2年連続5位に終わった東京ヤクルトスワローズ。球団OBの五十嵐亮太氏、そして大のヤクルトファンで、『12球団ファンクラブ全部に20年間入会してみた!』の作者で、世界唯一の「12球団ファンクラブ評論家」の肩書きを持つ長谷川晶一氏に24年シー…

 2年連続5位に終わった東京ヤクルトスワローズ。球団OBの五十嵐亮太氏、そして大のヤクルトファンで、『12球団ファンクラブ全部に20年間入会してみた!』の作者で、世界唯一の「12球団ファンクラブ評論家」の肩書きを持つ長谷川晶一氏に24年シーズンの反省、そして25年の再生について語ってもらった。



トークイベントでスワローズについて語り合う五十嵐亮太氏(写真左)と長谷川晶一氏

【敗因はクローザー不在に尽きる】

長谷川 24年シーズンは故障者も多く、最初から最後までベストオーダーを組めないまま終わってしまった印象があります。五十嵐さんは「24年の敗因と反省点」はどこにあると思いますか?

五十嵐 誰もが指摘する通り、最大の要因は「投手陣のコマ不足」ですよね。先発ピッチャーももちろんそうなんだけど、僕としては「抑えが固定できなかったこと」が一番大きな理由だと思います。開幕戦で田口麗斗がいきなり離脱してしまった。その時点ですでに、苦しく厳しい戦いを余儀なくされましたからね。

長谷川 いろいろな投手が日替わりでクローザーをまかされ、シーズン終盤でようやく小澤怜史投手に抑えとしてのメドが立った印象でした。シーズン中、定期的に高津臣吾監督にインタビューをしているんですけど、今季は最初から最後まで「クローザーが固定できない」という話題が出ましたね。

五十嵐 チームとしても、高津監督としても、もちろん「クローザー不在」が最大の課題であることを理解していたから、このオフに守護神候補としてマイク・バウマンを獲得したわけですからね。リリーフとしての実績はあるし、メジャー5球団でプレーしていること、まだ29歳と若いことなど、いい補強をしたと思います。

長谷川 獲得に当たった奥村政之国際グループ担当部長も、「うちには田口や小澤がいるけれど、バウマンもそこで競争させる」と明言しているし、25年こそ「クローザー不在」という異常事態は回避されるんじゃないですかね。

五十嵐 クローザーが確定すれば、その他の中継ぎ陣は充実していますからね。今季、大活躍してオールスターゲームにも選ばれた大西広樹を筆頭に、木澤尚文も年々、成長しているし、今季は本調子じゃなかった清水昇もいる。他にも質量ともにそろっているので、その点はあまり心配ないんじゃないですかね。僕は、大西はもちろん、木澤に期待しています。

【勝利の方程式の整備で希望の光が】

長谷川 仮にですけど、「7回・大西、8回・清水、9回・バウマン」となると、小澤投手を先発に回すこともできるし、今年大活躍した山本大貴投手、そろそろ結果が求められる長谷川宙輝投手、そこに田口投手も加わって、「左投手不足問題」も解消されますね。五十嵐さんが、木澤投手に期待するのはどうしてですか?

五十嵐 先日、伊藤智仁ピッチングコーチと食事をした時に、木澤の能力の高さについての話題になりました。彼は同点、もしくはビハインドの場面では圧倒的な実力を見せることができる。本人としては、「もっといい場面で投げたい」という思いも強いと思います。でも、同点、あるいは1点負けている場面で誰にまかせるかというのは、じつはチームにとってはかなり重要な役割なんです。

長谷川 五十嵐さんがヤクルトに復帰した2019年もそうでしたけど、同点の場面でしっかり抑えることで、チームが点を挙げて白星が転がり込むことも多いですからね。あの年の五十嵐さんはセットアッパーとして、4月だけで5勝もマークしましたからね。

五十嵐 そう、まさにその役割を木澤に託すことができれば、チームはますますラクになりますよ。僕の場合、ヤクルトに復帰した19年もそうだったし、1990年代に「セ・リーグ10勝一番乗り」になったときも、全部中継ぎだった。歯車が噛み合っているときは、不思議とそういう流れになるんですよね。

長谷川 さすが「勝利の女神が惚れる男」だ!

