中西大翔(旭化成)インタビュー(後編)3年前の箱根で、中西(右)は現在の副キャプテンの山本歩夢(左、当時1年)と襷をつないだ。photo by Nikkan Sports/AFLO2年前、直前のケガで最後の箱根を走れなくなった國學院大主将・…
中西大翔(旭化成)インタビュー(後編)
3年前の箱根で、中西(右)は現在の副キャプテンの山本歩夢(左、当時1年)と襷をつないだ。photo by Nikkan Sports/AFLO
2年前、直前のケガで最後の箱根を走れなくなった國學院大主将・中西大翔は「なんでこんな時に」と涙を流した
【最後の箱根を走れず、不完全燃焼】
2023年の第99回箱根駅伝、國學院大のキャプテンである中西大翔は、直前の故障のために12月31日に出走を断念、サポートに回った。いつもはプレイヤーとして走り、サポートされる側にいたが、箱根ではサポ―トに回ることで、その大変さを感じることができた。
「沿道での応援を含めて、タイム報告とか、こんなに大変なんだというのがわかって、これまでやってもらっていたことへの感謝の気持ちが生まれました」
往路から沿道で仲間のサポートをしたかったが、中西が表に出てしまうと復路で出走しないことがばれてしまうので、1月2日は寮でテレビ中継を見ながら応援した。3日の復路は、9区の4年生の坂本健悟(現・プレス工業)のスタート地点に行った。
「前日の2日は坂本が寮でいきなり倒れたので、その介抱をしていたんです。少し落ち着いたので、前日練習に行き、戻ってきた時に『僕のサングラスをつけて走ってほしい』と坂本に渡しました。復路は大混戦で早稲田大や法政大、創価大とかと競っていたんです。坂本には『少しでも上の順位で、10区の(佐藤)快成(現・4年)にラクをさせてほしい。僕の分まで頑張ってくれ』と伝えました」
坂本は区間10位で3位から7位に順位を落としたが、アンカーの佐藤が区間4位の好走を見せ、國學院大は総合4位になった。3位の青山学院大とは36秒差だった。
「1、2年生が6人走り、下級生の頼もしさをすごく感じましたし、次の箱根ではもっと上を目指せるチームになるなと思いました。結果は3位と36秒差の4位で、目標の3位内には届かなったので、それは自分の責任だと感じていました。目標を達成できなかったことへの責めは走れなかった自分にある。みんなを責めるのではなく、自分を責めてほしいというのは、箱根が終わってから報告会などでみんなに伝えました」
最後の箱根駅伝こそ走れなかったが、キャプテンとして過ごした1年間は、中西にとってどんな時間だったのだろうか。
「チームをまとめていくために、何が必要かというのを自分で考え、実行してきました。そのやり方が正しかったのかどうかはわからないですけど、下級生をはじめ、みんながついてきてくれた。みんなのおかげで僕は人間として成長することができたと思います。最後、箱根を走れなかった悔しさは残りましたけど(苦笑)」
今、競技者としての中西を駆り立てるものは、その時の悔しさだ。最後の駅伝を走れなかったからこそ旭化成でニューイヤー駅伝を走り、優勝したいという。
「最後の箱根を走れず、不完全燃焼で終わった感じがありました。だからこそ旭化成でニューイヤーに出て活躍したいと思い、今もその思いが強いです。ただ、入社して1年目、2年目と故障が続いてチームに貢献できていないので、来年こそは自分のシーズンにしたいと思っています」
【「すごく仲がいいなあというのは感じます」】
中西に続く國學院大の次のキャプテンは伊地知賢造(現・ヤクルト)になった。自分をいろんな面で支えてくれた副キャプテンだったが、キャプテンになる際、何か言葉を残したのだろうか。
「伊地知は言葉も話せるし、競技力もあったので、自分から何か言うことはなかったです。ただ、僕が監督の前田(康弘)さんから言われたように、誰かのようにとかではなく、自分のやりたいようにやればいいよとは伝えました」
伊地知はグイグイとメンバーを牽引し、チームは出雲駅伝4位、全日本3位、箱根5位と安定した成績を残した。そして今シーズン、キャプテンになったのが平林清澄(4年)だ。中西を慕い、箱根を走れないとわかった時は、共に泣き、「大翔さんの分まで走る」と言い切った後輩だ。その平林がキャプテンになり、出雲、全日本を制覇して二冠を達成、いよいよ箱根で三冠に挑むことになる。
