スペイン・マドリッドで開催されている「ムトゥア マドリッド・オープン」(ATP1000/5月1~8日/賞金総額571万9660ユーロ/クレーコート)は5日、男子シングルス3回戦が行われ、第6シードの錦織圭(日清食品/6位)が、フランスの…
スペイン・マドリッドで開催されている「ムトゥア マドリッド・オープン」(ATP1000/5月1~8日/賞金総額571万9660ユーロ/クレーコート)は5日、男子シングルス3回戦が行われ、第6シードの錦織圭(日清食品/6位)が、フランスのリシャール・ガスケ(12位)を競り合いの末、6-4 7-5のストレートで下し、準々決勝に駒を進めた。 2008年の初対戦から、途中棄権した2015年パリ室内の対戦まで、ガスケとの過去の試合で6戦全敗だった錦織にとって、これは7度目の挑戦にして実った、初勝利ということになる。
錦織は6日に行われる準々決勝で、ニック・キリオス(オーストラリア/21位)と対戦する。キリオスは2回戦で第4シードのスタン・ワウリンカ(スイス)を破り、3回戦ではパブロ・クエバス(アルゼンチン/27位)を7-6(5) 4-6 6-3で下して準々決勝進出を決めた。錦織とキリオスの試合開始は、現地時間14時30分以降となる。 ◇ ◇ ◇ 試合の前日、錦織が過去6度の対戦で一度もガスケに勝ったことがない、という話が出たときに、あるフランスの記者はこう言った。 「こういう統計はそれほど意味を持たないよね。連勝や連敗の記録には、いつか終わりがくるものだから」 この日起こったのは、まさにその通りのことだった。 「やるべきことを明確にしてコートに入れば、勝つチャンスはある。特にメンタル面で、より強くある準備ができているようでなければいけない」と、いつになく気を引き締めていた錦織は、ガスケの最初のサービスゲームから、その決意を実行に移した。受け身に回りすぎた前試合の反省点を生かし、アグレッシブにストロークを打ち込んで、開始数分で15-40と、最初のブレークポイントを奪取。デュースに追いつかれたあとにも、バックハンドクロスでアドバンテージをつかむと、長いラリーの末にフォアハンドのストレートでエースを奪い、たちまちサービスブレークに成功した。 「今日、一番よかったのは、コート内に踏み込んで、どんどん打っていけたこと。彼に時間を与えない、というのが一番のテーマだった」と、錦織は後に明かしている。
「彼は、後方から高いボールを使ってくる選手。彼の好きなゲームスタイルにならないよう心掛けた。高いボールを打ってくることを予想していたが、その中でもしっかりコート内に入り、特にバックハンドのダウン・ザ・ラインなどで、バウンドの上がりばなを叩いていくことができ、それが効果的だったと思う」 ガスケのほうも、いいプレーをしていただけに、錦織が試合後、勝ちきった満足感を覚えたのも無理はない。試合が進むにつれ徐々に調子を上げたガスケは、バックハンドのエースやパッシングなど、いいショットが集中した第6ゲームにブレークバックに成功。しかし錦織も、フォア、バックの双方から思いきりよく叩き込むストロークでこの流れを押し返し、続くガスケのサービスゲームを直ちにブレークし返した。 実際、息をつける時間帯はあまりなかった。5-4からの錦織のサービスゲームでも、ブレークを狙うガスケが攻撃に出、息詰まるような打ち合いが続く。しかし錦織は、「下がってラリーしていては負けてしまう。1セット目の終わりや、最後の何ゲームでは、彼のペースになりかけていたが、そこでもしっかり踏ん張ってプレーすることができた」と後に振り返ったとおり、厳しいラリーに食らいつくと、最後はフォアハンドを叩いて相手のミスを誘い、第1セットをもぎ取った。 第2セットに入っても、錦織のハイテンポの攻めの姿勢は変わらず。この日冴えた、フォアハンドの逆クロスを叩き込んで第3ゲームをブレークし、続く自分のサービスゲームでは、深いストローク戦のあとにドロップショットでエースを奪うなど、テクニシャンと名高いガスケ顔負けのプレーで、会場をどよめかせた。 唯一、奇妙な空気が流れたのは、第2セット5-4からの自分のサービスゲームで、40-15とマッチポイントを迎えた錦織が、攻めながら4本連続のアンフォーストエラーをおかし、ガスケにゲームを献上してしまったときだろう。 ガスケは試合後、「実際、5-4から彼がミスを連発したゲームは奇妙だった。僕がいつも彼に勝っていたから、もしかしたらそのことが頭に浮かんだのかもしれない。あの試合の終わりを除けば、彼は終始、非常にいいプレーをしていた」と言っている。もっとも錦織本人は、その推測を否定。「試合の前には、また彼のペースになってしまったらどうしよう、という考えが過った瞬間もあった」と言うが、前述のゲームに関しては、「あのときは、やや焦りが出ただけ。風も多少はあったし、少し攻め急いで、ミスが相次いでしまった」と説明していた。 実際、それで崩れることなく、次のゲームで解放されたようにフォアハンドのエースを連発した錦織は、直ちにブレークバックに成功。6-5からの最終ゲームでは、ガスケが逆にブレークポイントを握る場面もあったが、最後は、錦織のバックハンドクロスに押されたガスケのショットがラインを割り、息詰まる競り合いについに終止符が打たれた。
試合後の錦織(左)とガスケ 「タイブレークに持ち込んでいたら、どうなっていたかわからない」と言うガスケの言い分は、おそらく単なる強がりではないだろう。それは、一つ間違えばどう転ぶかわからなかった、非常に拮抗した好試合だった。しかしガスケはまた、「結局のところ、そこを落とさなかった今日の彼は、僕より上だった。僕自身、プレーは悪くなく、実際かなりいいプレーをしたと思うが、今日の彼は本当に強かった」と率直に錦織を称えた。 大会が始まってから多くの選手が、会場の標高が高いため、ボールが飛ぶことについて言及していたが、ガスケはまた、「標高のせいでボールが速く飛ぶこの会場は、おそらく彼に合っている。彼のショットは本当に速く、彼はいつも以上にいいプレーをしていたように思う」とも指摘。自分の連勝記録が終わったことについては、「連勝記録はいつか終わるというのは、普通のことだよ。なんたって、彼は世界6位なんだからね」と話した。 一方、錦織は「厳しい試合だったが、しっかり心の準備をし、いい試合ができた。6回連続で負けていたのなら、何かを変えなければならない。今日はフォアハンドを多く使い、アグレッシブにプレーし、いいテニスができたと思う。やはり、ずっと勝てなかった選手に勝てたのはうれしい」と満足感を吐露。「今日の試合は、以前の何回かの対戦と展開が大きく違った。自分が強くなっているのを感じられる瞬間だった」と、最大級の手ごたえを口にした。
(テニスマガジン/ライター◎木村かや子、構成◎編集部)