創価大・吉田(左)と青学大・黒田は箱根2区歴代記録でそれぞれ日本人1位、2位の走りを見せた photo by Kishimoto Tsutomu第101回箱根駅伝は1月2日の往路スタートから波乱の展開となった。優勝候補の國學院大、駒澤大、青…
創価大・吉田(左)と青学大・黒田は箱根2区歴代記録でそれぞれ日本人1位、2位の走りを見せた
photo by Kishimoto Tsutomu
第101回箱根駅伝は1月2日の往路スタートから波乱の展開となった。優勝候補の國學院大、駒澤大、青山学院大を抑えてダークホースの中央大が1区スタート直後から独走すると、エースが集う花の2区でも想定外の結果が待っていた。東京国際大のケニア人留学生リチャード・エティーリ、創価大の吉田響、青山学院大の黒田朝日の3人が1時間5分台の区間新記録。ハイレベルな争いとなった2区の勝敗を分けたそれぞれのレースプランとは――。
【ヴィンセント超えを果たした吉田響と黒田朝日】
2区のフィニッシュ地点となる戸塚中継所では、どよめきが起きた。区間新記録となる1時間05分31秒のエティーリ(2年)に続き、青山学院大の黒田朝日(3年)、創価大の吉田響(4年)もこれまでの区間記録を更新したからだ。
創価大の吉田響(4年)は、鶴見中継所では17位で赤と青のタスキを受け取った。そこから初めての2区で衝撃の13人抜き。前半10kmまでは、ずっと我慢していたという。「なかなか前の集団を追えずに(精神的に)苦しかった」。それでも、権太坂手前の13km付近から徐々にペースアップし、次から次に前の背中を捉えていく。
「少しずつ前の選手を回収して走ることができたので、それがモチベーションになりました」
15km以降は後半勝負を目論んでいた吉田の理想通りの展開。3強の一角である國學院大の平林清澄(4年)をつかまえ、21km過ぎでは駒澤大の篠原倖太朗(4年)まで抜いた。ラスト3kmから表情をゆがめて動きが鈍くなる他大学のエースが多くいるなか、すいすいと"戸塚の壁"を上り、4位まで浮上した。
タイムも圧巻だった。東洋大の相澤晃(現・旭化成)が持つ日本人最高タイムの1時間05分57秒だけではなく、東京国際大のイェゴン・ヴィンセント(現・Honda)が2021年(第97回大会)に記録した1時間05分49秒も上回る1時間05分43秒をマーク。歴史的な快挙を成し遂げた本人はタイムを聞かされると、少しだけ口元を緩めた。
「区間新を樹立して、日本人トップを取れてほっとしています」
ただ、心から満足はしているわけではない。落ち着いた顔に戻り、すぐに言葉をつけ足した。
「僕の仕事は先頭まで順位を押し上げることでした。エティーリ選手はさらに強くて区間賞を獲得できなかったので、そこは悔しいですね」
過去2度走っている"山区間"へのこだわりも強かった。12月中旬までは2区と5区で思い悩んでいた。最終的に榎木和貴監督と相談し、チームのためにエース区間を走ることを決断。レース後には正直に複雑な思いを口にした。
「"山の神"になれなかったのは悔しいです。5区で区間新を出して優勝に貢献したかったのですが、自分の気持ちを押し殺しました。チームを勝たせるため、チームのみんなで笑うために2区で走りました」
一方、清々しい表情で取材対応していたのは、同じく区間新の1時間05分44秒をマークした青学大の黒田だった。前回大会2区で区間賞を獲得している3年生エースは、冷静にレースプランを遂行していた。10位でタスキを受けても焦ることはなく、吉田響が後ろから迫ってきても、最後まで自分の走りを崩さなかったという。
「順位は意識していなかったですし、誰が来ても、自分の走りに徹するだけでした。権太坂に入るまでは、前との差も詰まらないと思っていたので。それ以降、ペースアップできたので、まったく問題なかったかなと。
今年度はエースと呼ばれるようになり、この区間で自分の責任を果たすことを考えていました。日本人トップで走れなかったのは少し残念ですが、吉田響さんのタイムは来年、超えればいい。僕はまだ3年生なので」
