東京2020オリンピック・パラリンピックの影響もあり、ボランティア文化にポジティブな変化が見られる昨今の日本。ボランティアに対するイメージは、以前のような「奉仕」から、「充実」「やりがい」「楽しい」といった印象に変わってきているようだ。また…

東京2020オリンピック・パラリンピックの影響もあり、ボランティア文化にポジティブな変化が見られる昨今の日本。ボランティアに対するイメージは、以前のような「奉仕」から、「充実」「やりがい」「楽しい」といった印象に変わってきているようだ。また、障がいのある人も参加できるよう機会確保と工夫がなされるなど、ボランティアのあり方自体も広がりを見せている。

パリ2024オリンピック・パラリンピックでは、ボランティアの応募が30万人以上あり、実際に4万5000人が活躍したという。彼らの活動内容や、大会のボランティア活動が残したレガシーなどについて、パリ2024オリンピック・パラリンピック組織委員会ボランティア運営ディレクターを務めたアレクサンドル・モレノン=コンデさんにお話を伺った。

※本シリーズ「パリ2024大会とボランティア」は、日本財団ボランティアセンターとのコラボレーション企画です。

※本記事の内容、所属、肩書は2024年10月取材時のものです。

ボランティアはフランス人のDNA。子どもの課外活動やスポーツ大会に不可欠の存在

ボランティア参加者はおよそ4万5000人で、最終的な数字は今後正式に発表される予定です。特筆すべきは、オリンピックとパラリンピックの両方に参加したボランティアが多かったことです。パラリンピックのボランティアスタッフの半分以上が、オリンピックでも活躍していました。

フランス全国はもちろん、外国からもなんと150の国から参加者が集まりました。男女比はほぼ同率、全体の約5%は障がいのある人たちです。年齢層はさまざまで、一番の年長者は94歳の女性で、16歳の若きボランティアもいました。

連日、多くの観客でにぎわった会場。その運営にボランティアも活躍した ©Haruo Wanibe/PK

さまざまな要因があると思います。まずはフランスの文化としてボランティアが根付いていること。たとえばスポーツイベントなどでは、300万人程度が何かしらの形でボランティアとして活動しています。フランス人のDNAに刻まれているということでしょう。

そしてもちろん、パリ大会が開始前から注目され関心を集めていたということ。応募の半分以上が外国からでしたが、これには本当に驚かされました。フランス国内からたくさんの応募があることは予想していましたが、外国からの応募殺到は想定外。ボランティア募集については期間も短く、海外メディアでの発信も派手なものではなかったにもかかわらず、これほど集まったのは本当に驚くべきことです。150カ国以上、北米や中米、オーストラリアといった遠方の国からも応募が来ました。まさに大成功と言えるのですが、選考はその分、とても大変なものでした。

多様なメンバーがチームワークよく活動するのがオリンピック・パラリンピックのような国際大会の特徴の一つだ

フランスでは、約2000万人が1年のうち何かしらの奉仕活動に関わっていると言われています。スポーツ、文化活動、社会奉仕など分野はさまざまですが、特に子どもたちのスポーツの課外活動や大会にボランティアの存在は不可欠で、ボランティアがいなければ運営が成り立ちません。それが先ほどもお話ししたDNAということ、文化に深く浸透しているということです。

今回のパリ大会では、フランス中、世界中からボランティアが集まってきました。大会を通じて、奉仕という枠を超え、チームとして一丸になって素晴らしいことを成し遂げられるという証明ができたと思います。

実は、今大会で採用されたボランティアの多くが、ボランティアをするのは今大会が初めてという人たちでした。プロジェクトの段階から、なるべく多くのボランティア初心者を採用したいという思いがありましたから。大会が終わったあと、私のもとにはたくさんのボランティアから「今後もボランティア活動を続けたい」といううれしい声が届きました。

フランスには「JeVeuxAider」という、ボランティア参加希望者と団体をつなぐ国営のポータルサイトがあります。今大会のボランティア参加者たちに、彼らの情報をこのサイトへ引き継いでもよいか尋ねたところ、多くの人々がイエスと答えてくれました。

パリ市庁舎前で活動するボランティア。競技場外でも多くのボランティアが観客を迎えた
多様性とインクルージョンを体現したパリ2024大会のボランティア

ボランティアは大会の顔と考えています。選手を空港で最初に迎えてくれるのも、各国メディアのアシスタントをしていたのもボランティアスタッフでした。いわば大会の「大使」です。世界から訪れた観客は、スタジアムで目にしたボランティアたちの姿を一生記憶に留めることになるでしょう。そうした意味で、ボランティアは「大会の魂」そのものと言えると思います。

ちなみに前大会まで、ボランティアのユニフォームには大会テーマカラーに沿った色が一般的に使われていました。しかし今回のパリ大会のユニフォームは緑系で、これは大会メインカラーであるピンクの補色となる色です。あえて違う色なのでボランティアはよく目立ちますし、まさに大会のアシストをした存在、アイコニックな存在になりました。このユニフォームと帽子は一般にもとても好評で、在庫を販売したときも大行列ができるほどでした。

パリ大会を象徴するカラーに彩られたユニフォームを身につけたボランティアが、街のあちこちで活動した

募集を開始する前に、国は「3000人の障がいのある人をボランティアとして採用する」という目標を立てており、実際にもそれに近い数字となりました。

パリ大会では、障がいのある人の支援を行っている多くの団体と連携しました。目指したのは、さまざまな種類の障がいのある方に活躍してもらうこと。実際に21の団体がボランティアプログラムに協力してくれました。

