【逸材が過ごした悪戦苦闘の日々】 12月、大阪。フィギュアスケートの全日本選手権女子シングルは白熱した攻防となった。 松生理乃(20歳/中京大学)はショートプログラム(SP)、フリーどちらも5位で健闘した。合計204.00点で総合5位に入賞…

【逸材が過ごした悪戦苦闘の日々】

 12月、大阪。フィギュアスケートの全日本選手権女子シングルは白熱した攻防となった。

 松生理乃(20歳/中京大学)はショートプログラム(SP)、フリーどちらも5位で健闘した。合計204.00点で総合5位に入賞している。表彰台に上がったわけではない。しかし、一つひとつのエレメンツが丁寧で、凛としたスケーティングで会場を沸かせた。



全日本選手権で総合5位に入った松生理乃

「昨年、一昨年と全日本ではいっぱい失敗して、わけがわからないまま終わってしまった。今年は(フリーの)最後の一つのミスでこれだけ悔しいっていう思いになっているのは、成長できているのかなって思います」

 松生は、大会をそう振り返っている。この3年間、彼女は悪戦苦闘の日々を過ごしてきた。

 2020年の全日本、松生は当時ジュニアながら4位に入る躍進で「次世代の逸材」と注目を浴びた。ところが、2021年は足首のケガもあって思うような演技ができず、全日本は7位と表彰台から遠ざかった。そして2022年も喘息で体調不良に悩み、全日本は13位とさらに順位を落とした。2023年も調子は戻らず、17位と低迷することになった。

「今回の全日本も緊張していましたけど、去年のように体が動かないことはなくて。だいぶ試合に慣れることはできて、強い気持ちで演技できるようになったかなと思います」

 そう語った松生は、いかに活路を開いたのか?

【経験が次につながる実感】

 2年前の全日本後、言葉を絞り出す松生の姿は痛々しく映るほどだった。

「去年(2021年)はケガ、今年(2022年)は体調不良で......スケートとは別のところで滑れないというのはすごく悔しくて。たとえば、ジャンプの崩れだったら練習でもとに戻せるんですけど、その練習もできなくて」

 当時、松生は意気消沈した様子で話していた。忸怩(じくじ)たる思いを抱えていただろう。しかも、その苦痛は思った以上に長く続いた。

 今シーズンも、開幕直後は不安もよぎったという。

「シーズン入ってもフリーはノーミスできないって思うくらい、体力的にキツくて。練習でもノーミスできなかったので、不安はありました」

 彼女はそう明かすが、戦いを重ねるなか、演技に自信がついた。今シーズンはGPシリーズに出場すると、スケートカナダで2位、フィンランディア杯でも2位につけた。どちらも、フリーで大きく順位を上げた形だった。そしてGPファイナル出場権も得た。

「経験してきたことは次につながるって実感して成長できたシーズン。出てきた課題を見直して、演技に反映できるようになりました」

 松生は言うが、スケートと丹念に向き合うことで、おのずと結果につながったのだろう。一朝一夕ではなかった。しかし苦闘の日々自体が、彼女を着実に強くしたのだ。

【大舞台で披露した質の高いスケーティング】

 SPは70・79点で大台に乗せた。3本のジャンプをすべて降り、スピン、ステップとすべてレベル4だった。GPシリーズで苦戦していたSPで、国際スケート連盟非公認ながらシーズンベストスコアを達成だ。

「ショートはノーミスの演技できて、感謝の気持ちがあったからこそ、伸び伸びと滑れたと思います!」

 松生は少し弾むように言う。実直な人柄が、誠実なスケーティングと符合する選手だ。

 フリーでは『Lux Aeterna』で「永遠の光」を表現している。銀色のような衣装でストーンをきらめかせ、序盤からループ、ルッツ、フリップ、アクセルとコンビネーションを含めて、次々にジャンプを成功させた。力みがなく、颯爽とした滑りで、引力のような表現力があった。演技構成点は66.85点と3番目に高く、スケーティングの質が評価される彼女の面目躍如だ。

 ただ、最後の3回転サルコウが2回転になってしまい、得点はあと一歩、伸びなかった。

「フリーでノーミスできなかったのが悔しくて。フィンランド大会でもサルコウだけ失敗し、練習でも同じミスをしていたので......不安に感じていたのもあったのかもしれません」

 松生は、柔らかい口調に無念さを滲ませた。

「これを跳んだらって気持ちだったんですが、そこだけ平常心になれない部分が出てしまったと思います。失敗するかもしれないって慎重になりすぎたのか、考えすぎてタイミングがずれちゃったのかもしれません。ひとつ壁を越えられたんですけど、最後の最後で完璧な演技ができないのが、今の自分の弱さ」

【トップを見るとまだまだ足りない】

 彼女は自らを責めたが、「復活」を告げる大会になったのは間違いない。

「私は悔しい気持ちでいっぱいだったんですけど、(山田満知子)先生から『完璧とはいかなかったけど、(山下)真瑚ちゃんも、(和田)薫子ちゃんも、みんな良い演技だったよ。ありがとう』って言ってもらえて。最終グループに残れたのはうれしかったし、なかなかできなかったことなので、この経験をまた次に活かせたらなって」

 松生は惜しくも表彰台を逃したが、その経験も次につながるのだろう。ひと足飛びではないスケート人生で、身につけられるものもある。その点、実は彼女はフィギュアスケートに愛されていると言える。

「GPシリーズで表彰台に上がったり、全日本で最終グループに入ったり、少しずつ成長できていると思うんですが。トップを見るとまだまだ足りないって感じるシーズンでした。これではダメで、来年も成長し続けないと!」

 松生は言う。スケートと対峙し続ける。その真剣さが、彼女の人生を導くはずだ。来年2月、韓国・ソウルで行なわれる四大陸選手権の派遣選手に選ばれている。