前回の100回大会に続き、7人を抜いて3位までチームを浮上させた働きぶりには、貫禄が漂っていた。役割をしっかり果たし、後続への信頼も言葉にしていた。
「3区以降は強い4年生たちがそろっているので、トップまで駆け上がってくれると思います」
前回王者の自信を垣間見た約3時間後。5区の若林宏樹(4年)が、両手を広げて芦ノ湖で往路優勝のフィニッシュテープを切っていた。
東国大・エティーリは先輩のイェゴン・ヴィンセント(現・Honda)の区間記録を塗り替え区間賞を獲得
photo by Nakamura Hiroyuki
【力を出しきった駒大・篠原、悔しさ残る國學院大・平林】
初の2区出走で区間4位の走りを見せた駒大・篠原
photo by Kishimoto Tsutomu
青学大とともに3強に挙げられた駒澤大と國學院大は、2区で後れを取ってしまった。
2位でタスキを受けた駒澤大の篠原は前半、当初の予定どおり2分50秒ペースでラップを刻んでいた。途中まで東京国際大のエティーリと並走する形になったのは偶然だという。権田坂の下りからケニア人留学生が飛び出しても、さほど気に留めなかった。
「もうちょっとついていったほうがよかったかもと思う反面、自分のラストの止まり具合を見ると、あれでよかったのなと」
驚いたのは、青学大の黒田と創価大の吉田の追い上げ。沿道の応援で後ろから迫ってきている気配を感じていたものの、横に姿を見せたときはさすがに目を丸くした。
「あのタイム差(鶴見中継所で青学大と12秒差)で追いつかれるとは思っていなかったので。黒田くん、吉田響も強かったです。圧倒的な力があれば、2区の適性なんて関係ないと思って臨みましたが、あのふたりの走りを見ていると、適性がないと勝てないと思いました」
ハーフマラソンで日本学生歴代1位の記録を持つ大学陸上界のトップランナーも、初めて挑んだ2区の難所"戸塚の急坂"には、予想以上に苦戦を強いられたようだ。
「(ラスト3kmの)あれは壁でしたね。手を使って上りたくなるよう感じ。20km以上走ってからの壁はきつかったです」
最初で最後の2区は区間4位でまとめ、タイムは1時間06分14秒。数字は決して悪くはないものの、5位までチーム順位を落としたのは納得できなかった。
「勝負として考えれば、もうちょっとでしたね」
戸塚の待機テントで誰より悔しさを露わにしていたのは、3年連続2区で出走した國學院大の平林。チーム順位を6位から8位に下げたことに加え、区間8位となる1時間06分38秒のタイムも受け入れがたいものだった。出雲駅伝、全日本大学駅伝に続き、三冠を狙う大黒柱は、地べたにぐったり腰を下ろすと、表情をゆがめたまま率直な思いを吐露した。
「チームに対して、申し訳ない結果でした。(運営管理車に乗る前田康弘)監督からは『ここで負ければ悔いが残るぞ。ラスト、頑張れ』と言われたのですが、なかなかうまくいかなかった。区間順位、レース展開ともに悔いが残るものになりました」
ハイペースで突っ込む選手たちにペース配分を惑わされ、後半にまさかのスタミナ切れ。マラソンの日本学生記録を持つエースは、自らの走りに怒りを覚えているようだった。
「(エティーリらの)留学生たちについていって、いきすぎたのかなと。権太坂(14km手前)から上げるつもりでしたが、上がりきらなかった。一度離れて、後半勝負でもよかったのですが、調子がよかったので......。
悔しいかぎりです。準備は問題なかった。自分の実力が足りなかったと思います」
3強の明暗が大きく分かれた2区。流れを引き寄せた青学大は往路優勝を果たし、4位の駒澤大に3分16秒差、6位の國學院大とは5分25秒差をつけた。2位の中央大とも1分47秒差。前回大会は往路終了時点で2位と2分38秒差をつけ、復路も首位のまま総合優勝を果たしている。果たして、得意の独走態勢に入った前回王者を止めることはできるのか--。
國學院大・平林は3年連続の2区出走だったが、区間8位と悔しい結果に終わった
photo by Kishimoto Tsutomu