新体制下でも信頼を得ている三笘は、定位置をしっかりと掴んでいる。(C)Getty Images物足りなさを感じさせた三笘の連携プレー 敵地グディソン・パークで行われたエバートンとのプレミアリーグ開幕戦で今季初得点、本拠地アメックス・スタジア…

新体制下でも信頼を得ている三笘は、定位置をしっかりと掴んでいる。(C)Getty Images

物足りなさを感じさせた三笘の連携プレー

 敵地グディソン・パークで行われたエバートンとのプレミアリーグ開幕戦で今季初得点、本拠地アメックス・スタジアムで迎えたマンチェスター・ユナイテッドとの第2節では初アシストを記録。ブライトンの開幕連勝スタートに貢献した三笘薫のプレミアリーグ3年目は上々な幕開けだった。

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 思えば、昨季は怪我に悩まされた。2月に腰を痛めると、後半戦のほとんどをフイにし、シーズン終了までピッチに戻ってくることはなかった。迎えた今季は苦しい期間を耐え抜いただけに、プレーできる喜びは大きかった。

 開幕戦後に取材に応じた三笘は「ほんとに久々のプレミアリーグでしたし、楽しかったです。自分もその(長期離脱することになった)怪我から色々準備してきてるんで、それが今シーズンどう出るか楽しみですね」と明るい表情を見せた。

 その後もシーガルズ(ブライトンの愛称)は、順調に勝点を重ねていった。シーズンの約3分の1に当たる13節消化時点で勝点は23。チャンピオンズ・リーグ(CL)出場権獲得圏内の4位につけ、プレミア史上最年少(31歳)のファビアン・ヒュルツェラー新監督の下、快調な出だしを切ることに成功した。

 三笘はロベルト・デ・ゼルビ前監督時代同様、4-2-3-1の左ハーフの定位置をがっちりと掴んだ。前任者より攻守のバランスに重きを置くヒュルツェラー政権下で、オフェンスだけではなくディフェンスもしっかりとこなす彼の存在は、チームに欠かせないピースとしてドイツ人の智将にも認識された。

 しかし、個人的には、今季の彼のプレーにどこか物足りなさを感じずにはいられなかった。プレミアリーグでのデビューシーズンに見せていた積極果敢なドリブルで守備者を置き去りにし、カバーに入った2人目、3人目も抜いていく姿を見ることがなくなったからだ。

 無論、舞台は世界最高峰のプレミアリーグであり、1年目の三笘のパフォーマンスが図抜けていたのは十分理解している。ライバルたちが対策を施すのは当然で、対峙する右SBにマークを徹底させたり、時には“ダブルチーム(2人がかり)”で、日本代表WGを止めにくる。これに対する三笘の対応策は、周囲の選手を使ったコンビネーションプレーだった。

 開幕から好調を維持していたベテランFWダニー・ウェルベックや、怪我から戻りスタメン復帰した左SBぺルビス・エストゥピニャンといった、互いの動きを分かり合えるチームメイトを利したプレーで、三笘は左サイドから敵の守備網を崩した。そして、たびたび好機を演出。結果を見れば、彼の“策”は奏功していたことになる。

 一方で、ボールを持った後に仕掛ける素振りさえ見せずに、ただ、横や後ろにパスを返す光景が増え、消極的なプレーをしている印象を受けていたのも確かだ。チームを最優先とするがゆえに、結果として三笘の長所の一つであるダイナミズムが薄れ、小さくまとまっているように感じた。

“フォア・ザ・チーム”を念頭に置きながら、三笘は己に向き合い続けた。(C)Getty Images

“個人の結果”よりも重視した勝点

 ネット上にあるブライトン・サポーターが管理する専門サイトをいくつか調べてみると、「なぜミトマはドリブルをしなくなったのか?」というコメントも散見された。この手の質問に対する回答の多くが、「ミトマにマークが2枚ついてほかの選手にスペースができ、有効に使っている」「見栄えの良いドリブルは少ないが、効果的な連携でチャンスをつくっている」「効率よくボールを扱っている」といったポジティブな内容が多かった。

 では、本人はどう考えているのか。2-1で勝利した11月9日のマンチェスター・シティ戦後、イングランド代表DFカイル・ウォーカーとの対峙を問われた三笘の回答は、こうだ。

「相手が嫌がることをやろうとは思ってましたけど、前半なかなか守備に追われてできなかったですし、後半は高い位置で近いジョアン(・ペドロ)だったり、ぺルビスがサポートしてくれて、いいトライアングルできていましたし、そこは良かったですね」

 さらに三笘は同じく2-1で勝利した同23日のボーンマス戦後にも、相手の右SBアダム・スミスに「張り付かれてプレーしにくかったのではないか?」という質問を受けている。その際には、「いや、戦術的に高い位置を取っても僕が引いてしっかりとマンツーマンのところでやらせないとこは意識していたので。まあ我慢するところは我慢しないといけなかった」と答えている。

 どちらも“フォア・ザ・チーム”を念頭に置いたコメントだ。さらに言えば、今季序盤の三笘が幾度も口にしたのが、「チームが勝てばゴールやアシストは気にしない」というものだった。もちろん本音を言えば、“個人の結果”も欲しいはず。だが、何よりも重要視しているのが、勝点3なのだろう。

 ただ、ここにきてチームは停滞している。攻守がかみ合わずに、前述のボーンマス戦を最後に直近8戦未勝利(6分け2敗)と、勝利から見放されている。順位もCL出場圏内から10位まで落ち込んだ。

 勝てなくなると、サッカー選手はもちろんアスリートは自信を失い、慎重なプレーが増えていく。それは三笘においても例外ではなく、最近の彼のプレーからは大胆さが欠けているように思えた。

