現地発! スペイン人記者「久保建英コラム」 久保建英は年内最終戦となったセルタ戦で、後半途中から出場するも流れを変えられず、チームは7試合ぶりに敗戦した。 そんな今季前半戦の久保パフォーマンスはどうだったのか。スペイン紙『アス』およびラジオ…

現地発! スペイン人記者「久保建英コラム」

 久保建英は年内最終戦となったセルタ戦で、後半途中から出場するも流れを変えられず、チームは7試合ぶりに敗戦した。

 そんな今季前半戦の久保パフォーマンスはどうだったのか。スペイン紙『アス』およびラジオ局『カデナ・セル』でレアル・ソシエダの番記者を務めるロベルト・ラマホ氏に評価してもらった。

【今季前半戦は10点中7点】

 2024年の終わりを迎えたこの時期、久保建英はフィジカル面がギリギリの状態だった。「休養が必要だな」。そう感じたのは、ここ3試合のパフォーマンスがよくなかったからだ。常に大きな違いを生み出し続けてきた彼だが、シーズンの折り返し地点にやってきた今、期待されたクオリティーを発揮できず、チームが求める選手になれなかった。


久保建英の年内最後のセルタ戦は途中出場で敗戦だった

 photo by Mutsu Kawamori/MUTSUFOTOGRAFIA

 試合結果はすべて異なったが、不思議なことにその3試合すべてで同じような内容だった。勝利したディナモ・キーウ戦(3-0)のプレーは悪くなかったが、個人プレーに走りすぎた。引き分けに終わったラス・パルマス戦(0-0)はベストを尽くすもあらゆることがうまくいかず、敗北を喫したセルタ戦(0-2)は途中出場となり、チームの惨状を変えられなかった。

 疲れが溜まった状態でクリスマス休暇まで走り続けてきたのに加え、フィジカル面に違和感を抱えながらプレーしていたのが、彼のポテンシャルを大きく下げる原因になっていた。ケガをしているわけではないが、100%の状態ではない。そのため本来のレベルに達することができず、パフォーマンスの質を下げていたのは明らかだ。

 今季前半戦の出来は、よかったとも悪かったとも言い難い。非常に高いレベルのプレーを見せつけたかと思うと、次の試合ではそれを維持できず、パフォーマンスは不安定だった。このことから私は、今季ここまでの久保の評価を7点(最高10点)としたい。

 これからその点数を具体的なデータで正当化していくが、最初に強調したいのは、乗っている時の久保は卓越したパフォーマンスを発揮するので高評価に値する一方、状態が悪い時でも姿をくらますことなく相手と対峙し、全力を尽くしてきたという点だ。物事がうまくいかずとも、決して惨憺(さんたん)たる出来だったわけではない。

 また、シーズン最悪のスタートを切ったレアル・ソシエダの影響を大きく受けたことも無視できない。彼はチームが向上するペースに合わせ、自身のパフォーマンスを上げていった。

【クラックなのは間違いないが、スーパークラックではない】

 久保が今季前半戦でとりわけよかった点は、突破力と攻撃の主軸となる能力だ。その一方でプレーに一貫性がなく、継続していい試合をするのに苦労している。それこそが欧州サッカー界の"貴族"の仲間入りを果たせていない理由なのだ。

 久保が"クラック(名手)"なのは間違いないが、"スーパークラック"ではない。それはすべて、パフォーマンスが安定していないことから由来している。しかし、久保は努力を怠ってはいない。彼は勇敢な選手で、常にチャレンジしている。ミスしても再びトライし、絶えずボールを要求し、主役を演じようとしている。その姿勢と献身性は疑う余地がない。

 おそらくこれにより久保は今季、ラ・レアル(レアル・ソシエダの愛称)加入以降、イマノル・アルグアシル監督からずっと求められていたオフ・ザ・ボールの動きを改善できたのだと思う。彼はボール扱いに優れた選手としてチームにやって来ており、これまで守備面で身を粉にしてサイドバック(SB)をサポートする能力に欠けていた。

