西部謙司が考察 サッカースターのセオリー 第30回 クリス・ウッド&ブライアン・ムベウモ 日々進化する現代サッカーの厳しさのなかで、トップクラスの選手たちはどのように生き抜いているのか。サッカー戦術、プレー分析の第一人者、ライターの西部謙司…

西部謙司が考察 サッカースターのセオリー 
第30回 クリス・ウッド&ブライアン・ムベウモ

 日々進化する現代サッカーの厳しさのなかで、トップクラスの選手たちはどのように生き抜いているのか。サッカー戦術、プレー分析の第一人者、ライターの西部謙司氏が考察します。

 今回は、今季プレミアリーグでビッグクラブがなかなか勝てないという異変を起こしている、カウンターアタックのエースたちを紹介。ノッティンガム・フォレストのクリス・ウッドとブレントフォードのブライアン・ムベウモのプレースタイルに迫ります。

【プレミアリーグの異変】

 今季のプレミアリーグはいつもと違っている。第19節終了(1月1日)時点で首位はリバプール、2位がアーセナル。ここまではビッグクラブ同士の1、2位だが、3位にノッティンガム・フォレストが浮上した。


ノッティンガム・フォレストのクリス・ウッド(右)とブレントフォードのブライアン・ムベウモ(左)

 photo by Getty Images

 ノッティンガム・フォレストは1978-79、1979-80とチャンピオンズカップ(現在のUEFAチャンピオンズリーグ)を連覇した名門だが、1992-93シーズンに22位でプレミアリーグから降格。以来、昇格と降格を繰り返し、2022-23にプレミアリーグに復帰して3シーズン目になる。過去2シーズンは16位、17位。それがチェルシーを抜いて3位は驚きの好成績と言える。

 フォレストだけでなく、ボーンマスの7位、フラム8位も意外な好成績。チェルシーが4位に後退したのも第18節でフラム、第19節でイプスウィッチに連敗を喫したからで、ビッグクラブが"格下"に次々と食われる現象が起きているのだ。

 マンチェスター・シティ、アーセナル、チェルシー、リバプール、マンチェスター・ユナイテッドはプレミアのなかでも突出したメガクラブだ。豪華な陣容を擁し、ボールを保持して一方的に勝利するプレースタイルで押し通してきた。ところが、その戦い方が壁に突き当たっている。

 メガクラブのプレースタイルはそれぞれ違っているが、およそ可変を使ったビルドアップで相手を押し込む点は共通している。しかし、そのボールを支配するプレースタイルに耐性を持つチームが増えてきたのだ。メガクラブにとって、5バックでスペースを埋めて後退する相手を攻略するのが難しくなっている。

 籠城型の相手に対して、メガクラブはバイタルエリアに人数を投入して圧力をかける。ただ、密集した中央部を突破するのはかなり難しく、そうなると外へ回してウイングの突破力で勝負するのだが、そこはダブルチームで対処される。現在のウイングのほとんどは逆足のカットイン型なので、ダブルチームでカットインを消されると効果は激減する。

 かくしてメガクラブは攻めあぐむことが多くなり、そうこうしているうちにカウンターアタックを食らって敗戦というのが典型的なパターンになっているわけだ。

 メガクラブが現状を打破するには、ウイングの優位性が必要だ。モハメド・サラー、ルイス・ディアスを擁するリバプールが首位、ブカヨ・サカのいるアーセナルが2位なのは、サイドアタックの威力が決め手になっている表われである。シティとチェルシーは外の威力不足がネックになっている。

 ともあれ打開策が尽き欠けていて、可能性としてはフリーで敵陣に入れるセンターバック(CB)が攻撃面で力を発揮するか、「メッシ」を見出す、あるいは放り込みを活かせる圧倒的な高さがあるか。従来のやり方で堅陣を崩すのは難しく、新たなアプローチが必要になっているが、今のところ画期的な方法は見つかっていない。