 確かに、指揮官の戦術を理解して、勝利のために尽力している。フィニッシュ精度は以前よりも向上し、得点数こそ伸びていないものの、枠内を捉えるシュート回数は増えた。だが、「怖さ」という物差しで三笘のパフォーマンスを測ってみると、半減しているように思う。

サウサンプトン戦で三笘は日本代表のチームメイトである菅原(左)ともマッチアップした。(C)Getty Images

考えを改めさせられた三笘の“真価”

 筆者は、まだ27歳と若い三笘だが、転換期が訪れたのではないかと考え始めていた。つまり、ドリブルで勝負するのは難しくなり、より効率を重視したプレーからエリア内に顔を出してゴールに絡む。理想で言えば、クリスティアーノ・ロナウドがウインガーからゴールゲッターに変わっていったように、よりゴールに近い場所で決定的な仕事をするプレーヤーにシフトチェンジしていく。でなければ、この先にプレミアで活躍するのが難しくなっていくのではないだろうかと、勝手に懸念していた。

 ちなみにスポーツベッティングに特化した英サイト『ThePuntersPage』によれば、今季の三笘が仕掛けたドリブル数は82回あり、そのうち37回が成功。成功率にして約45%となっている。成功率こそ高くはないものの、回数はリーグ7位である。2シーズン前は、シーズンを通して112回も試みて、57回も成功。成功率は約51%だった。

 前出のボーンマス戦後、三笘は次のように話している。

「まずは守備からしないといけないのはわかっていますし、アウェーでは特にそういうところあります。失点しなければ流れが来るのもわかってますし、もちろん今日は戦術的にも、より中のところのポジションがあったんで、開いてドリブルする回数は減りましたけど、そういう戦術のところもやっている。

 周りの人から見れば、そこはわからないと思います。そういう監督の戦術を遂行していかないといけないんで、見てる人はもどかしいかもしれないですけど、僕のところではチームとしてやるべきことをやってるつもりです」

 そして、2024年の最終2試合、ホームでのブレントフォード戦とアウェーでのアストン・ビラ戦で、自身の考えがまるで間違っていて、懸念が杞憂だったことが分かった。なぜなら、三笘に積極性が戻り、真価を発揮していたからだ。

 まずはブレントフォード戦。三笘は左サイドでボールを受けては前を向き、ドリブルで前進する回数がここ数試合とは比較にならないくらいに増加。そして、対峙した右SBのマッツ・ルアスレウが、その仕掛けを嫌がっていたのは明らかだった。

 試合後、ピッチで見せた変化について三笘は「コンディションも悪くなかったし、ボール受けた時にショートカウンター気味にスペースがあったんで、そこに入ることで、それが決まれば相手も怖いと思う。そういうプレーを毎試合やらなくてはいけない。そこからシュートを打ち切るところまでやらないといけない」と話している。

 そして「積極プレーは監督からの指示か、自分で考えたところか?」と聞かれ、こう切り返している。

「(監督からは)何もないですよ。5試合で結果が出ないところで自分自身で考えたりもしていました。自分を見つめなおしたり、チームとしてやりたいことと自分がやらなければいけないことの区別は難しかったところはありました。良くも悪くも結果が最終的な判断になると思うので。結果が出ればOKだったのですが、それは次をやるしかないと思います」

チームとしての結果を求めながら、己の進化を負い続ける三笘。その成長はまだまだ止まらない。(C)Getty Images

様々なアクシデントも24年は「すごくポジティブ」

 24年のラストマッチとなったアストン・ビラ戦では、より積極果敢なプレーが顕著になっていた。

 1点をリードされた58分から途中出場した三笘は、待望された仕掛けで、敵守備陣を脅かすプレーを連発。完全なアストン・ビラペースだった状況を、そのドリブルとスピードで打開し、結果的に試合を2-2の引き分けに持ち込み、勝点1を呼び込んだ。

「途中出場でやるべきことは、今回は攻撃的なところで、前の矢印を出すことでした。その分やっぱり相手のチャンスもありましたけど、こういう展開にしないといけないかなっていうところは思ってましたし、途中出場の選手が活性化しないといけないと思っていたので」

 反撃のために試合を動かすパフォーマンスを求められた三笘は、それを有言実行してみせたのだった。

 そして、3年目の前半戦を振り返った三笘は、「(チームとして)もっと上に行けたのは間違いない」と悔しい表情を見せた。一方で、後半戦は上昇するしかないのだという気概も見せている。

「もう過去ですし、ここから半分の試合でいかに上に行くかだと思います。本当に毎試合積み重ねれば、全然可能だと思う。怪我人が戻ってくればよりいい戦いができると思いますし、今のところは厳しい戦い続いてますけど、次の新年明けてからまたいい気持ちでやれればなと思っています」

 そして、怪我による長期離脱や監督交代など、様々なアクシデントが起こった24年をこう振り返っている。

「腰の怪我は自分の中ではすごくポジティブなところはあった。ネガティブではなくて、今、出場できているところだったり、見つめ直す期間があって、今の自分があると思う。それは間違いなくポジティブだと思いますし、ここからそれを結果に出さないといけないと思ってます。

 前半戦にできなかったところをよりできるようにしないといけないなと思ってます。もっと、もっと上に行けるチームだと思うんで、 個人としてはもっとやらないといけないとはわかってますけど、期待してもらって、もうちょい頑張っていきたいなと思ってます」

 その力強いコメントに、25年の三笘がさらなる進化を遂げてくれると期待は膨らむばかりだ。

[取材・文:松澤浩三 Text by Kozo Matsuzawa]

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