五十嵐 やめてくださいよ。もう、誰も覚えていないんだから(笑)。あの頃、ファンの公募で「五十嵐選手にニックネームをつけましょう」というイベントがあって、それで決まったのが、「勝利の女神が惚れる男」だったんだけど、ぜひ木澤にもそういう役割を期待したい。もちろんさっきも言ったように、本人としては「もっといい場面で投げたい」という思いを持ちつつ、そういう役割もこなせるようになってほしいという思いはありますね。

長谷川 「勝利の方程式」が整備されると、文字通り、グッと勝利が近づきますよね。そうなると、次のステップとして、先発投手の整備が問題になりますね。ローテーションの中心となるのが吉村貢司郎投手。プロ3年目を迎える25年は、大黒柱としての活躍が期待されるし、それも十分可能だと思います。

五十嵐 まだ実際のピッチングは見ていないけど、ドラフト1位ルーキーの中村優斗には期待できると思いますよ。そして、サイスニード、ヤフーレをリリースしてまで獲得したピーター・ランバートも先発で使うだろうから、25年シーズンは先発陣がガラッと変わることになります。その点は希望を持っていいんじゃないのかな? そこに、いよいよ奥川恭伸が本格復帰を果たしそうだし、そろそろ山野太一も出てきそうなムードがある。今年よりはずっと希望が持てると思います。


五十嵐亮太氏が復活を期待するヤクルト山田哲人

 photo by Koike Yoshihiro

【プロ15年目、山田哲人の奮起に期待】

長谷川 打撃陣に関しては、村上宗隆選手の日本最終年、そしてホセ・オスナ、ドミンゴ・サンタナ両外国人選手の3年契約初年度となります。ここに、24年に大ブレイクした長岡秀樹選手が加わります。僕としては、3年目を迎える澤井簾選手の台頭に期待したいです。

五十嵐 僕の注目選手は何と言っても、山田哲人。来年は33歳でしょ? まだまだ全然老け込む年齢じゃない。僕の持論ですけど、山田って、打席に立って、打つ直前にバットを「ピン!」って立てるじゃないですか。あれが、ここ数年、ちょっと緩いんですよ。もっと「パチン!」といかないとダメなんです。あれで彼のテンションがわかるんです。最近はどうも元気がないというか、「どこか悪いのかな?」みたいに見えてしまう。来年はビシッと構える山田が見たい。

長谷川 今年限りで青木宣親選手が引退しました。僕は、自分の想像以上に心に大きな穴が開いたような喪失感があります。個人的には、これまでずっと歴代選手では若松勉さんがナンバーワンだったんですけど、ひょっとしたら青木さんが歴代トップに躍り出たような気がします。チームメイトにとっても、「青木の不在」はとても大きい気がしますね。

五十嵐 ついに、あの若松さんを超えましたか! それは一大事だ(笑)。もちろん、山田や村上にとっても、ノリ(青木)が抜けたことは大きいと思うけど、チームというのは、そういう新陳代謝を繰り返しながら進んでいくものだし、選手たちも、偉大な先輩がチームを去ったことで、残された者が責任を自覚して成長していくもの。だから大丈夫です。

長谷川 そう考えたら、野手最年長の川端慎吾選手も、今までとはまた違った責任が芽生えるだろうし、キャプテンの山田選手も彼なりのキャプテンシーを発揮するだろうし、村上選手も、自分よりも年下の長岡、内山壮真選手らに対して、先輩らしい振る舞いを見せるようになっていますよね。青木さんの引退は寂しいけど、五十嵐さんの言うように、そうやって後輩たちも成長していくんでしょうね。

五十嵐 まだキャンプ前だけど、フロントは着々といい補強をしているし、2年連続悔しい思いをしているからこそ、選手たちも目の色を変えることだと思いますよ。

長谷川 就任6年目となる高津監督も1年契約、背水の陣で臨みます。この2年間のストレスを一気に解消できるような気持ちのいいシーズンになることを期待したいです。

五十嵐亮太(いがらし・りょうた)/1979年5月28日、北海道生まれ。千葉・敬愛学園から97年ドラフト2位でヤクルトに入団。プロ2年目の99年にリリーフとして頭角を現し、一軍に定着。04年はクローザーとして37セーブを挙げ、最優秀救援投手賞のタイトルを獲得。09年オフにメジャー挑戦を表明し、メッツと契約。12年はブルージェイズ、ヤンキースでプレーし、13年にソフトバンクと契約し日本球界復帰。18年オフに戦力外となるも、ヤクルトと契約。19年は45試合に登板したが、20年10月に現役引退を表明。現在は解説者として活躍している。

長谷川晶一(はせがわ・しょういち)/1970年5月13日生まれ。早稲田大学商学部卒。出版社勤務を経て2003年にノンフィクションライターとなり、主に野球を中心に活動を続ける。05年よりプロ野球12球団すべてのファンクラブに入会し続ける、世界でただひとりの「12球団ファンクラブ評論家(R)」。主な著書に、『詰むや、詰まざるや 森・西武 vs 野村・ヤクルトの2年間 完全版』(双葉文庫)、『基本は、真っ直ぐ──石川雅規42歳の肖像』(ベースボール・マガジン社)、『いつも、気づけば神宮に 東京ヤクルトスワローズ「9つの系譜」』(集英社)、『中野ブロードウェイ物語』(亜紀書房)、『名将前夜 生涯一監督・野村克也の原点』(KADOKAWA)ほか多数。近刊は『大阪偕星学園キムチ部 素人高校生が漬物で全国制覇した成長の記録』(KADOKAWA)。日本文藝家協会会員。