2024年の最後の日曜日に、女子プロサッカーWEリーグのカップ戦、クラシエカップの決勝が行われた。結果、サンフレッチェ広島レジーナが連覇を果たしたが、サッカージャーナリスト後藤健生はこの一戦に、日本の女子サッカーの「未来」を見た! ■ダメ…
■ダメ押しの2点目で「完勝だった」
結局、INAC神戸レオネッサのほうが我慢できずに、戦い方を変えざるをえなくなった。
3バックでウィングバックを使った攻めを諦めて、前半の最後の時間帯には4バックに変更。中盤でのポゼッション率を上げることで中央からの攻めに切り替え、さらにハーフタイムの交代を使ってシャドーストライカーだった成宮唯をボランチの位置に下げて、さらにポゼッションを高め、その後は高瀬愛実やヴィアン・サンプソンといったパワーのある選手を前線に入れて、最後はロングボール主体の攻撃に切り替える(I神戸のジョルディ・フェロン監督は、試合途中でメンバーやシステムを変更することを厭わない指導者だ)。
しかし、相手の変更に対しても、おそらく事前に想定済みだったのだろう。サンフレッチェ広島レジーナは慌てることなく対処。相手が中央攻撃に切り替えたのを見て、吉田監督は56分にDFの中村楓を投入して3バック(5バック)に切り替えて、しのぎ切った。
I神戸がパワープレーをしかけてきたアディショナルタイムの92分には、広島の高橋美夕紀からのロングボールを収めた上野がゴール前まで持ち込み、左でフリーになっていた渡邊真衣にパスを通した場面があったが、あの場面でダメ押しの2点目を決めていれば、まさに広島の完勝だった。
■プロの看板がもたらした「もの」
もちろん、チーム力としてI神戸のほうが上であったことは誰の目にも明らかだ。だが、それでも相手チームがしっかりと抵抗できるのがWEリーグのサッカーなのだ。
かつて、なでしこリーグが日本のトップリーグだった時代、「3強」と対戦する他のチームは「3強」に対してリスペクトしすぎていた。最初から引いて守るか、強い抵抗を示すこともできないまま、敗れさるような試合も多かった。
だが、WEリーグが発足し、「プロ」の看板を背負って結果を求めてプレーするようになった結果、「3強」と対戦するチームも戦術を工夫したり、ハードワークすることで、なんとか一泡吹かせようと必死の抵抗を見せることが多くなった。
WEリーグ発足によって、日本の女子サッカーで変化したことのひとつだ。
広島が、格上のI神戸相手に戦術的な守備で対抗し、前線のハードワークで少ないチャンスをものにして勝利したのは、そんなWEリーグ時代の女子サッカーを象徴するような試合だった。
昨シーズンはリーグ戦で5位に入り、リーグカップで初タイトルを獲得した広島。今シーズンはリーグ戦では11節を終えた時点で4位。そして、リーグカップ(クラシエカップ)で連覇を達成。
広島という、WEリーグ発足に当たって新たに立ち上げられたチームが、「3強」を脅かす地位をつかんだことは間違いないようである。
今後は、タイトルを獲得した自信を背景に、少しでも個人能力の面でも上位の「3強」に迫っていってもらいたいものである。
■背景にある「球技専用スタジアム」開場
サンフレッチェ広島レジーナは、もちろんJリーグのサンフレッチェ広島が立ち上げた女子チームだ。
2024年シーズンの男子の広島は、ミヒャエル・スキッベ監督の下で素晴らしい攻撃サッカーを披露したものの、J1リーグでは準優勝。天皇杯全日本選手権とYBCルヴァンカップではともに準々決勝敗退と無冠に終わった。その広島に、女子チーム(レジーナ)がタイトルをもたらしたのだ。
男子ではJ1リーグでヴィッセル神戸が優勝し、広島が準優勝。天皇杯でもV神戸が優勝し、ガンバ大阪が準優勝。2024年はすっかり西日本優位のシーズンとなった(その結果、2025-26シーズンのACLは、リーグ戦3位のFC町田ゼルビアを除いて、西日本勢が3チーム出場することになった)。
東京都や神奈川県のチームが多数を占め、また成績面でも川崎フロンターレや横浜F・マリノスがリードしていたJリーグだが、ここへきて西日本勢の台頭が著しい。西日本には広島のピースウイングや長崎のスタジアムシティのような近代的な球技専用スタジアムが相次いで開場したが、それも西日本勢台頭の背景にある。
築25年以上の古い、しかも陸上競技トラック付きのスタジアムが主流の東日本に比べて、施設面でも西日本のほうが進んでいる。
そして、今回、広島レジーナがタイトルを獲得したことによって、女子サッカーの世界でも西日本勢が台頭するきっかけになるかもしれないのだ。3月に再開されるリーグ戦後半(第12節~22節)に注目したい。