募集の段階から、記事を知的障がいのある方にもわかりやすいように簡潔に書いたり、動画、ポッドキャストでは手話やテロップをつけるなど、さまざまな方法を用いました。そして実際にボランティアに応募してくれた人に連絡をとって、どういった設備が必要なのか、ニーズを聞きました。ボランティアとして、最初から最後までミッションを成し遂げられるようにと考えたのです。

具体例を挙げれば、パリ2024大会のパートナー企業であるトヨタが車を提供してくれたのですが、ある車いすユーザーがボランティアとしてドライバーを務めるにあたって、専用の車を準備してもらいました。

車いすユーザーのボランティアも活動し、大会をサポートした

多様性を考慮した内容の研修です。ある国、ある文化では自然なことが、他の人にとっては必ずしもそうではないということがあります。例えば、ちょっとした腕や手のジェスチャーは、国によって意味が違いますね。世界から観客を迎えるにあたって、何に気をつけるべきかなどのコツを学びました。同様に障がいのある方に対しては、例えば車いすと同じ視線になるようボランティアも低い姿勢をとるということであったり、また、障がいのある人と話すとき付き添いや通訳の方に対して目線を合わせてしまう人がいますが、そうではなくちゃんと本人に向かって話しかける、といった心がけを説明する研修もありました。

「ボランティアを続けたい」。貴重な経験と絆を胸に未来へ

私自身も毎日色々な会場に行き、ボランティアたちと行動を共にしました。私が感じたのは大きな喜びと感謝の気持ちです。大会の会場はすばらしい雰囲気に包まれていました。ボランティア同士の一体感はもちろん、選手、観客とも積極的にコミュニケーションをとり、拍手、ダンスなどで大会を大いに盛り上げてくれました。

ボランティアはみんな笑顔で活動し、自分たち自身が大会を楽しんでいる雰囲気にあふれていた ©Haruo Wanibe/PK

個人的にもたくさんのボランティアスタッフと話す機会がありましたが、皆口々に「この素晴らしい経験をする機会を与えてくれてありがとう」と言ってくれました。しかしお礼を言うのはこちらのほうなのです。運営側の予想をはるかに上回り、最高の雰囲気を作り上げてくれました。私もこの経験を一生涯忘れることがないでしょう。

選手たちはみんな異口同音に、ボランティアたちの献身や日々のサポート、その笑顔に支えられたと言ってくれました。

ボランティアたちとのやりとりでは、とても印象深い言葉があります。大会終了後に、ボランティアプログラムに関する動画を制作したのですが、その動画を締めくくってくれたあるボランティアの女性の言葉をそのまま引用しましょう。

この言葉はとても深く私の心に残りました。ボランティアたちはそれぞれ異なる場所から集まり、知らない者同士が1つの目標に向かって力を合わせました。その経験と得られた絆は何にも変えがたく、まさに我々がこのボランティアプログラムを通じて作り上げたかったものだからです。

©Haruo Wanibe/PK
白熱する競技の合間で、モップをかけてコートの状態を整えるボランティア。彼らの活動なしでは選手たちの活躍の舞台は成り立たない ©Haruo Wanibe/PK

まず1つ目は、このオリンピック・パラリンピックを盛り上げてくれたということでしょう。大会期間中、選手、観客、すべての人々が幸せな祝祭の中にいて、まるで時が永遠に止まったかのようでした。ボランティアたちは人々を笑顔にし、忘れがたい思い出を残してくれました。

2つ目は先ほどお話ししたように、今回の参加者たちが、この先もボランティア活動を続けていきたいと思っているということです。加えて、今回は応募しなかった人々も、大会を見てボランティア活動を前向きにとらえ、今度は自分も挑戦しようという気持ちになっているはずです。

今回のボランティアプログラムはその多様性を示し、そしてそれがうまくいくことを十分に証明しました。異なる国や文化、年齢、社会のカテゴリーなど違いがある人々が集まって、それぞれの役目に邁進し、力を合わせて大会を成功に導きました。

ボランティアで培われた経験がさらに意味を持つようにと考えて、国やパートナー企業と協力しながら、パリ大会のボランティアに参加したことを証明するデジタルのバッジ(証明書)を全員に発行しました。ほかのボランティア応募や、将来の就職活動などでのアピールにつながるでしょうし、彼らの高い能力を、ほかでも活かしてほしい、未来につなげてほしいと考えています。

パンフレットなどの配布ブースで活動するボランティア。ここで接した子どもたちの体験が、未来につながっていくはずだ

「DNA」と例えるほど、ボランティア文化が根付いているフランス。パリ大会ではフランス国内に留まらず150カ国から参加者が集まり、ボランティア活動における出会い、仲間との一体感、エネルギー、絆、といった生涯忘れない貴重な体験を得たことが、アレクサンドルさんの言葉からも伝わってくる。社会を支え、また人生にかけがえのないものをもたらすボランティア。フランスでこれからどのように盛り上がっていくのか、同じくオリンピック・パラリンピックを経験した日本からも注目したいところだ。今大会のようなストーリーが伝播するにつれて、日本国内でも今後ますますボランティアが盛り上がりを見せていくのではないだろうか。

text by Yuka Miyakata(Parasapo Lab)

photo by Haruo Wanibe