2024シーズンF1総括10大ニュース(前編) 史上最多24戦のカレンダーで幕を開けた2024シーズンのF1は、バーレーンを皮切りに世界各国を9カ月間かけて転戦し、最後はアブダビで閉幕した。 1950年に始まり、75回目を迎えた2024年の…

2024シーズンF1総括10大ニュース(前編)

 史上最多24戦のカレンダーで幕を開けた2024シーズンのF1は、バーレーンを皮切りに世界各国を9カ月間かけて転戦し、最後はアブダビで閉幕した。

 1950年に始まり、75回目を迎えた2024年のF1世界選手権は、各地でどんなドラマを生んだのか。2009年からF1を現地で全戦取材するジャーナリスト・米家峰起氏に2024シーズンのトピックスを10点、ピックアップしてもらった。

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シーズン後半のマクラーレンのマシンは間違いなく最速だった

 photo by BOOZY

(1)フェルスタッペン「4年連続」ドライバーズ王座獲得

 2024年のドライバーズタイトルは、大方の予想どおりマックス・フェルスタッペン(レッドブル)が獲得した。2021年の初戴冠から4年連続4度目の王座獲得を果たし、アラン・プロストとセバスチャン・ベッテルの記録に並んだ。

 しかし、これほどまでに厳しいタイトル争いになるとは、誰が予想しただろうか。

 開幕から10戦7勝を挙げて、今年もレッドブルとフェルスタッペンの快進撃が続くと思われた。だが、シーズン中盤から開発によるマシン挙動の悪化とライバルの追い上げが進み、レッドブルは大混戦のなかで競争力を失った。雨の第21戦サンパウロGPで復活勝利を挙げるまで、第11戦オーストリアGPから実に10戦もの間、勝利から遠ざかることになってしまった。

 その間にランド・ノリス(マクラーレン)が台頭し、シャルル・ルクレール(フェラーリ)も好走を見せ、一時は「今年のタイトル獲得は現実的ではない」と弱気な姿勢を見せる場面すらあった。第19戦アメリカGPや第20戦メキシコシティGPでは、ノリスとのバトルにおけるドライビングに対して厳しい目が向けられ、ルール改定を巡って孤立することもあった。

 しかしその苦境のなかでこそ、フェルスタッペンのドライバーとしての腕が光った。特に雨のサンパウロでのドライビングとコンディション変化を読みきった戦略は、まさしくチャンピオンズドライブだった。

 中盤戦以降のレッドブルRB20は、サーキットによっては4番目のマシンでしかなかった。だが、チームはグラム単位の軽量化や冷却口を塞いで空力効率をわずかでも上げるなど、重箱の隅を突くような地道な改良を続け、0.01秒単位のゲインを積み重ねていった。

 フェルスタッペン自身も着実にポイントを重ね、終わってみればシーズン後半の10戦で獲得したポイントのノリスとの差はわずかに15点。決してシーズン序盤の7勝で稼いだ貯金で逃げきったのではなく、シーズン全体を通して死力を尽くして戦い抜いた結果だ。

「これまでで最も厳しいチャンピオンシップだった」

 フェルスタッペン自身がそう語るシーズンだったからこそ、フェルスタッペンのすごさがあらためて浮き彫りになった。

(2)マクラーレン大躍進「26年ぶり」チーム王座獲得

 2024年最大のトピックのひとつが、ランド・ノリスの躍進であり、マクラーレンの復活だ。

 昨年の開幕時はマシン開発に失敗し、最下位からのスタート。そこから技術体制を刷新して、シーズン中2度の大型アップデートで上位に進出した。

 2024年、開発サイクルの後れが響いてマシン熟成不足のままの開幕となる。だが、第6戦マイアミGPで大型アップデートを投入して一気に躍進。さらに夏休み明けの第15戦オランダGPでも大型アップデートでライバルを大きく引き離し、シーズン後半戦は明らかに最速のマシンだった。

 ノリスは第6戦マイアミGP、そして2年目のオスカー・ピアストリも第13戦ハンガリーGPで初勝利を果たす。最終的にふたりで計6勝をマークし、マクラーレンにコンストラクターズタイトルをもたらした。特にハイダウンフォースサーキットでの速さは際立っており、レッドブルのお株を奪う空力性能を見せた。

 その一方で、8回のポールポジションを獲得しながら6勝しか挙げられなかったのは、やや物足りなさもある。チームの戦略ミスやノリス自身のドライビング、ノリスとピアストリを自由に戦わせたがゆえの取りこぼしも少なくはなく、実力で言えばカナダ、スペイン、オーストリア、イギリス、イタリア、サンパウロ、カタールなどは勝っていてもおかしくなかった。

 事実、シーズン前半14戦はレッドブル、シーズン後半10戦はフェラーリが獲得ポイントで上回っており、マクラーレンはいずれも2位。実力としては前後半どちらもトップレベルだったが、最終戦までフェラーリとのコンストラクターズタイトル争いがもつれたのは、マクラーレン自身の取りこぼしのせいでもあった。

 マクラーレンは1998年以来、実に26年ぶりとなるタイトル奪還。ノリスは8回のポールポジション獲得ながら4勝止まりだったものの、まだ今年になって初優勝を挙げたばかりだ。

 ノリスもマクラーレンも、タイトルコンテンダーとしてはまだまだ成長の途上にある。シーズン開幕当初から強さを発揮できるであろう2025年に、どんな戦いぶりを見せるのかが楽しみだ。

(3)誰が勝つかわからない「4強」大混戦時代

 2024年シーズンは、近年稀に見る大混戦になった。それもトップ4チームの争いが激しく、レースによって誰が勝つかわからないという魅力的な状況だった。

 リザルトとしてはレッドブル=9勝、マクラーレン=6勝、フェラーリ=5勝、メルセデスAMG=4勝という結果になった。

 しかし、第11戦オーストリアGP以降の14戦で言えば、マクラーレン=5勝、メルセデスAMG=4勝、フェラーリ=3勝、レッドブル=2勝という大接戦だ。

 総じて言えば、ハイダウンフォースのサーキットではマクラーレンが、ローダウンフォースのサーキットではメルセデスAMGが、そしてメカニカル性能が問われるサーキットではフェラーリが強かった。つまり、サーキット特性とマシン特性の相性によって、毎戦のように勝者が変わる展開になったということだ。

 2022年に導入された現行レギュレーションも3年目を迎え、各チームが理解を深めてきたことでマシン性能差は拮抗してきた。もともと僅差になることを意図して策定されたレギュレーションゆえに、開発が行き着くところまで到達すれば、上位勢のマシン性能は同じようなところに終着するのは当然だ。

 ただ、そのなかでもマシンごとに特性差があり、サーキットによって得手・不得手があるのは興味深い。そして僅差であるがゆえに、ほんのわずかなタイム差でも順位は大きく上下動した。

 ドライバー別で見ると、上記の第11戦オーストリアGP以降の14戦では、ノリス=3勝、フェルスタッペン=2勝、ルクレール=2勝、ピアストリ=2勝、ジョージ・ラッセル2勝、ルイス・ハミルトン=2勝、カルロス・サインツ=1勝。僅差のなかで各ドライバーがいくつもの見せ場を作り、ドラマチックな勝利をつかみ獲ってきた。

 レッドブルとフェルスタッペンの独走勝利ばかりが続いてきた過去2シーズンとはまったく違う。ひとつひとつがドラマチックなレースばかりだったというのも、2024年シーズンの大きな特徴だった。

(つづく)

「レッドブルは保守的なチームに成り下がった」