【カウンターのエースたる理由】

 堅守とカウンターでメガクラブを脅かすチームにとって、必須になるのがカウンターの威力である。ボール奪取地点が低いので、そこからのカウンターを仕上げるにはひとりでやりきる力を持ったFWが必要だ。

 コール・パーマー(チェルシー)と並ぶ12得点でランキング3位のアレクサンデル・イサク(ニューカッスル)は、まさに単独でフィニッシュまで行けるタイプ。だが、フォレストのトップを張るクリス・ウッドはそこまで突破力に優れているわけではないものの、現在11得点で得点ランキングの5位。

 ニュージーランド生まれのウッドは33歳。2009年にウエスト・ブロムウィッチ・アルビオン(WBA)のアカデミーからプロ契約した後、6つのクラブへのローン移籍の後にレスターに移籍。さらにイプスウィッチ、リーズ、バーンリー、ニューカッスルを経てフォレストへたどり着いた苦労人。昨年10月には最多4ゴールでリーグ月間MVPに選出される大活躍だった。

 191㎝と大柄でガッシリした体格。シンプルで確実なプレーぶり。英国の古典的センターフォワードのタイプである。驚くような技巧はないかわりに、ロングボールをしっかり収め、あるいはカウンターの流れを止めないプレーができる。自陣に引いて守備を行ないながらカウンターで出ていく走力もある。周囲と連係しながらゴールに迫り、正確なフィニッシュで仕留める。

 パワーと高さが武器のストライカーは、昔のイングランドならどのチームにもいたものだ。しかし、ウッドをはじめ現代の190㎝級のFWはずっと走力があり、カウンター時にボールを拾える。

 そこまでできれば、彼らの重さが武器になる。メガクラブはボールを支配して押し込み、CBが敵陣の半分くらいまで上がってくるので、カウンターアタックは非常に効果的だ。ただ、カウンターされる側は危険であるがゆえにファウル覚悟で止めようとする。そこでコンタクトされても影響しない、多少のファウルでは止まらないFWは大きな脅威になるわけだ。

 ウッドは1対1で抜き去らなくても、ボールを失わないだけで上がりすぎていた相手にとっては即決定的なピンチにつながる。いくらうまくて速くても、ファウルで止められるならピンチは消せるが、そうでないFWは極めて厄介なのだ。

【メガクラブ打倒は夢ではない】

 ウッドと同じく11ゴールを叩き出しているブライアン・ムベウモ(ブレントフォード)も、カウンターのスターとして注目されている。

 ブレントフォードは第19節時点で12位と順位を落としているが、以前は上位に食い込んでいた。その旗頭がムベウモだ。

 フランス生まれの25歳。フランスのアンダー世代代表だったが、カメルーン代表を選んだ。171㎝と小柄ではあるが体格がよく、パワーとスピードに恵まれている。ウッドとは違ってウイングまたはセカンドトップのポジション。左利きで右サイドを主戦場とする技巧派だ。プレスを外してカウンターの流れを作り、さらにカットインからの左足のシュートがすばらしい。

 チャンスを作る、チャンスを決める能力が非常に高く、利き足は違うがアタランタのエースでナイジェリア代表のアデモラ・ルックマンにも劣らない欧州屈指の才能の持ち主だ。トリッキーなボールタッチ、ドリブル、パスでの打開力に優れ、カウンターでその威力を発揮している。

 ブレントフォードでは同じフランス生まれのヨアヌ・ウィサ(コンゴ民主共和国)と強力コンビを組む。この2トップも献身的な守備を見せ、引く時には自陣ペナルティーエリアの外まで下がって守る。そこから敵陣へ駆け上がって、フィニッシュへ持っていく走力があるのはウッドと同じ。

 現代のカウンター型チームにはこの手のアタッカーが必要で、その人材を得ているチームにとって打倒メガクラブは全く夢ではなくなっている。

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