 しかし今の久保は自陣に走って戻り、しっかり守備をして、相手のSBを追いかけ、チームを助けている。そのタスクをこなすためにはフィジカル面の向上が必須だったが、彼はそれを成し遂げ、今では大きな問題なく試合全体を耐えられるほどの能力を身につけている。

 それでもその点にはまだ改善の余地があるのは間違いない。なぜならバルセロナ戦(1-0)のように守備面で多大な貢献した試合もあれば、アスレティック・ビルバオとのバスクダービー(0-1)のように大いに苦労した試合もあるからだ。

 久保にはまた、コレクティブなプレーの改善も必要だ。右SBのホン・アランブルとのコンビネーションはうまくいっているが、必要以上に個人プレーになりすぎる時がある。パスを出したり、味方と連係するというベストの選択肢があるにもかかわらず、個人プレーを望む傾向にある。ディナモ・キーウ戦ではそれが起こっていた。シェラルド・ベッカーのゴールをアシストしたのは事実だが、それ以外の場面ではパスを選択せず、自分の成績を上げるためにゴールを狙っていた。

【プレーの印象に見合うだけの数字を残せていない】

 それが影響し、ラ・リーガとヨーロッパリーグを合わせて23試合に出場しているが、4ゴールしか決められていない。アシストはヨーロッパリーグで2回記録しているが、ラ・リーガでは1度もなし。一方、ポジション争いのライバルになることもあるセルヒオ・ゴメスは、ここまでラ・リーガだけで4アシストを記録している。

 久保は、前半戦に見せたプレーの印象に見合うだけの結果を残せていない。そしてイマノルは、彼に数字を強く求めている。それは久保の成績が向上すれば、ラ・レアルはもっとよくなるからだ。

 それでも久保の4ゴールは、得点力不足のチームにおいて上位につけるすばらしいもの。6ゴールのミケル・オヤルサバルに次いでチーム2位だ。

 また、被ファール数がラ・リーガ全体で6番目に多く、チームトップの32回であることは、久保が常にドリブルを試み、その魔法でチームに貢献しようとしている事実を示している。さらに枠内シュート14本はラ・レアルで4番目に多い。先ほど述べたが、彼は決して姿をくらますことがない。

 久保のような能力を持つウイングが少なくなってきている現在のラ・リーガにおいて、彼はニコ・ウィリアムズ(アスレティック)のような選手と肩を並べる存在だと言えるだろう。ヴィニシウス・ジュニオール(レアル・マドリード)には凌駕されているが、この選手はウイングのポジションで世界最高だ。

 これまで話してきた久保の不安定なパフォーマンスは、2024年の終わりに顕著となった。年内最後のセルタ戦でイマノルが彼をベンチに置いたのは、フィジカル面が100%の状態でなかったため、交代要員にする決断を下したのだと思われる。

 不思議だったのは久保を投入した際、左ウイングで起用したことだ。なぜなら彼は左利きであるにもかかわらず、そこでプレーするとパフォーマンスが大きく低下するからだ。右サイドのほうがはるかにチームに貢献し、チームに恩恵をもたらすことができる。

 イマノルは劣勢の状況を変えるため、左サイドからオーリ・オスカルソンにクロスを上げられるように、久保をそのポジションに入れたのだと思う。しかし、すぐにそれがベストの解決策でないと気づいて右サイドに戻したが、久保はまたもや不安定なプレーを見せ、チームの悪い流れを断ちきることはできなかった。

 最近の出来はよくないものの、好調な時の久保はトップレベルの選手だ。私は今季前半戦の出来を7点と評価したが、それは彼がピークを迎えるのはこれからだと思っているからだ。後半戦が始まった後、ベストパフォーマンスを発揮してくれると心より期待している。

(髙橋智行●翻訳 translation by Takahashi Tomoyuki)