弾を含む、2ゴール2アシストの大活躍で、チームに今季2つ目の勝利をもたらしたのだ。
まさに有言実行のパフォーマンスは、今後の戦いに影響をもたらす可能性が大きい。前述したようにチームの守備への意識が高まったことで失点は減ったが、得点数も減っていたのだ。そのなかで町野の活躍により9試合ぶりの複数得点。このインパクトは指揮官に伝わるはずだ。
我慢の時期もすごしたが、最後に2025年へとつながる結果を残した町野。残りのシーズン、どこまで得点を積み上げるか注目したい。
【最下位のチームで苦戦中】
三好康児(ボーフム/MF)
今季、ブンデスリーガデビューを飾った日本人選手のなかで、最も苦戦しているのが三好康児だ。
今夏の移籍市場ギリギリで加入したこともありやや出遅れると、第3節のフライブルク戦でインパクトを残したものの、ケガもあってそこからの3試合は出場が限定的に。そのあとは先発機会が少なく、なかなか結果を残せていない。
チームが低迷しているのも難しさのひとつだ。今季から指揮官が変わり、昨季とは違って多少なりともポゼッションスタイルを入れ込もうと思ったが、なかなかチームに浸透させることができず。指揮官交代によって流れが変わるかと思われたが、第10節のレバークーゼン戦で三好が途中出場から劇的な同点弾を奪ったものの大きく序列が変わる気配はない。
少し雰囲気が変わってきた第14節のウニオン・ベルリン戦では、先発出場するも13分で退場処分を受けるという不運も重なり、三好にとっては思いどおりのハーフシーズンを送ることができなかった。
ただ、ピッチに立てば、三好の力がブンデスリーガの舞台でも通用するところは垣間見せている。前述したレバークーゼン戦も短い時間のなかで存在感を発揮。巧みにボールを引き出しては前線に絡み、後半アディショナルタイムには見事なゴールでチームに勝ち点1をもたらした。本人もブンデスリーガでやっていける手応えを感じており、出場時間さえ増えれば結果を残してくれそうな雰囲気もある。
だからこそ、あとはトレーニングからのアピールや少ないチャンスを生かすのが重要となる。今は苦しい時期であることは間違いないが、アントワープやバーミンガムでもそういった時期を乗り越えてきた経験もある。クラブがリーグ最下位と苦しい状況にあるなかで、後半戦の救世主となれるか。自身の力を証明し、現状を打破していきたい。