いまだ敵なしの強さを誇り、「ネクストモンスター」の呼び声もある中谷。(C)Takamoto TOKUHARA/CoCoKARAnext“日本史上最大級のスーパーファイト”は実現するのはいつか「相手は全勝なので、何か特…

 

いまだ敵なしの強さを誇り、「ネクストモンスター」の呼び声もある中谷。(C)Takamoto TOKUHARA/CoCoKARAnext

 

“日本史上最大級のスーパーファイト”は実現するのはいつか

「相手は全勝なので、何か特別なものを持っていると思ってしっかり対策をして、クエジャル選手に向けて整えていきたい。KOはバンタム級に上がってからも特に意識している部分。そういう場面をお見せできるように頑張っていきたいと思っています」

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 次戦が決まった3階級制覇王者で、現WBC世界バンタム級王者の中谷潤人(M・T)は、12月27日の発表会見でも自信に満ちた表情でそう語った。

 来年2月24日、有明アリーナで行われる防衛戦の相手は、ダビド・クエジャル(メキシコ)。23歳にして28戦全勝18KOのキャリアを積み上げてきたメキシコの難敵だが、それでも29戦全勝22KOの中谷が断然優位という下馬評は揺るがないと見るのが妥当だろう。

 米老舗誌『The Ring Magazine』のパウンド・フォー・パウンド(PFP)でも9位にランクされている中谷の評価は上昇の一途をたどっている。2024年は同ランキングのトップ10に入る選手の中では唯一3戦をこなして全勝、全KO。最近はより分かりやすい形での破壊的なKOを演出するようにもなり、26歳にして絶対王者らしい貫禄を漂わせるようにもなった。

「パウンド・フォー・パウンド1位になりたい」

 そんな目標を語るようにもなった中谷は、クエジャル戦を無事にクリアすれば、統一戦路線に乗り出す可能性が高い。日本でも現スーパーバンタム級4団体統一王者の井上尚弥(大橋)に次ぐ存在として確立されたサウスポーは、キャリアの収穫期に入ったと言って良い。

 将来的なPFP1位への道はもちろん容易ではない。だが、筆者はいずれ中谷がその座につく可能性は十分にあると考えている。おそらく全盛期に入るよりも前に3階級制覇、PFPトップ10入りを果たしたサウスポーにはそれだけのポテンシャルがあるように思えるからだ。

 当面、PFPトップに近づく最善、最短の道は、“モンスター”と対戦し、勝利を収めるか、互角に戦う姿を見せることに違いない。すでに4階級制覇を果たし、28戦全勝(25KO)という完璧な戦績を残してきた井上は、現在『Ring Magazine』のPFPランキングで2位につける。来年1月24日に延期されたサム・グッドマン(豪州)戦のあと、アラン・ピカソ(メキシコ)、ムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン)らと対戦しても優位と目されるはずで、しばらくPFP上位を保つ可能性は高い。

 この最強王者と中谷の激突の機運が徐々に高まってきている。

「(井上戦は)タイミングだと思っています。まずやるべきことをしっかりやっていって、そこにつながっていけばいいかなという気持ちです」

 普段は謙虚な中谷も井上との対戦希望はかなり以前から明言。9月の防衛戦前にも改めてそう述べていた。井上陣営、そして井上のアメリカでのプロモーターである『Top Rank』もこのマッチメイクに異存はない様子だ。今後、井上が勝ち続け、中谷も初の統一戦を制すれば、直接対決を待望する声はさらに増えていく。そうして順調にいけば、2026年初頭にも“日本史上最大級のスーパーファイト”は実現するのではないか。

 その頃、井上は32~33歳、中谷は28歳になっている。その時点での両雄の戦力を予測するのは難しいが、依然として“井上が上位”と目されるも、“中谷にも勝機あり”といった予想が増えていることは想像に難くない。

 

現在PFP1位の座を世界の猛者と争う井上。そんなモンスターとの対峙が中谷は期待される。(C)Lemino/SECOND CAREER

 

「ドリームファイト」も無謀だとは感じられず

 ファン垂涎の一戦で、通称“愛の拳士”が先輩チャンピオンを下すようなことがあれば、一挙に世界的なビッグネームの仲間入りを果たす。PFPでトップ3に入っても不思議はない。そこまで辿り着けば、夢のPFP1位も現実味を帯びてくる。

 もっとも、これもあくまで筆者の個人的な意見だが、井上戦が何らかの理由で行われないか、あるいは敗れても、中谷には依然としていつか世界トップの評価を得るチャンスがあると見ている。

 中谷は、まだ26歳で、伸びしろも多い。身長172センチ、リーチ176センチというかつてフライ級で戦っていたとは信じられないような体躯を持っており、階級を上げるたびに強くなっている印象がある。

 まだまだ発展途上であり、それでいて現在地まで辿り着いたことが驚異。本人は「スーパーフェザー級くらいまでいけたらと。骨格的にはいけるんじゃないかと思っています」と語っており、より上の階級への昇級は十分に可能だろう。単に“上の階級でも戦える”という話ではなく、中谷の場合、“ピークを迎える”のがフェザー、スーパーフェザー級だったとしても驚きではない。

 世界的なビッグネームになった井上に対しては、いわゆる「冒険ファイト」を望む声は消えない。スーパーフェザー級からの3階級制覇王者であり、現在はWBA世界ライト級王座を保持するジャーボンテ・デービス(米国)への挑戦を希望する声が特に海外で多いのはボクシングファンならご存知の通り。井上のもともとの骨格を考えれば、それは現実的ではなく、もはや話題になるべきだとも思わない。

 ただ、中谷に関して言えば、そういったドリームファイトがそこまで無謀だとは感じられない。現状では4階級も上で戦い、30戦全勝28KOという完璧な戦績の“タンク”・デービスとの対戦がいつか話題になる位置まで上がっていくのは想像できないことではない。あり得るとしても数年後だけに、少々無責任な物言いではあることは承知の上。“次の怪物(ネクスト・モンスター)”といった呼称が失礼なほどの成長度を誇示している中谷には、それだけの可能性が見えているということだ。

 日本史上の「最高傑作」である井上に続き、同じくワールドトップクラスの素材が出てきたことを同世代の私たちは喜ぶべきだ。中谷が期待通りに成長を続ければ、日本ボクシングの隆盛も継続する。

 その行く手に、さらに楽しみな未来がうっすらと見えてくる。

[取材・文:杉浦大介]

 

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