◆ジャパンC・G1(11月28日、東京・芝2400メートル、18頭立て=良) カクテルライトのなかを静かに進むオーギュストロダンを眺め、私は寂寥(せきりょう)感に包まれていた。夢見心地の1週間が終わった。月曜日から7日間、東京競馬場に通い外…
◆ジャパンC・G1(11月28日、東京・芝2400メートル、18頭立て=良)
カクテルライトのなかを静かに進むオーギュストロダンを眺め、私は寂寥(せきりょう)感に包まれていた。夢見心地の1週間が終わった。月曜日から7日間、東京競馬場に通い外国馬を取材。世界最高のトレーナー、エイダン・オブライエン調教師と握手を交わし、青春時代のヒーロー、クリストフ・スミヨン騎手に質問をぶつけた。20年近くにわたる私の競馬物語はクライマックスを迎えた。
日本競馬史にとっても、オーギュストロダンほどの馬が来日するのは“事件”と言って良かった。少なくとも21世紀に入ってからは。ディープインパクトのラストクロップを巡る熱狂は連日メディアをにぎわせ、ファンの口をなめらかにした。もしかして、いや確実に、まさかそんな…。前年、史上最強馬イクイノックスが導いたワールドベストレース。世界の芝中距離戦線でナンバーワンという日本競馬の栄誉は、200年以上の伝統を持つアイルランド近代競馬の怪物によって奪い去られようとしていた。
しかし、迎え撃った日本総大将ドウデュースの走りは圧巻だった。4角から抑えきれない手応えで急加速。直線入り口ではオーギュストロダンを相手にすることなく一瞬で交わし、そのままゴールまで突き抜けた。武豊騎手は小さくガッツポーズ。大げさに喜びを表現しないその姿は余裕と貫禄を示す、まさに千両役者のたたずまいだった。
レース後にはイチロー氏によるトークショーが開催された。パドックの入り口で私の目の前を野球界のレジェンドが横切った瞬間、自然と涙がこぼれた。そして気がついた。祝祭だったのだ。第44回ジャパンCは競馬を、スポーツを、エンターテインメントを、人生を祝福する光だったのだ。
祭りの後はもの悲しい気持ちになる。だが、競馬も人生も続いていく。また今日もサラブレッドは全速力で駆け抜ける。巻き起こす風は次の感動を呼び寄せる。あの強烈な光は、再び静かにまたたき始めている。(中央競馬担当・角田 晨)