日本サッカー界において、もはや欠かせない「選手育成機関」となっている大学サッカー。今年のJリーグMVPの武藤嘉紀はもちろん、現役の日本代表メンバーも、三笘薫や上田綺世、谷口彰悟、守田英正、伊東純也、旗手玲央…と、挙げるとキリがないほどだ。…
日本サッカー界において、もはや欠かせない「選手育成機関」となっている大学サッカー。今年のJリーグMVPの武藤嘉紀はもちろん、現役の日本代表メンバーも、三笘薫や上田綺世、谷口彰悟、守田英正、伊東純也、旗手玲央…と、挙げるとキリがないほどだ。大学サッカーを「Jリーグのファーム」と呼ぶサッカージャーナリスト後藤健生が、先日、観戦した第73回全日本大学選手権大会(インカレ)の状況を踏まえ、大学サッカーの「問題点」をズバリ指摘する!
■日本人最多ゴール2人も「大学経由」
日本の大学スポーツで人気が高いのは、野球と駅伝とラグビーだろう。東京六大学野球は、第2次世界大戦前は日本で最も人気の高い花形スポーツイベントだった(プロ野球ができてからも、六大学のほうが人気は高かった)。また、毎年正月に行われる箱根駅伝は現在でも社会的関心事となっているし、関東大学ラグビー対抗戦の早明戦や早慶戦といった伝統の一戦は、1980年代頃には旧・国立競技場を満員にした時代もあっただけに、ラグビーの主役がプロのリーグワンに移った今でも、早明戦などはメディアで大きく取り上げられる。
だが、それ以外の大学スポーツはそれほど人気は高くない。
サッカーでも、第2次世界大戦前は関東、関西の大学リーグが日本最高リーグと見なされており、かなりの観客動員数を誇っていたが、戦後は人気は低迷。1960年代に日本サッカーリーグ(JSL)が発足してからは実業団チームとの実力差は開く一方となった。
だが、現在の大学サッカーはそれほどレベルが低いわけではない。
というのは、Jリーグクラブの育成組織で育った選手のうち、直接プロ入りする選手を除いて、多くの選手が大学で4年間プレーしてからJリーグ入りするようになっているからだ。いわば、大学リーグはJリーグのファームのような存在なのだ。
今シーズンも、多くの選手がJリーグ入りするが、過去の例を見ても、たとえば一昨年の大会で活躍した山田新は、2024年のJリーグで日本人最多の19ゴールを決めて得点王争いの3位に入った。同じ19ゴールで3位タイのジャーメイン良も、2018年に流通経済大学を卒業した選手だ。
今シーズン、JリーグのMVPに輝いた武藤嘉紀は慶應義塾大学ソッカー部で2シーズンプレーした後、在学のままFC東京と契約した選手だ。
三笘薫(筑波大学、現ブライトン&ホーヴ・アルビオン)や旗手玲央(順天堂大学、現セルティック)、上田綺世(法政大学、現フェイエノールト)は、いずれも2019年に卒業した同期。彼らが在学していた当時の大学勢はJ3リーグよりも強いのではないかと思われたものだ。
■大学連盟は「諦めてしまったのか」
三笘や旗手の時代に比べれば、現在は大学勢とJ3リーグとの差は拡大した(大学勢はコロナ禍の影響を大きく受けたし、J3リーグはこの数年でレベルアップした)。だが、現在の大学リーグのレベルもけっして低いわけではない。
それなら、一般観客を動員することだって不可能ではないはずだ。
だが、現状で大学連盟は一般観客の動員を諦めてしまったようだ。「選手のために試合さえできればいい」と考えているのだろうか?
大学のグラウンドで試合を行うことによって、一般学生が観戦に来る機会が増えたというポジティブな影響があったことも承知しているが、「一般観客は来ない」という前提で大学のグラウンドや地方会場での試合ばかりにしてしまったのでは、観客数という面では縮小のスパイラルに陥ってしまう。なんとかして、一般観客の動員を図るべきなのではないか。
というのは、将来のプロ入りを目指している選手のためにも、やはり多くの観客が入ったスタジアムでの試合経験を増やしたいのだ。
もちろん、優勝を懸けたリーグ戦やインカレはすべて真剣勝負だ。また、将来のプロ入りを目指す選手たちにとっては、気を抜いていいプレーなどない。
だが、観客のいない大学のグラウンドでの試合ばかりでは、緊張感を持って試合に臨む体験が不足するのではないだろうか?
■あの環境でのプレーが「大きな財産」に
これは、大学サッカーだけではない。育成年代共通の課題だ。
たとえば、高円宮杯U-18プレミアリーグはこの年代(第2種)の最高峰のリーグだ。だが、ほとんどの試合は練習グラウンドとか高校のグラウンドで行われる。せめて、半分くらいの試合を各クラブの本拠地スタジアムで、多くの観客が入った状態で試合をさせたいものだ。
もう、20年以上前のことだが、アルゼンチンでボカ・ジュニアーズ(ディエゴ・マラドーナも所属)対リーベルプレートのスーペルクラシコを観戦に行ったことがある。そうしたら、トップチームの試合の前にユースの試合が行われていたのだ。その時点で、ボンボネーラにはすでに4万人ほどの観客が入っており、両クラブのインチャ(サポーター)たちはトップチームの試合と変わらないようなハイテンションで応援を続けていた。
若いうちから、あのような環境でのプレーを経験できるのは大きな財産となる。やはり、無観客のような試合とは、緊張感、真剣度に違いが出てしまうのではないか……。
大学連盟は、そういった観点からも多くの観客を集める工夫をする責任があるような気がするのだが……。