「平林はキャプテンとしてチームのことや個人のことを本当に細やかなところまで考えてやっているなあと思います。常に先頭に立つし、発言力もある。競技に対しては人一倍ストイックなので、彼の厳しい言葉にたじろいだり、緊張する選手がいると思うんです。それを副キャプテンの(山本)歩夢(4年)がうまく緩和させているのでチームとしてバランスがよく取れている。それが今のチームの仲の良さにつながっているんじゃないかなと思います」
OBとして、今年の國學院大の強さはどう見ているのだろうか。
「4年生から1年生までコミュニケーションが良く取れていて、すごく仲がいいなあというのは感じています。それはすごく大事なことで、たぶんいい意味で学年関係なく言い合えているので、チームの風通しがいいんでしょうね。結果も出ているので、間違いなく雰囲気は最高でしょう。これまでの國学院大にない選手層の厚さがあり、誰がどこを走ってもいける感じがします。全日本もつなぎ区間でみんないい走りをしていたので、今のチームの成長を感じますし、前田さんも自信を持って箱根を戦えると思います。僕は今のチームは國學院大史上最強だと思います」
史上最強の後輩たちの最大のライバルとなるのは、どこになるのだろうか。
「青山学院大、駒澤大でしょう。2校とも往路から仕掛けてくると思うので、國學院は往路で耐えることができるかどうか。復路は選手層が一番厚いと思うので、往路で耐えられれば有利に戦えるかなと。でも、箱根は復路で逆転というのが難しいので、まずは往路からしっかり戦って青学大と駒澤大に食らいついていくことが大事かなと思います」
三冠を狙うチームに不安はないのだろうか。
「三冠がかかっていますし、大会が近づくにつれ、そのプレッシャーが大きくなっていくでしょう。箱根までの調整の1週間が大事ですね。そこで自分のやり方ではなく、特別なことをやってピーキングをうまく合わせられなくなると危険ですね。いつもどおり、自分のやり方で調整してほしいなと思います」
中西には特に思い入れのある選手がいる。平林もそうだが、寮で「部屋っ子」だった山本歩夢と上原琉翔(3年)だ。上原は昨シーズン、出雲1区3位で駆けると全日本は3区3位と結果を出したものの、箱根は5区17位と悔しさを噛みしめた。今シーズンは出雲5区区間賞、全日本はアンカーで青学大に競り勝ち、優勝のゴールテープを切るなど、主力に成長した。山本は昨シーズン、故障で箱根に出走できなかったが、今年は出雲2区5位、全日本では6区区間賞(区間新記録)で優勝に貢献し、調子がいい。
「歩夢も上原も上級生になって実力を開花させ、頼もしくなりました。自分と同部屋の時は『リラックスして過ごせよ』と、部屋では自由にやらせて育てていたので、それがうまく実ってよかったと思います(笑)」
【「平林の5区を見てみたいですが...」】
そして、國学院大でやはり注目なのはエースの平林だ。今年2月の大阪マラソンで当時歴代7位のタイム(2時間06分18秒)で初優勝を果たし、出雲では駒澤大の篠原倖太朗(4年)との競り合いに勝って優勝のゴールテープを切り、全日本では7区で青山学院大の太田蒼生(4年)とトップを競い、区間2位でまとめ、全日本初優勝に貢献した。箱根はエース区間の2区を駆ける予定だが、山上りの5区も候補として挙がっている。
「平林の5区を見てみたい気がしますが、やっぱりエース区間の2区で区間賞を獲る姿を見てみたいですね。平林や歩夢は1年の時から見てきて、自分たちの成績を軽々と超えていったので悔しい気持ちもあるんですが、ここまで来たら三冠を獲ってほしい。"史上最強の國學院大"を証明し、歴史を変えてほしいと思います」
来年1月3日、中西は大手町に行き、歓喜の瞬間を待つ予定だ。後輩たちが歴史的な偉業を達成すれば、「2025年を自分のシーズンにする」と期す中西の心にも弾みがつくだろう。
■Profile
中西大翔/なかにしたいが
2000年5月27日生まれ、石川県出身。金沢龍谷高校ではインターハイ5000ⅿで決勝進出、世界クロスカントリー選手権(U20)に出場するなど活躍。國学院大学に進学すると。いきなり出雲駅伝初優勝のメンバーとなった(2区3位)。箱根駅伝は1年時に4区で区間3位、2年時に2区15位、3年時に4区4位、主将を務めた4年時は直前の故障で不出場。旭化成所属。