日本代表の「まさか」のアジア杯ベスト8敗退で幕を開けた2024年の日本サッカー界。3月には宮本恒靖氏が日本サッカー協会(JFA)会長に就任し、開幕したJリーグでは初昇格のFC町田ゼルビアが大躍進すると、パリ五輪では男女ともにベスト8入り。…
日本代表の「まさか」のアジア杯ベスト8敗退で幕を開けた2024年の日本サッカー界。3月には宮本恒靖氏が日本サッカー協会(JFA)会長に就任し、開幕したJリーグでは初昇格のFC町田ゼルビアが大躍進すると、パリ五輪では男女ともにベスト8入り。9月にスタートしたW杯アジア最終予選では負けなしの快進撃で、FIFAランクで森保ジャパン史上、最高位となる15位を記録。最後の最後までもつれたJリーグの優勝争いは、ヴィッセル神戸の2連覇で幕を閉じた。そこで『サッカー批評』では、サッカージャーナリストの大住良之氏と後藤健生氏に、2024年のサッカー界を振り返ってもらうとともに、2025年の行方を占ってもらった。サッカー歴50年以上の大ベテラン2人が「愛するサッカー」について、朝まで大激論!
■代表クラス加入で「薄れた」徹底度
――J1で優勝を争ったチーム以外に、印象に残ったチームはありますか。
後藤「それはもちろん、昇格組の東京ヴェルディ(6位)でしょう」
大住「確かに、そうなんだけど、J 1初昇格で最後まで優勝の可能性を残したFC町田ゼルビア(3位)の話をしないといけないよ。首位にいた節数が一番多いのは、町田なんだから。最後はちょっと力尽きた感じはあったけど、黒田剛監督が叩き込んだサッカーというのが、今年のJリーグの中で力を出したと言えるよね」
後藤「ロングスローなど、いろいろな意味で一番、話題を振りまいたサッカーでしたね」
大住「開幕の頃とシーズンの後半では、随分とメンバーが変わった。ケガ人が戻ってきたということもあるんだけど、クラブとして補強する力が非常にあるなと感じた」
後藤「現在のJリーグで、一番多くの日本代表選手(谷晃生・中山雄太・望月ヘンリー海輝)を擁するクラブになったもんね。さらに、オーストラリア代表(ミッチェル・デューク)と韓国代表のCF(ナ・サンホ、オ・セフン)がいるというんだから、これで弱かったら、どうするのよというメンバー構成になっちゃった」
大住「オ・セフンは町田でのプレーを認められて、韓国代表のレギュラーになっちゃったもんね」
――シーズン後半失速の理由は、なんだったんでしょう。
後藤「対戦相手に研究されたことに加えて、代表クラスの選手(前出の中山、相馬勇紀ら)がゾロゾロ入ってきて、シーズン前半戦のような徹底して守り切って何とかして勝つという戦い方が、ちょっと薄れてきたんじゃないかな」
大住「そうだね、ふつうのチームになってきた感じがしたよね。要するに、個の質が上がったけど、それによってチームの徹底度というか迫力がなくなったような気がした」
後藤「当初はJ1初昇格のチームだし、オレたちは弱いんだから徹底して守って、この戦い方を貫くぞという感じがあったけど、だんだん色気が出てきちゃった」
■選手に「一生懸命プレーさせる」厳しさ
大住「色気なのかな。しょうがないと言えばしょうがないけど、シーズン後半にいたメンバーを開幕の頃みたいに馬車馬のように働かすことができたら、この先もすごいチームになると思うけどね。同じ東京をホームとする東京ヴェルディも、違うすごさがあったね。期限付き移籍(染野唯月、木村勇大、山見大登、山田楓喜など。染野は12月25日に、DF林尚輝とともに鹿島からの完全移籍を発表)で良いストライカーやアタッカーを獲得してはいたけど、開幕前には非常に苦戦するんじゃないかと思っていた。やはり大きかったのは城福浩監督の力だね」
後藤「選手たちに、本当にひたむきに一生懸命プレーをさせる。ちょっとでも手を抜いたら交代させられるという状況をつくり出して、選手一人ひとりを本当に大きく成長させたのはすごかったね」
大住「城福監督の力を思い知った感じがしたよ」
後藤「開幕前には誰もが降格候補に挙げたくらいに、戦力的には厳しいかと思われていた。それなのに選手一人ひとりが開幕の頃から格段に伸びたもんね」
大住「そうだね、試合をやっていく中でどんどん自信をつけて、自分の力にしていったよね」
後藤「シーズン最初の頃はリードしていても逆転されちゃっていたのに、最後にはきちんとゲームを終わらせることができるようになった」
大住「けっこう攻撃的というか、攻撃にたくさん人数をかけるサッカーをやっていたけど、町田に大敗して3バックに切り替えた。これでどうなるのかなと思っていたけど、しっかり立て直して、最後にはやはり攻撃的なサッカーになっていたもんね」
■伸び悩む選手は「ヴェルディにどうぞ」
後藤「資金が豊富にあって良い選手をいっぱい補強したわけじゃなくて、他でくすぶっていてレンタルで出されるような選手をかき集めただけかと思ったら、一人ひとりが本当に伸びてJ1にふさわしい選手に成長した」
大住「才能はあっても伸び悩んでいる選手はヴェルディにどうぞ、みたいな感じになってきたよね」
後藤「新シーズンは保有元のチームに戻っちゃう選手も多くいるんだろうけど、またそういう選手が来て、城福監督に再生してもらえるといいね」
大住「もちろんサッカーは選手がやるわけだけど、2024年のヴェルディの躍進は、半分は城福監督の力、という感じだったね。彼はすごい監督だと思う。以前は、良い仕事もするけど、あんなに熱くならなくてもいいのにな、と感じたこともあったけど」
後藤「あの熱さが、若い選手にうまく響いたんだね。指導者としての実力を証明したわけだ」
大住「本当に妥協しないというのが、すごいところだよ」
後藤「大事な場面で歩いていた選手がいたといって、試合後の会見で真っ赤どころか顔を真っ黒にして怒っていたことがあったよ」
大住「その選手は、次の試合ではベンチにも入れなかったもんね」