日本サッカー界において、もはや欠かせない「選手育成機関」となっている大学サッカー。今年のJリーグMVPの武藤嘉紀はもちろん、現役の日本代表メンバーも、三笘薫や上田綺世、谷口彰悟、守田英正、伊東純也、旗手玲央…と、挙げるとキリ…

 日本サッカー界において、もはや欠かせない「選手育成機関」となっている大学サッカー。今年のJリーグMVPの武藤嘉紀はもちろん、現役の日本代表メンバーも、三笘薫や上田綺世、谷口彰悟、守田英正、伊東純也、旗手玲央…と、挙げるとキリがないほどだ。大学サッカーを「Jリーグのファーム」と呼ぶサッカージャーナリスト後藤健生が、先日、観戦した第73回全日本大学選手権大会(インカレ)の状況を踏まえ、大学サッカーの「問題点」をズバリ指摘する!

■「忘れられない」決勝のミスキック

 現在、第73回全日本大学選手権大会(インカレ)が開かれているのをご存じだろうか?

 大学の試合には全国リーグが存在しないから、シーズンの終盤に各地域リーグの上位校が集まって開かれる全国選手権は、単なるカップ戦以上の意味がある。

 12月22日の日曜日には、そのインカレの準々決勝が行われたので観戦に行ってきた。

 会場は、栃木県栃木市の総合運動公園陸上競技場と同さくら市のさくらスタジアムだったが、僕は栃木市の会場を訪れた。栃木市は県庁所在地の宇都宮より南にあるので、東京都内から行くと、さくらスタジアムよりもかなり近かったからである。

 この日は、全国的に西高東低の冬型の気圧配置が強まり、日本海側は大雪となった。関東地方はありがたいことに晴れていたが、最高気温は約9度。北寄り、あるいは西寄りの強風が吹きすさんで、とても寒い一日だった。

 栃木市の陸上競技場は縦軸が東西方向に取られていたので、風はメインスタンド側から見て左側(西側)から吹きつけていた。すぐ隣にある多目的グラウンドからの砂ぼこりが舞い、とても良いコンディションとはいえなかった。

 まあ、しかし、寒さや強風は12月に大会が開かれることを考えれば仕方のないことだ。

 遠い昔から、インカレと木枯らしはセットのようになっている。

 1970年代のことだったと思うが、東京・西が丘サッカー場(現、味の素フィールド西が丘)でのインカレ決勝。早稲田大学のある選手がミスキックをした。スタンドからも、本人の「しもうたぁ」という叫び声が良く聞こえたが、そのボールが砂ぼこりとともに巻き上げられ、そのまま相手ゴールに入ってしまったというシーンが忘れられない(当時、西が丘の芝生は、冬になるとほとんど枯れてしまっていた)。

■新潟入団決定「トップ下」が大活躍

 さて、栃木市での準々決勝。試合も面白かった。

 第1試合は、大阪学院大学(関西学生リーグ8位)対桐蔭横浜大学(関東大学リーグ7位)の対戦。開始直後からボールを握った大院大はMFの箱崎達也(来季からFC岐阜)がパスを散らし、前線では鳥井禅音(サンフレッチェ広島ユース出身・1年)がワンタッチで裁いて攻撃を組み立て、13分にはFKのボールをDFの中井小鉄(来季からティアモ枚方=JFL=でプレー)が決めて先制した。

 だが、時間の経過とともに桐蔭横浜大がボールを握る時間を増やして反撃に転じる。

 ワントップでは湘南ベルマーレ入りが決まっている渡邊啓吾(特別指定選手としてJ1デビュー済み)がボールを収める。自らゴールも狙え、またパスの精度も高い素晴らしい総合系CFである。

 その渡邊に絡むのがトップ下の笠井佳祐(アルビレックス新潟入団決定)。25分に落合滉斗のスルーパスで抜け出して同点ゴールを決めると、39分にはクロスに合わせて逆転の2点目。さらに、50分、54分にも得点して、笠井は1人で4ゴールの大暴れ。終了間際にも1点を追加した桐蔭横浜大学が攻撃力を発揮して5対1と圧勝した。

■終盤の逆転で「4強進出」を決めた!

 栃木市会場での2試合目は新潟医療福祉大学(北信越大学リーグ優勝)対日本大学(関東リーグ6位)。

 こちらは、ますます強まった強風のせいか、なかなかパスがつながらず、前半はほとんどチャンスらしいチャンスもないまま推移。後半も、点が入りそうもない展開が続いた。

「おやおや、日も傾いてこれから寒くなるのに延長かなぁ……」と思っていたら、77分に日大の熊倉弘達(ヴァンフォーレ甲府内定。双子の兄の弘貴は横浜FC内定)が超ロングシュートを決めて先制した。ハーフライン手前から右足で放ったライナー性のキックが追い風に乗って伸びて、ゴール右上に決まったのだ。

 81分、反撃に映った新潟医療福祉大はFKからのボールをMFの細井響がヘディングで決めたものの、オフサイド判定。多くの選手が主審、副審を囲んで異議を唱えたが、VARのない大学選手権では判定が覆るわけもなく、これで万事休したかと思われた。

 ところが、84分にゴール前の混戦から交代で入ったばかりの森駿人が決めて同点とすると、その1分後には松本天夢(来季はV・ファーレン長崎)のシュートがDFの手に当たってPKをゲット。松本自身がキックを決めて、新潟医療福祉大は終盤の逆転で4強進出を決めた。

 互いに攻めあぐねた時間が長かった試合だったが(シュート数は新潟医療福祉大学が7本。日大はわずか3本)、終盤の超ロングシュートやまさかの逆転劇があって、それなりに楽しめたゲームだった。

 なお、同日に行われた、さくらスタジアムでの2試合では、東洋大学(関東リーグ3位)が大阪体育大学を破り、関東リーグ優勝の明治大学と同準優勝の強豪対決はスコアレスドローに終わり、PK戦で明治が準決勝進出を決めた。これで、25日に行われる準決勝は関東勢3チームに新潟医療福祉大学が挑む構図となった。

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